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ひかりひらり  作者: 沙φ亜竜
第5章 月夜に照らされ咲く花に
27/34

-3-

「今度こそ終わりだ! 観念しろ、月夜深!」


 船長が再び月夜深に飛びかろうとする。

 でも……。


 ズシャッ!

 嫌な音が響き、赤い飛沫が飛び散る。


「うっ!」

「ふふふ、詰めが甘いですね!」


 月夜深が船長の腕をナイフで切りつけたのだ!

 呆然と立ち尽くす船長を尻目に、迷うことなく走り出し一気に部屋を出る月夜深。

 置き土産とばかりに、奴の手から放たれたなにかが部屋に転がり込む。

 それが地面に落ちると、即座に大量の煙が舞い上がった。


 ナギさんもサザナミさんも、そして僕も、月夜深を追いかけようと煙で見えない中を走り出した。

 その足に、倒れていた黒ずくめがつかみかかってくる。


「くそっ! 離せ!」


 蹴散らそうとしても、黒ずくめは力を緩めたりはしなかった。

 最悪の事態となった場合には、月夜深を逃がすための取り決めでもしてあったのだろう。

 それに、舞い上がったのはただの煙ではなく催涙弾だったようだ。

 痛みで目を開けられなくなった僕たちには、月夜深を追うすべなんてありはしなかった。


「船長!」


 煙が収まって視界が回復すると、ミヤコさんが切りつけられた船長に駆け寄る。

 同時に、明灯さんもずっと倒れたままの理星さんに駆け寄った。


「俺は大丈夫だ。それより月夜深を……いや、もう無理だろうな……」


 血の滴る腕を押さえながらつぶやく船長の顔は、切られた傷の痛みよりも、悔しさによって歪んでいるようだった。



 ☆☆☆☆☆



「船長、いったいこれは……」


 黒ずくめを縛り上げた僕たちは、事務所の大部屋のほうへと移動していた。

 さすがに社長室では狭かったからだ。


「ミサキ、だいたい予測はついているんじゃないか? まぁ、ちゃんと話しておこう。俺たちの会社、ギャラクシーローズは、中央政府から魔王石の管理を任されている団体のひとつだ」


 ミヤコさんとイズミに傷の手当てをしてもらいながら、船長は語り始めた。

 ミヤコさんが傷口の消毒などをして、イズミが器用に飛び回って包帯を巻いていく。

 傷を癒す魔法も存在するのだけど、それは聖職者が扱う魔法。イズミが使う魔法とは系統が違うのだ。


 なお、すぐ横には理星さんも寝かせられている。気を失っているだけで、とくに心配はいらないらしい。


「ギャラクシーローズを初め、いくつかの団体が協力して、ファイブナインズの秩序を守るための活動をしている。中央政府から任務を受け、ファイブナインズ各地の自治を任せられている組織だ。便宜上、それを自治政府と呼んだりもする。当然ながら、一般に知られているわけではないが。

 宇宙の至るところに散らばったファイブナインズ世界を、完全に統一することまではできない。それでも、人のいる場所には犯罪が起こってしまうものだ。それを抑制するためには、犯罪を裁く組織の存在が必要だと考えた。

 とはいえ、表立って制圧してしまうことまではできなかった。犯罪というのは人が決めるものだ。世界が違えば、その考え方も変わってくる。

 宇宙の中には様々な価値観があるからな。それらをひとつに無理矢理統一してしまうことは、単なる独裁支配でしかない。

 ファイブナインズは、宇宙の広い世界へと飛び出したことにより、広い視野を持って慎重に考えなければならない義務を強いられたのだ」


 長々と語り続けていた船長は、ここでひと呼吸置く。

 そして再び、言葉を続けた。


「月夜深は、ムーンナイトフラワーという組織に所属している」


 聞いたこともない名前だった。


「まぁ、そうだろうな。表向きは、魔法を研究する団体ということになっている。その研究によって得られた有用な魔法もある。それ自体は各方面から認められているのも事実だ。しかし、その一方で裏の活動もしていた。

 それが主に資金難から来るものだというのもわかってはいた。もっとも、ムーンナイトフラワーはある程度認知され始めている研究団体で、それなりに援助・助成金を申し出る組織や企業なんかもあった。だが、それでも全然足りなかったというのが実情なのだろう。

 そこで手を出したのが魔王石だった。もともと魔法研究のために、魔法石を掘り出す作業は日常的に行なわれていたのだから、偶然にも見つけた魔王石を裏ルートに流すのは、さほど難しいことではなかったと思われる。

 この惑星では魔法の力を持つ者はいないようだが、宇宙全体として見れば魔法の力は一般的になっている。そんな中で、不安定で強大なマナの力を宿した魔王石の存在は危険だった。扱い方を間違えれば簡単に大爆発を起こすような物を、無闇に市場に流すわけにはいかない。

 そういった理由で、しっかりとした管理機構を整備して危険を排除しようと中央政府は考えた。しかし、それに従わない連中がいたのも事実だ。危険があるとはいえ、魔王石の力は強い。どんなに大金を積んででも欲しいという団体は、宇宙にはいくらでもあった」


 それに立ち向かっているのが、ギャラクシーローズを初めとする自治政府なのだという。

 そんなこと、僕はまったく知らなかった。

 いや、僕だけじゃなく、船長とナギさんを除く船員たちは誰も知らなかったらしい。

 今日のこの突入の前に、初めて聞いたようだ。


「この事務所に出入りしたり、外から見張ったりしていたのは、月夜深さんをマークしていたからなんですね?」


 僕のつぶやきに、船長は頷いた。


「ああ、そうだ。最初にこの惑星に来た際、俺とナギが別の仕事で出かけただろう? あれは実は、この惑星にサーチシステムの中継点を設置するためだったんだ。ほとんど準備はできていて、最終的に必要な部品を俺とナギで運んでいった感じだったがな。それらを設置して初期設定を済ませば、すべては機能し始めるはずだった」


 一瞬遠い目をする船長。


「だが、そのときから月夜深たちの計画は始まっていたんだな。サーチシステムを広範囲で無効化する装置が、奴らが魔王石を採掘していた丘付近に設置されていたようだ。その効果範囲はサーチシステムを設置した町の中にまで及んでいた。中継点の異常に関する調査も今回の仕事の一部だったのだが、正常に機能していないことに長いあいだ気づかなかったのは、油断しきっていた我々のミスだな」


 失敗した。

 苦々しく吐き出された船長の言葉を、ナギさんが継いで話し始めた。


「事務所の外から見張っていたというのは、私のことを言っているのだろうが、私が見張っていたのはミサキだった。……いや、見張っていたというのは違うか。様子を見に来ていたんだ。もちろん月夜深や優陽さんもマークしてはいたが、私にとってはミサキのほうが気がかりだった。船長には止められていたのだが、どうしても気になってね」

「まったく、ミヤコやサザナミさんもそうだが、みんな甘いからな」


 船長は、そう言いながらも笑っていた。


「でも、船長はいろいろと知っていたんでしょう? それに、優陽さんは……」


 優陽さんは、さっきから黙ってうつむいている。

 僕はずっと気になっていた。

 さっき月夜深が言っていたとおりなら、優陽さんも奴らに加担していたことになる。そうなれば、タダでは済まないだろう。

 その場合、明灯さんや陽和はどうなってしまうのか。それが気になって仕方なかったのだ。


 そんな僕の思いが伝わったのだろう、船長は優しい瞳で答えてくれた。


「それは大丈夫だ」


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