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「おい! なにをしている!?」
声の主は、優陽さんだった。
しまった! 石に集中するあまり、戻ってきたことに気づかなかったのだ!
帰ったはずなのに、どうして戻ってきたんだよ!
「説明してください!」
僕が優陽さんに弁明の言葉を述べるより先に、陽和が叫んでいた。
「えっ? いったいなにを……。むっ、それはなんだ!?」
「優陽さんの机から出てきたんですよ。もう、しらばっくれないで白状してください! これって、盗品かなにかですか!?」
僕は鋭い目線を崩さないようにしながら、優陽さんにたたみかける。
その勢いにたじろぎながらも、僕が持っている石を見据える優陽さん。
「それは……魔法石か? なんでここに」
「これがすぐに魔法石だとわかったってことが、なによりの証拠ですね」
以前イズミが言っていたように、この惑星には魔法使いはいない。だから、この惑星のほとんどの人は、魔法石のことなんて知らないはずなのだ。
ファイブナインズの人々が立ち寄ることもある惑星ではあるし、どこかから知るという可能性もないわけではない。
それでも、単純に宝石として考えれば、くすんだ色をした魔法石には高い価値は出ない。魔法を使う手助けになるからこそ、値打ちがあるのだ。
「いや、それは……」
優陽さんは明らかに動揺している。
「しかし、それを私が隠し持っていたと思っているみたいだけど、それは違う!」
この期に及んで、まだしらを切るのか。
そう思って睨みを利かせていると、その声を聞きつけたのか、さらなる人影が部屋へと踏み込んできた。
「あれ? 陽和にミサキさん? なにしてるの?」
それは明灯さんと理星さんだった。
「どうして、あなたたちまで戻ってくるんですか……」
「だって、まだ仕事が残ってるから。夕飯を食べに行ってただけだし。ねぇ?」
理星さんが、少し動揺しながらも答えてくれる。
いったいなにが起こっているのかわからないはずだから、動揺するのも当たり前だろう。
僕が優陽さんを睨みつけているという状況に対して、怯えていただけかもしれないけど。
それにしても、夕飯だったとは。
忙しい時期だと話していたのだから、それも充分にありえると想像できなかったのは、完全に僕たちのミスだ。
焦っていたとはいえ、状況判断の甘さを痛感する。
優陽さんは、まだ魔法石に目を凝らしていた。
「それはなんなの? くすんだ色だけどそれなりに綺麗だし宝石? だとしたら、すごいよね、そんなに大きいし……」
よく状況のわかっていない明灯さんが、目を丸くしてつぶやいている。
その反応は、芝居ではないだろう。
一方、理星さんのほうは、さっきからやけにおろおろしているようだった。
普段は落ち着いた感じなのに、いざというときにはパニックになって役に立たないタイプの人なのかもしれない。
ともかく、僕は優陽さんの睨み続けながら、責め立てる言葉を続ける。
「優陽さん。明灯さんのためにも、もう諦めてすべてを話してください……」
その訴えにも、優陽さんは主張を曲げはしなかった。
「いや、確かに魔法石については知っているし、通常ここにあるような物じゃないというのもわかっている。でも、僕には本当にわからないんだよ」
……まだ、そんなことを……!
でもどうしても、優陽さんが嘘をついているようには思えなかった。
なぜだろう? こうして証拠の品まであるというのに……。
おろおろおろ。
不自然なほどに動揺している理星さん。
どういうことだ? もしかして……。
そこまで考えたとき、新たな人影が社長室へと入ってきた。
その人影は落ち着いた口調で、不思議そうに見つめている僕たちに向けて、こう言い放った。
「やはり、この人では役不足だったというわけですね」