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第一幕「人形」
僕は人形に恋をした。
美しい人形。
彼女は。
笑うこともなく。
泣くこともなく。
怒ることもなく。
痛むこともなく。
苦しむこともなく。
寂しがることもなく。
悲しむこともなく。
喜ぶこともなく。
彼女は、けっして微笑むこともなかった。
彼女は、いっさいの感情を失くしていた。
いや。
彼女には。
あらゆる感情が。
初めから存在していなかった。
それは、まるで。
人ではなく。
感情のないもの。
人の姿をしたモノ。
人の形をしたモノ。
そう。まるで。
人形のように。
でも、僕は。
僕はそんな人形に恋をしたんだ。
初めて彼女と出逢ったのはいつだったのだろう。
そう。
あれは、冬。
この夜の街に。
初雪が降った日。
とても寒い夜だった。
そんな夜に。
僕は君と。
僕は人形と出逢ったんだ。