000:プロローグ
SNSに投稿しているイラストの設定説明のような小説になります。
◆
先生、あのね。
死ぬのが怖いんじゃないの。
先生が独りになるのが、怖いの。
この何も居ない世界で、たった独り。
生きてるものは、先生だけ。
誰が先生に寄り添ってあげられるの?
先生に何をしてあげられるかな?
残り少ない時間で、先生に何をあげられるかな?
先生は泣いてくれる?
泣かないかな、もしかして。
なんちゃって、そんな事言われても困るよね。
ねえ、人間らしく生きられたかな?
人間みたいに生きられたかな?
もしそうだったら……嬉しいな。
あーあ、楽しかったなぁ。
楽しくって……もっと生きたかった。
なんて、うそうそ。満足だよ、ずっと。
ねえ、先生。
……あのね。
先生。
起こしてくれて、ありがとう。
◆
夢を見ていた。
見知らぬ土地、見知らぬ空、見知らぬ人。
あたしの住んでいる、自然だらけの田舎村ではない、建物でいっぱいの場所。
とても高い……、石造りのような建物の屋上で。
知らない誰かと、知らない誰かが、とても大事な話をしている。
そんな、夢を。
「…………で、あるからして、我らが帝国の歴史は常に戦勝国として戦に勝ち続けてきた背景があり、広大な領土を有しているという訳だ」
「……ぐぅ」
「何か質問は…………、…………アンナ?」
「ぐう……すや……すや……」
「………………………………」
「むにゃ……。むにゃむにゃ……」
「我らがソディア帝国は大陸の北西地帯に領地を構える帝政国家である。領地内には漁村もあり、多くの農村を抱えているため別名“美食の国”とも言われる。名産品は異名の通り美味な料理の数々。胡椒の栽培方法を独占しており、他国に高値で売りつけてるので金持ち国家だ。そのため帝国から遠い地域では輸送代も嵩み“胡椒一粒は同じサイズの金と同じ値段になる”とさえ言われているけれど、肝心の胡椒の名産地である帝国ではどんな料理にも胡椒をブチ込むので帝国民はまた胡椒味か、と辟易している面もある。しかし旅行者がこぞって帝国料理を食べに来て、これがウワサの胡椒の風味か~美味いな~。とホクホク笑顔で堪能するためなかなか辞められない。哀れ帝国民。領地が広いのは歴代皇帝が戦争で領地拡大を図る政策を取ってきたからであり、現在は滅多なことでは宣戦布告はしないけど、過去の所業から蛮族国家だの戦争国家だの陰口を叩かれている。しかしてその実、今も富国強兵は続けており帝国騎士団は精兵で知られるのであんまり否定できないのである。武力は大事だから仕方ないね。全世界に広がる“傭兵組合”の本部が首都にある。その功績により“世界の治安を護る国家”との呼び声も高い。要するに平たく纏めると、良くも悪くも話題になりやすい国なので」
「う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛………………」
授業中にガッツリ夢を見ていたら耳元でものすごい情報量を流し込まれてしまいました。
思わず飛び起きたけど、いつもながら居眠りに対する反撃が鋭すぎるのはやめてほしいと思いました。
◆
突然だけど、うちの村には私塾がある。
うちの村みたいに農村をやっていて、帝都に食料を供給するような大事な役割を担っている村には、専属の魔導師さんが派遣される、って先生が言っていた。
その魔導師さんが善意であたしみたいな村からロクに出たこともない、算術もあまりできない子のために、私塾を開講してくれたのだ。
ちなみにあたしは半年前に16歳になり、お母さんから“そろそろ一般常識も学んだほうが良い”と言われたので、私塾は出来て半年。出来たてホヤホヤというわけになる。
「全く、アンナは本当に座学が苦手だな」
そう言って肩をすくめるのは、先述の魔導師さんである、ミナカミ先生。
あたしが生まれた頃には既にうちの村に派遣されてきている熟練の魔導師さんであり、とても優秀なのだと村の人がみんな噂している。
反面、先生は常にローブのフードを目深に被っていて、顔もまともに見えない上に、きっちり手袋までしていて肌が見える場所が殆どないと言って良い服装をしている。
そのせいで先生は、村の外に出るとすぐ不審者扱いされてしまう。
魔導師さんの総本山である、“魔導研究局”では、そんな人珍しくもない、なんて先生は言うけど、本当だろうか。
いつかその影に隠れたフードの下を拝んでみたいものだと思う。
「……聞いているかな?」
考えにふけっていたら、先生に怪訝な声でニラまれてしまった。
「あ、うん、ごめん。まだちょっと眠くて」
「なんでも正直に言えばいいってものじゃないぞ」
すいませんでした。
「では、歴史の教科書の2ページ目、一行目から。もう一度音読してもらおうか」
「うへー」
先生も言っていた通り、あたしはこうして本を読んだり、あれこれ読み聞かせされるのがニガテである。
小さい頃から農作業ばかりしてきたので、外で遊んだり、体を動かしたりするほうが好きなんだ。
そういうあたしに配慮して、教科書もわかりやすい文字で書かれているけど、読むのがニガテなのはニガテなので、めんどくさいったらありゃしない。
でも読まないほうがもっとめんどくさいことになるのでしょうがなく読むのである。
とほほ。
「えー……っと、わがソディアていこく、りょうないに、いちする、わがむら、のうそん“アゼ村”は、しゅとスキャバードに、ほどちかく、しゅとのしょくりょーきょーきゅーに、こーけんしており……」
歴史の教科書の最初の方は、うちの村に関することばかり書いてある。
そんなこと、一々読まなくても昔から知ってるから別にどうでもいいのに、先生は“キソが大事”とばかり言っているので、あたしはげんなりしてしまう。
うちの村──アゼ村は、街道が首都から繋がっているけど、移動するには馬か馬車が必要なくらい離れていて、田舎と行っても良い場所にある。
主にやっていることは、畑で食べ物を作っては帝国に納めること。
村のみんなは誰もが農作業をして働いており、少なくとも働き手がないってことはあたしは知らない。
そういうすらすら言えるような事をわざわざ本に書いて、こうして読まされるのは、ニガテだとしか言いようがないのだ。
「……で、しゅとと、おもにきんせんで、やりとりをしている。……以上です」
「はい、良く読めました」
「ゔぁー」
思わず机に突っ伏して、変な声を上げてしまう。
先生が言うには“改めて文字を読み上げることで、知識はより深まるものになる”というけど、そこんとこがよくわからない。
知ってることを知ってる通りに口に出して、何かが変わるのかなぁ?
頭がいい人の考えることは、まだまだ全然わかりそうもないのであった。
◆
「じゃ、まずは素振り1000回」
「はーいっ!」
座学のあと、少しの休憩を挟んで、実技の授業に移る。
塾の表にある中庭で、槍術の稽古だ。
なんで槍術かというと、農作業をする時に、よく長い農具を使うので、慣れ親しんだ長物を使うほうが手に馴染むから、らしい。
実際のところ、剣を握るよりあたし自身なんとなく向いている気もする。
稽古用に全部木で出来た木槍を、上段に構えて、振り下ろす。
これを何度も繰り返す。
小さい頃から農具を振り回していたあたしは、その程度なんなくこなしてしまう。
特にこれそのものが何かの鍛錬になるとかではなく、先生曰く“うぉーみんぐあっぷ”だそうだ。
意味は良く知らないけど、やるといいらしいのでやっている。
そんなもんだと思う、多分。
「999、1000っ! はい終わり!」
「よし。では次はランニング。100周」
「うおー!」
適度な速度で走る先生(何故か笛をリズミカルに鳴らしている)に追従して、中庭をぐるぐると円上に走る。
こうしてかけっこだったり、走り回ったりするのは好きだ。
身体を動かしていると、こう、内側から体力が溢れんばかりにでてくるような、気分がよくなる。
その感覚が好きなのだ。
「はい私を追い抜かない」
おっとっと。
油断すると速度が出てしまうけど、先生が言うには適切な速さで走るのが大事なんだそうだ。
ガーッ、と走って、バーッ、と疲れる。じゃ、ダメなんだろうか?
ダメなんだろうな、多分。
「100周ーっ!」
「お疲れ」
先生はそう言って水筒を手渡してくる。
いつもそうだが、運動する時は水をよく飲まないといけないそうで、先生は節目節目ですぐ水筒を渡してくる。
おトイレが近くなっちゃうんじゃないかな? と思うんだけど、案外そうでもない。
不思議でしかたない。
その事を尋ねたら“まだ早い”と言われていつか座学で教えると約束されてしまったのを覚えている。
どうせ難しいことなんだろう、難しいことなんだろうな。
そうして水筒の中身を飲み干し、小休憩を入れたら、本格的に実技の訓練に入る。
木槍を構えて、突きの姿勢。
正しい姿勢で、巻藁に向かい、狙いを定めて、外さないように──、突く。
外した。
「ありゃ」
「ありゃ、じゃない。体幹と重心がブレているぞ、もっとしっかり腰を下ろしなさい」
「はーい……」
言ってもあたしはまだこうして木の槍を握ってまだ大した時間も立ってないのであるので、腕がなっちゃいないのはしょうがないのである。
今後のためにも、何度も反復練習をするしかないと言われたので、そうするしかないのである。
ないったらないのである。
巻藁くんを目掛けて、突いて突きまくれ。
◆
実技の次は座学が待っている。無情である。
毎日違う授業を習っていて、今日は初めて魔導に関するあれこれを教えてもらう日だ。
座学がニガテなあたしだが、魔導はちょっと興味があるので、いつもより気分が上向きになっている。
あたしが席につくと、先生は教科書を開き、姿勢を正す。
「さて、と。まずは何から教えたものかな」
「バーン! ドカーン! って派手な魔導から!」
「いきなり素人がそれをやると、死ぬよ」
「えっ」
……期待と違ったんですけど?
「まずは……そうだな。魔導の成り立ちから教えようか」
「ウエー」
なにかと思えば歴史の授業から始まることになってしまった。
そういうの苦手なんですけど、と言っても先生は止まってくれるはずもないだろう。
まずは、という言葉を信じてここは聞きの一手に回るしか無い。
「とりあえず……、“マナ”については知っているかな」
「そのくらい知ってるよ。空気中にあって、生き物の身体の中にもある……えーっと、細かい……」
「微粒子」
「そうそれ!」
マナ。
一般常識に疎いあたしでも知っている、魔導文明を根っこから支える大事なもの。
超自然的なエネルギーとされていて、火をつけたり、水を綺麗にしたり、電気を流したり……、色々な分野に使われている。
「魔導はこのマナを用いて行使する術ということになる。魔導、魔術、魔法、魔道。地方や方言によって表記揺れがあるけれど、魔導で一括りにして大丈夫だ。
世界を巡る大気に遍く偏在する微粒子。魔導を行使する際に必要なエネルギーとなる物質。それがマナだ。一粒一粒は肉眼では目視できないほどに小さい、まさに“微”粒子だな」
先生の言う通り、マナは目に見えないエネルギーではなく、特別な道具を使えば見ることが出来る、とても小さな小さなカタマリであるらしい。
と言っても、実際に見たことはないんだけど。
「そして、マナは異なる物質に結合する性質を持つ。大地に、草木に、そして、生命体に……、我々の体内にも無数のマナが含有されている。肉体を構成する組織と結合してな」
つまり、あたしの身体の中にも、マナは流れていることになる。
確か、血が運んでいる……とか、なんとか、昔聞いたことがあるような気がする。
そこんところも今度授業で教わっていくことになるんだろう。
「古くなった組織は排泄物として糞尿や垢として排出されるし、それらに結合していたマナも同時に排出される。
生命体は極端に含有マナが欠乏すると、マナ欠乏症という病気に罹り、放置していると衰弱死する。
しかし、心配は無用だ。人々が日々摂取する食事にもマナは含有している。作物にも、家畜にもマナは宿っているからな。
排泄と摂取。このバランスにより生命体は上手くマナと共存しているというわけだ。まさに、人類種が生きるために無くてはならないもの、だな」
…………ふむ。
つまり……どういうことなんだろう?
いきなりたくさんの知識をギュッと詰め込まれて、頭の中がパンクしそうになる。
「えーと……、つまり、先生もマナで出来てるの?」
自分なりに咀嚼した情報を質問として口に出してみると。
「………………あぁ、まぁ。そのようなものかな」
曖昧な返事が帰ってきた。
先生が口を濁すことは珍しい。
どういうことだろう?
「ところでアンナ、ネックレスは傷めたりしていないかな」
「へ? あ、これ?」
ネックレスといえば、あたしが文字通り生まれたときから付けている、これかな。
先端に綺麗な緑色の宝石がくっついている、こんな田舎には似合わない紐のネックレス。
これ、なんでか知らないけど外そうと思っても外せないんだよね。
呪われているのかな。
「外せない以外は、別に壊れてないけど」
「うむ、ならいい」
……?
なんか話を逸らされたような?
まぁいいか。
そうして一日は過ぎていく。
これが、塾に通うようになってからの、あたしの主な一日の過ごし方だ。
とても楽しい。
塾って良いものだなぁ、とつくづく思う。
◆アンナ
【性別】女性
【種族】祖人
【身長・体重】164cm 52kg
【年齢】16歳
【好きなもの】食事 運動
【嫌いなもの】お説教
【特技】畑仕事
【食事の嗜好】野菜スープ全般
【性格】元気いっぱい
【一人称】あたし
【武器】槍
・アゼ村産まれアゼ村育ちの村娘。農作業の手伝いをしているため農民と言える。
茶色の髪に健康的に日焼けした肌、茶色の瞳を持っている、全体的に茶色い娘。
赤ん坊のころから先端に碧色の宝石のついたネックレスを身に着けている。
なおこのネックレス、呪われていて自力で外せない。
私塾で教えていることは主に槍術と一般常識。
槍術は自己防衛くらいの護身術程度のものを。あと体力づくりの運動。
一般常識は礼儀作法や算術、現代語の世界共通語の読み書き。それと魔導についてもある程度。などの座学。
アンナはアウトドア派なので、槍術の指南や体力づくりである体育の授業は楽しいが、座学は苦手らしい。
◆ケイ・ミナカミ
【性別】見た目と声は男性のもの
【種族】不明
【身長・体重】180cm 68kg
【年齢】不明
【好きなもの】平穏
【嫌いなもの】騒乱
【特技】梅干しを漬けるのが上手い
【食事の嗜好】白湯 果実類
【性格】物静か 老獪
【一人称】私
【武器】杖
・顔が影で覆われるほどに深くフード付きのローブを被り、常に厚着で着込んでいるうさんくさい輩。
ローブはかなり年季の入ったものらしく、裾がズタボロに破けている。
さらに通年で手袋を着用しており、肌が露出している部位は影に隠れた顔面以外どこにもない。
とてもうさんくさい、が、人がよく、とても世話焼き。
安穏とした性格をしており、ほぼ何が起こっても声を荒らげないと言っていいくらい物静か。
暇な時は自宅の縁側で白湯を啜っているか、書物を読みふけっているインドア派。
なお自宅にいるときでもフードは被りっぱなし。うさんくさいことこの上ない。
魔導師として、魔導研究局本部の公認免許を持っており、アゼ村に配属され、そこで治水や上下水道、田水の整備をして仕事をしている。
その関係からか水を操る魔導が得意。
私塾を開講しており、毎日教え子に教鞭を振るうマメな性格。土日と祝日は休校。
好物は梅干し(自作)。




