第8話 『好きすぎて、あなたから逃げるしかなかった』
翌朝。
教室に入った瞬間、違和感に気づいた。
——白雪玲奈がいない。
いつもなら俺の席の横に立っているはずなのに。
距離ゼロで話しかけてくるはずなのに。
今日は、いない。
「……珍しいな」
席に着いても、玲奈は来ない。
教室の隅を見ると、玲奈は俯いたまま座っていた。
俺と目が合いそうになると——
玲奈はビクッと肩を震わせ、視線を逸らした。
「……白雪?」
声をかけようと立ち上がった瞬間。
「来ないで……!」
玲奈の声が、震えながら教室に響いた。
周囲がざわつく。
玲奈は両手で胸元を押さえ、呼吸を乱していた。
「……ごめん……
天城くん……
今日は……無理……」
その声は、泣き出しそうだった。
「白雪、どうしたんだよ」
「……近づかないで……
お願い……」
玲奈は涙をこぼしながら続けた。
「……昨日……
天城くんが……苦しそうで……
私……何もできなくて……
怖くなったの……」
玲奈の声は震えていた。
「……天城くんのために……
何かしたいのに……
全部……空回りして……
私……邪魔してるだけなんじゃないかって……」
玲奈は唇を噛んだ。
「……そんな自分が……
嫌で……
情けなくて……
恥ずかしくて……」
そして——
「……天城くんの顔……
見られないの……」
その言葉は、胸に刺さった。
「白雪、そんなこと——」
「違うの……!」
玲奈は涙をこぼしながら叫んだ。
「天城くんが嫌いなんじゃない……
好きすぎて……
近づいたら……
壊れちゃいそうなの……!」
教室が静まり返る。
玲奈は震える声で続けた。
「……昨日……
天城くんの手……握った時……
胸が苦しくて……
息ができなくて……
このまま倒れるかと思ったの……」
玲奈は胸元を押さえた。
「……こんな気持ち……
初めてで……
怖くて……
どうしたらいいか……分からなくて……」
そして——
「……だから……
逃げちゃったの……」
玲奈は涙を拭いもせず、俺を見た。
「……ごめん……
天城くん……
好きすぎて……
あなたの前に立てないの……」
その瞬間、俺の胸が締め付けられた。
玲奈は震える声で、最後にこう言った。
「……ねぇ……天城くん……
どうしたら……
あなたを好きなまま……
壊れずにいられるの……?」
その問いに、俺は答えられなかった。




