第7話 『あなたのためなら、壊れてもいいのに』
その日、俺は風邪気味だった。
熱は微妙にある。
喉も痛い。
でも、学校を休むほどではない。
……はずだった。
「天城くん……顔色……悪い……」
教室に入った瞬間、白雪玲奈が駆け寄ってきた。
完璧美少女のはずなのに、
その表情は完全に“恋に狂った少女”のものだった。
「……大丈夫だよ。ちょっと寝不足なだけで——」
「大丈夫じゃないよ」
玲奈は俺の手を掴んだ。
その手は、震えていた。
「……天城くんの体調が悪いのに……
私……何もできないなんて……やだ……」
「いや、別に何かしてもらう必要は——」
「あるよ」
玲奈は即答した。
「天城くんのためなら……
私……なんでもできるよ……?」
その言い方が、危うすぎた。
「白雪、本当に大丈夫——」
「大丈夫じゃないのは天城くんでしょ?」
玲奈は俺の額に手を当てた。
「……熱、ある……」
その瞬間、玲奈の表情が“壊れた”。
「……どうしよう……
天城くんが……苦しんでる……
私……何もできてない……」
玲奈は胸元を押さえ、呼吸を乱し始めた。
「白雪、落ち着け——」
「落ち着けないよ……!」
玲奈は涙を浮かべた。
「天城くんが苦しいのに……
私だけ普通でいられるわけない……!」
その声は、完全に理性を失っていた。
「……保健室、行こう」
「行かない」
玲奈は俺の腕を掴んだまま、首を振った。
「天城くんを……誰にも触らせたくない……
私が……連れていく……」
その瞬間、教室の扉が開いた。
「おはよー……って、うわ」
ほのかが固まった。
玲奈が俺の腕を掴み、
涙目で、
呼吸を乱しながら、
俺を保健室へ連れて行こうとしている。
「……白雪さん、それ……やばくない?」
ほのかの声は低かった。
玲奈はほのかを見た。
その瞳は、ほんの一瞬だけ鋭く光った。
「……天城くんの体調が悪いのに……
あなたは……何もしないの……?」
「いや、普通は保健室に——」
「普通じゃだめなの」
玲奈はほのかの言葉を遮った。
「天城くんは……私が守るの……
私が……助けるの……
私が……そばにいるの……」
その言葉は、完全に“独占欲”だった。
ほのかは息を呑んだ。
「……白雪さん……
それ、もう恋じゃないよ……?」
玲奈は微笑んだ。
その笑顔は、完璧美少女のものではなかった。
「……分かってるよ……
でも……止められないの……
天城くんが苦しんでるのに……
私が何もしないなんて……無理……」
玲奈は俺の手を強く握った。
「……ねぇ……天城くん……
お願い……
私に……“必要とされる理由”をちょうだい……?」
その瞬間、俺の心臓は完全に撃ち抜かれた。
玲奈は涙をこぼしながら続けた。
「……天城くんのためなら……
私……壊れてもいいのに……」
その言葉は、
恋ではなく、
執着でもなく、
“崩壊”の始まりだった。




