第5話 『好きすぎて苦しいのに、言えない。だから壊れる』
放課後の図書室。
静かな空気の中で、ページをめくる音だけが響いていた。
俺は宿題を片付けるために来たのだが——
「……天城くん……」
小さな声が聞こえた。
顔を上げると、白雪玲奈が立っていた。
いつもの完璧美少女の姿。
……のはずなのに。
玲奈の目は赤く、まぶたは少し腫れていた。
「白雪……泣いてたのか?」
問いかけると、玲奈の肩がビクッと震えた。
「っ……ち、違……っ……」
否定しようとするが、声が震えている。
涙の跡が隠しきれていない。
「……座っていい?」
玲奈は俺の隣の席を指さした。
距離、30センチ。
「もちろん」
玲奈はそっと腰を下ろした。
その動作が、いつもよりずっと弱々しい。
「……今日……ずっと……胸が苦しくて……」
玲奈は胸元を押さえた。
呼吸が浅く、指先が微かに震えている。
「……天城くんのこと……考えると……
どうしても……涙が出てきちゃって……」
その言葉に、俺の心臓が跳ねた。
「白雪……何があったんだ?」
玲奈は唇を噛み、俯いた。
「……ほのかちゃんが……言ったから……」
「ほのかが?」
「……“普通の好きじゃない”って……」
玲奈の声が震えた。
「……分かってる……
私の気持ち……普通じゃないって……
自分でも……怖いくらい……」
玲奈は涙をこぼした。
「……でも……止められないの……」
その涙は、静かで、弱くて、必死だった。
「天城くんが……誰かと話してるだけで……
胸が痛くて……息が苦しくて……
どうしていいか……分からなくなるの……」
玲奈は袖で涙を拭おうとしたが、
手が震えてうまく拭けない。
俺はハンカチを差し出した。
「……っ……」
玲奈は驚いたように俺を見た。
「……優しくしないで……」
震える声。
「……そんなことされたら……
もっと……好きになっちゃう……」
その言葉は、図書室の静けさに溶けていった。
玲奈はハンカチを受け取り、
そっと目元を押さえた。
「……ねぇ……天城くん……」
玲奈は涙で濡れた瞳で俺を見つめた。
「……私……どうしたら……
あなたに嫌われずに……
好きでいられるの……?」
その問いは、あまりにも弱くて、あまりにも切実だった。
「嫌うわけないだろ」
そう言うと、玲奈の表情が一瞬だけ“溶けた”。
「……ほんと……?」
「ああ」
玲奈は胸元を押さえ、震える声で続けた。
「……よかった……
今日……ずっと……怖かったの……
天城くんに……嫌われるんじゃないかって……」
涙がまたこぼれる。
「……こんなに……
あなたのことで……泣くなんて……
自分でも……信じられないのに……」
玲奈は俺の袖をそっと掴んだ。
「……お願い……
もう少しだけ……そばにいて……?」
その声は、壊れそうで、甘くて、弱くて。
俺は頷いた。
玲奈は安心したように微笑み、
俺の肩にそっと頭を預けた。
「……天城くんのそばだと……
泣いてても……苦しくないの……」
そして——
「……ねぇ……天城くん……
私……ほんとは……」
玲奈の声が震えた。
「……“好き”って……言いたいのに……
言ったら……壊れちゃいそうで……
怖いの……」
その瞬間、俺の心臓は完全に撃ち抜かれた。




