第3話 『嫉妬で壊れる完璧美少女なんて、聞いてない』
昼休み。
俺は幼馴染の黒瀬ほのかと、購買のパンを半分こしていた。
「はい悠斗、あーん」
「いや、自分で食べるって」
「いいじゃん、昔みたいにさ」
ほのかは笑っている。
昔から距離が近いのは分かってる。
でも——
「…………」
視線を感じた。
刺すような、焼けるような視線。
振り返ると——
白雪玲奈が立っていた。
完璧美少女のはずの玲奈が。
表情を完全に失い、
目だけが異様に潤んで、
俺とほのかの距離を見て、
今にも泣き出しそうな顔で。
「……天城くん……」
声が震えている。
昨日の依存の続きが、さらに深くなっている。
「……なに……してるの……?」
その問いは、普通の嫉妬じゃなかった。
ほのかが気まずそうに笑う。
「えっと……白雪さん? ただパン食べてただけで——」
「……触ってた……」
玲奈の声が低く落ちた。
「え?」
「天城くんの……手……触ってた……」
ほのかが固まる。
俺も固まる。
玲奈は一歩、こちらへ近づいた。
その歩き方は、完璧美少女の優雅さじゃない。
感情に引きずられた、危うい足取り。
「……どうして……?」
玲奈の視線が、俺の手とほのかの手の距離を往復する。
「どうして……そんなに……近いの……?」
ほのかが困ったように笑う。
「いや、近いって言っても——」
「近いよ」
玲奈の声が震えた。
「……私より……ずっと……」
その瞬間、玲奈の目に涙が溜まった。
「……やだ……」
小さく、震える声。
「……そんなの……やだ……」
ほのかが焦る。
「ちょ、ちょっと白雪さん? 落ち着いて——」
「落ち着けないよ……!」
玲奈の声が、初めて教室に響いた。
完璧美少女が、感情をむき出しにして叫んだ。
「天城くんが……誰かと仲良くしてるの……
見たくない……!」
教室が静まり返る。
玲奈は俺を見つめたまま、涙をこぼした。
「……昨日からずっと……胸が苦しくて……
天城くんの声だけが……救いで……
なのに……どうして……」
玲奈は胸元を押さえ、呼吸を乱しながら続けた。
「……どうして……ほのかちゃんには……
そんな顔するの……?」
ほのかが驚いたように俺を見る。
「え、悠斗、そんな顔してた?」
「してない!」
即答したが、玲奈は首を振った。
「してた……
私には……見せたことない……顔……」
玲奈は涙を拭いもせず、俺に近づく。
距離、20センチ。
ほのかが止めようとする。
「白雪さん、ちょっと——」
「邪魔しないで」
玲奈の声が低く、鋭く、震えていた。
ほのかが息を呑む。
玲奈は俺の袖を掴んだ。
その指先は、微かに震えている。
「……天城くん……
お願い……」
玲奈は涙で濡れた瞳で俺を見上げた。
「……私を……見て……?」
その瞬間、俺の心臓が跳ねた。
玲奈は続ける。
「……ほのかちゃんじゃなくて……
私を……見て……?」
声が震え、涙が頬を伝う。
「……私……こんなに……
あなたのことで……壊れてるのに……」
玲奈は俺の胸元に額を押し当てた。
「……どうしたら……
あなたの一番になれるの……?」
その言葉で、俺の思考は完全に止まった。




