第10話 『壊れてもいい。あなたが好きだから』
夕暮れの校舎裏。
昨日の続きのように、玲奈はそこにいた。
桜の花びらが舞う中、
玲奈はひとり、ベンチに座っていた。
肩を震わせ、胸元を押さえ、
呼吸を乱しながら。
「……なんで……
なんで……こんなに……苦しいの……」
その声は、泣き出しそうだった。
「白雪」
声をかけると、玲奈はビクッと跳ねた。
「っ……や……来ないで……!」
玲奈は立ち上がり、後ずさる。
「……天城くん……
お願い……
もう……近づかないで……」
「嫌だ」
玲奈の動きが止まった。
「……どうして……
どうして追いかけてくるの……?」
「逃げる理由なんて、全部分かってるからだよ」
玲奈は胸元を押さえた。
「……分かってるなら……
どうして……優しくするの……
そんなことされたら……
私……」
「壊れる?」
玲奈は息を呑んだ。
「……っ……」
「もう壊れてるよ、白雪」
玲奈の目に涙が溜まった。
「……やだ……
そんなこと……言わないで……
私……本当に……壊れちゃう……」
「壊れていい」
玲奈の呼吸が止まった。
「……え……?」
「お前が壊れるなら、俺が全部受け止める」
玲奈は震えた。
「……だめ……
そんなこと言われたら……
私……」
「言えよ」
玲奈は首を振った。
「……言えない……
言ったら……
戻れなくなる……
私……普通じゃなくなる……」
「もう普通じゃないだろ」
玲奈は涙をこぼした。
「……っ……
天城くん……
お願い……
これ以上……優しくしないで……
じゃないと……」
「じゃないと?」
玲奈は顔を上げた。
涙で濡れた瞳。
震える唇。
壊れそうな呼吸。
「……“好き”って……
言っちゃうから……」
その瞬間、俺は玲奈の手を取った。
「言えよ」
玲奈は震えた。
「……言ったら……
天城くんに……重いって……
思われる……」
「思わない」
「……怖い……
嫌われたら……
私……生きていけない……」
「嫌わない」
玲奈は涙をこぼしながら、
俺の胸に顔を埋めた。
「……天城くん……
好き……
好き……
好き……
もう……無理……
隠せない……
止められない……
あなたが……好き……」
その言葉は、
恋ではなく、
執着でもなく、
“崩壊”そのものだった。
俺は玲奈を抱きしめた。
「俺も好きだよ、白雪」
玲奈の身体がビクッと震えた。
「……え……?」
「お前が壊れるなら、俺が全部受け止める」
玲奈は涙をこぼしながら笑った。
「……だめだよ……
そんなこと言われたら……
私……もっと壊れちゃう……」
「壊れていいって言っただろ」
玲奈は俺の胸元をぎゅっと掴んだ。
「……天城くん……
これからも……
私の前で……優しくしてくれる……?」
「ああ」
「……じゃあ……
私も……言うね……」
玲奈は涙を拭い、
震える声で囁いた。
「……これからも……
あなたの前でだけ……
壊れるから……」
その瞬間、
俺たちの恋は、
完全に始まった。




