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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

気まぐれ企画 異世界転移に付き合う運びになりそうです

作者: 赤川ココ
掲載日:2025/12/06

取り残された旦那は、意外に冷静です。

 国全体はゴタゴタが続くが、ここは比較的平和だ。

 我が家がある場所から近い、その施設の裏の森で、穏やかな調べが漂っているのを耳にしながら、(れん)はしみじみ思った。

 どの程度平和かは、その森の中の緊張感のなさで、判断できると言うものだ。

 笛の調べを辿った先で、緊張感なく寝そべる人間が、多すぎる。

 蓮から見るとその全員が年頃の若い男女で、何の危険も感じず寛げるこの国を、憂えばいいのか、喜べばいいのか、悩んでしまう。

 まあ、木の根本に背を預けて座る小柄な男と、男と向かい合う位置に背筋を伸ばして座り、横笛を奏でる長身の女が一緒ならば、気も抜けてしまうのは仕方がないが、少々心配してしまう。

 自分の子供二人まで、同じように枯れ葉の上に寝そべり、軽く寝息を立てているからだ。

 自分たちの子にしては、緊張感のない二人を、蓮は迎えに来たところだ。

 緊張どころか、幸せそうに眠る二人を見下ろし、起こすかこのまま持って帰るか悩んでいる男に、初めに気づいたのは、小柄な男だった。

 伏せていた顔を上げ、持ち前の優しい笑顔を浮かべる。

「来たか。意外に、早かったな」

「お休みのところ、うちの子らが邪魔して、すみませんでした」

 その時、笛の音が止まった。

 笛を吹きながら蓮を一瞥した長身の女が、驚いて演奏をやめてしまったのだ。

「蓮君? どうしたの? スーツなんか着て?」

 そこに驚かれるかと苦笑し、蓮が答える前に、素っ頓狂な声が言った。

「親父? どうしたんだよ? そんな格好、入学式と卒業式の時しか、しなかったのにっ」

 実の父親を、非常識人のごとく決めつける息子を睨み、蓮は反論する。

「冠婚葬祭にも、着てただろうが」

 今着ているスーツより、礼儀に則った服も、蓮は所有している。

 今回、こんな堅苦しい格好をしていたのには、理由がある。

 父親違いの弟の手伝いが、他社の重鎮との交渉だったのだ。

 何とか成立させたし、今回限りになりそうだが。

「と、言うことは、狭霧たちも戻ったのか?」

 答えた蓮の言葉で、欠片も話していない事情まで察し、小柄な男が目を見開いて見せた。

 説明しなくていいのは、とても楽だ。

 頷いた蓮は、子供たちを迎えに来た理由を口にした。

「その事で、家族会議が必要になったもので、こいつらを探していたんです」

 まあ、探すと言っても、子供たちの行動範囲はまだ狭いから、心当たりに顔を出すだけで、すぐに見つける事が出来るのだが。

 身を起こした息子の隣で、ようやく娘も目を覚ました。

 父親を軽く上回る勢いで成長している息子と、未だ父親に片手で抱き上げられる大きさの娘は、ほぼ同じ時間に生まれ、両親の手厚い育児の元育ち、成人も目の前だ。

 両親を含む周囲の環境は、はっきり言って異常で、それを自覚していた両親は、真面目に育てても、どこかで非行に走るかも知れないと、内心身構えていたのだが、二人共真面目に、高等部まで卒業してくれた。

 息子の聖人(まさと)は、知人の警備会社に就職し、最近研修が終わった。

 娘の蓮華(れんげ)は、教育学部のある大学に入学し、教師を目指している。

 今回、女房のセイが日帰りでの異世界出張を敢行した理由は、この二人がまだ未成年で、実家から通勤通学をしているからだ。

 これは、父親の歯止めになってくれる人物が、あちらに連れていかれている事実を鑑みて、つききりでいる必要はないだろうという判断からだったのだが……。

「雅エン夫婦と狭霧朱鷺の二人、それからひい祖父さんひい祖母さんが、一緒に戻ってきちまったもので、予定が狂いそうなんです」

 彼らが一緒にいるという話は、カスミより聞いていた。

 だからセイは、雅とエンを連れ帰った後を、他の二人に託して、日帰りで父親と合流しつつ、他の転移者たちと接触して、協力を仰ぐつもりだったのだ。

「それが、出来なくなっちまったので、これから家族会議をします」

 二卵性の双子の子供たちは、呆れ顔を見合わせていた。

 本当に、自分の両親は真面目だ。

「こんな事くらいで、話し合う必要ないって。オレたち、もうほとんど独り立ちしてるんだから」

「そうだよ。逆に心配だったんだよ? 日帰りで異世界に出張って、何処の異次元の職場の話って」

「こうなったら、二人で気が済むまで入り浸ればいいだろ?」

 仲良く頷き合う子供たちを見て、蓮は意地悪な気持ちになって、不敵な笑みを浮かべた。

「寂しすぎて、泣いたりしねえのか?」

「っ、(みこと)と、一緒にするなっっ」

 高低の声が揃って叫んだことで、地面に寝転がっていた子供たちが、全員飛び起きた。

「な、何だっ? 悪霊退治がやってきたっ?」

 ひときわ大きい図体で、慌てて周囲を見回すのは、笛を吹いていた女の義理の息子だ。

 その言葉で、突然起こされて頭がついてきていなかった、他の三人が緊張する。

「え。この人、悪霊認定されてるのか? そっちに驚いた」

「え。悪霊以外の、何に当たると? この人、生前かなり好き勝手やってたんだって、院長が言ってたぞ」

 聖人と同じくらいの上背の、細身の子供が目を見開いて言うと、小柄な男子が真顔で答える。

 そして、蓮華と背丈比べで常々競争していた女子が、眠そうなまま蓮を見た。

「……悪霊に、取り込まれそうな人じゃん」

「……そこまで、弱くねえけど?」

「それに、誰が、悪霊だ?」

 優しい声が、自然に会話に入り込んだ。

 木の根を背に座っていた男が、優しい笑顔のまま子供たちを見ている。

 その姿は、よく見ると透き通っていて、後ろの木がはっきりと見えていた。

「こんな無害な幽霊を捕まえて、何処を見て、そう取るんだ?」

「……師匠、無害の意味、分かって言ってます?」

 疑わし気に言われ、心外そうに眉を寄せる男に、蓮も少しは物申したくなる。

「あなたが、突然死んでしまったおかげで、お義父さんを程よく止めてくれる人材が、いなくなったんです。実害ありまくりです」

 突然そう指摘され、男水月(みづき)は空を仰いだ。

「そう言われてもな、オレだって、まさかあんな死に方するとは、思わなかったからなあ」

 それにまさか、こんな形で縛られるとも、思っていなかった。

 本人はしみじみと言っているが、蓮はあり得る話だと思っていた。

 数年前まで、その実例がもう一つ、存在していたからだ。

「暫く、実体を作ってくれるのなら、その役、やってもいいが」

「駄目ですよ。雅たちには、あなたを過去の人としてほしいんでしょう? 少しでもそんな気配を漂わせては、今までの苦労が、水の泡です」

 というか、それを今するのであれば、葬式の時のひと騒動は、必要なかった。

 蓮に言われてその騒動を思い出したのか、笛を吹いていた女、藤河(ふじかわ)つくしが上品に小さく笑う。

 そう、あれは危なかった。

 恐ろしく盛大に行われた葬儀に、その場にいた水月は一時、成仏しかかった。

 所謂、恥ずか死にそうになったのだ。

 だが、別な光景を見つけ、持ち直した。

 それは、喧嘩仲間の(しのぎ)が、大きな体を震わせて顔を伏せている場面だった。

 泣いているように見えたが、違った。

 畳半畳分くらいの大きさに引き伸ばされた、水月の遺影を見て、大爆笑していたのだ。

「おい、右拳にだけ、肉をくれ」

 優しい声での短い頼みを、それが出来る連中は秘かに聞き流したのだった。

「葬儀の前に、あなたが頼んだことでしょう? 知られてしまった奴らは仕方がないが、娘と息子には、このまま死んだと思わせたいと。だから、朱鷺を始め、今のあなたを知る奴らが、あいつらに気を使っているんです」

「……それは、済まないな」

 申し訳なさそうにしている男に頷き、蓮は話を戻す。

 これ以上話しては、あの葬儀の真の目的を白状してしまいそうになる。

 あれは、水月の一番弟子とその伴侶が、師匠を無理やり蘇生させてしまおうと考えた、集大成だった。

 衝撃を受けた男が、棺桶から起き上がって、怒鳴ることを願っていたのだ。

 あの画策が逆効果で、危うく完全に消えてしまうところだったが、凌の旦那のお陰で、何とか留まってくれたと、あの二人は心底安堵していたし、下手なことをして前触れなく消えられるくらいなら、今の状態がいいと考え直していた。

 ここに残った原因を、二人は予想できているらしく、目くじら立てて水月の様子を見に来る気配はない。

 蓮も、何となく想像ついているが、気にせずに好き勝手に訪問し、時々他愛のない世間話をしていた。

 そのせいで、子供たちまで憩いの場にしてしまっているのだ。

「……家族会議と言っても、オレたちだけが集まるのではなく、巻き込まれた家族も集まるので、こいつらだけ不参加も、可笑しいでしょう?」

「うえ」

 聖人が、変な声を出した。

 蓮華も、困惑気味な顔だ。

 二人とも、色目は蓮の方に似てしまい、黒髪の所謂黒目の容姿だが、実は聖人はセイの、蓮華は蓮の顔立ちに似ていた。

 ぱっと見では似ていない家族、なのだが、知人たちの間では平和な世で二人が育っていれば、セイも蓮もこうなったんだろうな、という談話が、密やかに囁かれているのを、子供たちも察し始めてしまったのだろう。

 平和な時代であれば、夫婦が結ばれるきっかけなど、皆無だったのだから、本当に妄想の類なのだが、これを子供に説明するのは気恥ずかしいので、子供たちなりに納得する答えを見つけるのを待つことにしている。

 なので、子供たちの反応に気付かぬふりで、蓮は帰宅を促したのだった。

 







もしもシリーズ、まだ続きそうです。

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