1章3節.二人
ロゴス国最大都市メガロ・メテオロン。
国内人口の約4割が居住し、理による論理や法則に則った未知を既知とするロゴス思想の者達の憧れの地。
ピュシス思想の者達からは愚行と言われ、ミュトス思想の者からは夢がないと言われる。
そんな堅物達の楽園は、世界に災厄が落ちた日も冷静でいた。
被害が最も大きかったメガロ・メテオロン南西部は、建物の損壊こそ少ないものの、若者が多く集まるストリートということもあり居合わせた述べ1万人弱の命が奪われた。
だというのに、都市は変わらぬ日常を送っていく――まるで人の生死に興味がないかのように。
だが超常的肉体の再生を果たした眠る人達。
それらを目にした時から、学者達は途端に目の色を変えた。
ある者は刃物で皮膚に切り傷を入れ、またある者は熱した鉄の棒を生身に当てて焼き跡を作る。
そんな人道から外れた行為でさえ彼らにとっては研究の過程、不確かな事実を真実へと導く為のトライ&エラーだった。
「超回復は再生医療における原理に背いている。破壊された組織細胞を再生するには最低限の栄養とATPが必須のエネルギー源となり、これらを口径あるいは点滴投与せず起こなっている以上、法則や原理からは外れる」
「では肉と繊維の一部を切り取ってその経過観察してみよう、何か大きな一因が得られるかもしれない」
彼らは人智における未知を既知へと変える為、日夜没頭する。
それは被災者達を取り巻く脅威から希望を生み出す救世行為ではない。降り注ぎ舞い降りた謎・現象を己が知り得る知識として落とし込む為だけの、純然たる知識欲による探求である。
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メガロ・メテオロン北東部、通称聖域と呼ばれるこのエリアには、人類の歴史と進化を細かく辿ることが出来る豊富な文献とアンティークが保管されている。
それら重要文化財を護るのは、民間警備会社アダマス・アスピス。
頭の凝り固まった警察とは違い、顔と金で動く民間企業は重要な要人警護でその臨機応変さを如何なく発揮し、今では軍を超える国内最高武装組織にまで地位を上げた。
そのアダマス・アスピスの社長にしてローレンス財団ご令嬢ことノア・ローレンスは、先日の銀行強盗を行ったテロ組織 レベリオについて酷く頭を悩ませていた。
「あーもう! なんなのアイツら、マジムカつく! イン姉どう思うあのチンピラ集団!!」
レイヤーで綺麗に整った手触りの良い髪をクルクルと指で弄る。
そんな義妹の姿を顔色一つ変えず、長身の義姉イン・カミラは意見を述べた。
「レベリオ……若者が筆頭となり、このロゴスで急速に成長し続けるテロ集団か。厄介だな」
報告によりまとめられた書類に目を通しながら分析する彼女は、ロゴスという秩序を重んじる国で秩序を壊す存在が台頭してきたことに妙な違和感を覚えていた。
このメテオラ大陸にはロゴス、ピュシス、ミュトス、ノモス、エトス、パトスと6つの国が在り、それぞれの国では核となる思想が根付いている。
ロゴスでは理性・論理・言葉・法則そして秩序が国の土台にあり、その上に各人の思想が生まれ育つ。だから必然的に人道や道徳を重んじる者達はエトスへと流れていくのだ。
「レベリオのリーダーの正体はまだ分かっていないようだし、一先ず我々に出来る事はこの聖域における重要文化財の警護だろう」
小さく息を漏らすと、ティーカップに注がれたコーヒーを啜る。
前下がりになったショートボブを軽くかきあげて耳に掛けると、月のイヤリングがキラリと光った。
成人の日にノアから贈られたプレゼントは15年経った今でも色褪せることはない。
「はぁ~……ったく、面倒事だけは勘弁だからね……私……」
社長イスに身を投げて天を見上げる彼女の耳元にもまた対となる御揃いの太陽のイヤリングが光る。
二人は幼い頃から常に時を共にし、主従という関係値にありながら義理の姉妹同然に育ってきた。
ノアはインの要人として、インはノアの傍付き秘書として本来全うする垣根を越えた特別な存在である。
「そうだ、イン姉! イン姉って誰かいい人居ないの?」
「いい人とは?」
「決まってんじゃん! カ・レ・シ♪」
「ノア、それ以上言うなら容赦しないぞ」
「きゃっは~♪ イン姉が怒った~こっわーい!」
互いの恋愛にもまた、年相応の好奇心を抱く。
二人の関係はとても強い信頼と絆で繋がっていた。




