序章4節.そして。
気を失ったルルディを抱えた先生は、再びアンヘル病院を訪れていた。
院内は世話しなく往来を繰り返す医師や看護師の姿があったが、命の選別は粗方済んだ後だった。
その証拠に別れを惜しみ咽び泣く者や一命を取り留めたことで安堵から顔を覆う者、様々いたがごった返した当初の状況からはかなり人口密度は低くなっていた。
「あ……先生、いらしてたんですね……」
ふと先生に気付いた看護師の一人が落ち着いた声で話掛けると、その視線は腕に抱える少女へと移る。
するとすぐさま医療従事者の表情へと戻り、動作は速やかに、声は張りを含んだ。
「こちらへ。空きのベッドはありませんが宿直室を簡易処置室として開放してますので、そちらに」
流されるままに通される通路には書類や医療用カーボン、注射器などが散乱しており割れたガラスと混じってパリパリと乾いた音を立てる。
誰もそれを気にする余裕はない。小気味良い足音が、今の現実の火に草を静かに刻んでいた。
宿直室の床に段ボールを敷くと、そこにルルディを寝かせた。
幼い寝息は小さく、とても柔らかい。
「この子はどこで?」
「山麓部です。マーク先生の住所からほど近い所で見つけました」
先生の言葉に目を見開いた看護師はマークを呼びに立ち上がろうとするが、先生はそっとその手を掴み首を振った。
今のマークは自分を殺し、目の前の命を救うことだけに尽力している。
自分の出来る事を全うしようとしているのだ。ならば余計な手間を取らせるわけにはいかない。
「分かりました……では身体に怪我が無いか確認しますので、先生はしばらく席を外してください」
看護師がそう告げると、医療セットを並べてルルディの身体検査を始めた。
そのやり取りを最後に、先生はその場を離れ、静かにアンヘル病院を後にする。
外に出ると町は救助の手が追いつかない状態だった。
倒壊した建物の瓦礫を必死に退かし、救える命に手を伸ばさんとする町民達の姿。怪我をした人達も今出来ることをやろうと、懸命に声を上げながら瓦礫の中に眠る生きた声を探す。
そんな姿がウィンズ町にはあった。
突如として降り注いだ流星群により、町は死に絶えた。
惜しむ間もなく奪われた命、絶望の中で救われた命、それら全てを受け止めて。
これから直面する更なる極地に、曝されることになるとしても。
序章 完




