2章4節.本質
作神様の祠をキュリオスが破壊すると、パストの母はその場に項垂れて顔を歪めた。
「そんな……作神様が……」
沈黙が一体を包むこと数分。
キュリオス達が来た道を辿って、ぞろぞろと何人もの老若男女がやってきた。
意識を失ったルルディ、苦悶の表情で呻くパスト、ガックリと膝をついたパストの母、そして作神様を祠ごと破壊したキュリオス。
何事かとその場を何度も見渡す観衆達は、まずキュリオスに警戒心を抱いた。
「き、君がやったのか……その祠は、この方が神様と崇めていたのに……」
「酷いわ……」
一人目の声に当てられて、他の面々もキュリオスを見る目が急速に嫌悪に変わっていく。
だがそんな中からでも反対派の意見が飛び始める。
「でも、この集落変だよ。私達がここに来た時はこの人と息子さんしかいなかったもの」
「たしかに、それにあの小屋で起きるまでの記憶がほとんどないんだよな」
事の顛末が全く掴めないのも無理はない。何故ならあーでもないこーでもないと騒ぐ全員が、この作神様の祠の前で、意識を失って信仰の一部にされていたのだから。
キュリオスはしばらくその様子を眺めると、横たわったままのルルディを抱えて観衆達に声を掛けた。
「事の顛末を話す。まずはそこの女性を連れて着いてこい」
「さて、どこから話すべきか」
集落の空き地に戻ってくると、腕の中で眠るルルディを一瞥した。
そして怪訝な視線で見てくる一同に、キュリオスは質疑を問い始めた。
「全員この集落の前を通る際に、この女性に声を掛けられなかったか?」
そう言って顔を伏せたパストの母に、キュリオスは視線を向ける。
その言葉に一同が首を縦に振る。
「当然だ、私達も声を掛けられた。そしてルルだけがあの作神様の元へと連れていかれたんだ」
「私も案内されたわ、何でも集落の守り神様だって!」
「守り神だ? 俺は面白い物があるって言って案内されたぞ! どういうことだ!」
徐々に各々の意見に齟齬が生じていく。
完全に嘘が露見した辺りでキュリオスはパストの母に問うた。
「もう嘘は通じないぞ。全て話してもらおう」
全員の殺気立った視線に曝される。パストの母は観念したのか、ようやく口を開いた。
「あの隕石が落っこちてきた時から、この集落では不思議なことが起きるようになった。 ……それまでは古くから祀っていた作神様は、ただの崇拝する存在だった。だけどある日から……突然力を得たみたいになったのさ」
回顧しながら手を広げて天を仰ぐ。ギョロっとした瞳が見開かれるとその場にいた全員が戦慄した。
「植えた稲が数日で収穫出来る程まで成長して、畑を荒らす獣はみーんな勝手に死んでいく。作神様は集落を救う神様になったのさ。 ……でも、それも長くは続かなかった」
さらにバツが悪そうだったパストの母の顔は、徐々に鬼気を帯びていき、その恐怖は増していく。
「集落の人間が突然死ぬようになっていったのさ。まるで作神様が命を喰らうみたいにね! ひゃっひゃっひゃっ!」
もはや声を出せる者はいなかった。
取り憑かれた様のパストの母は、唖然とする全員を舐めるように四顧すると、興が乗り始めたのか饒舌になった。
「そうやって集落の人間がバタバタ死んでいくにつれて、作神様の力は弱まっていったのさ。この意味が分かるかい? 亡くなる命は足せばいいのさ! だからお前たちを捕らえて、力を増して、作神様という神様を本物にしようとしたのさ!!!」
観衆達の肩が震える。怒りからではない、明確な恐怖から。
一緒に連れてこられたパストも顔を上げる事は無かった。
そしてキュリオスを睨み付けるとパストの母は狂喜に満ちた笑みを見せる。
「お前達は作神様を怒らせた! 信仰に背き、祠を破壊し、人形を壊した! だからお前達は必ず死ぬ! ひゃっひゃっひゃ!」
『死ぬ』その言葉にガタガタと腰を抜かす者、涙を流して悲鳴を上げる者、大声を張り上げる者。
様々いたが、キュリオスは冷静に分析する。そして、一つの結果に至った。
「アンタの言い分はそれだけか?」
「何だって? クソガキィ!」
「それだけかと、言ったんだ」
極めて冷静に言うキュリオスの瞳に、揺らぎは一切無い。
確信を得た結果は、やがて真実へと結びつく。
「アンタは自分で言ったんだ。『死んでいくにつれて、作神様の力は弱まっていった』と。そして亡くなる命は足せば言いと……信者が増えるほど作神は強くなり、作神が強くなるほど信者に奇跡が舞い降りる。そうやってこの地は信仰場を高めていった」
キュリオスの言葉に、パストの母の顔が一辺する。
それは動揺でも、侮蔑や怒りの類でもない。何を言っているんだ、という純粋な疑問の表情。
観衆達も同様の顔を、揃いも揃って浮かべていた。
「つまりこれは信仰場理論だ」
それ以上の蛇足など要らなかった。
キュリオスの中で、アルケーについて一年間ひたすら反芻していた内容。
アルケーとは何なのか。
千差万別で現れる超常現状、その一貫性の無さに疑問が生じていた。だが必ず点と点は必ず繋がると信じていた。そして今、その最大の手がかりを手にしたのだった。




