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ArcheLogos-アルケー・ロゴスー  作者: 色彩模様
ロゴス編 2章 集落アグロス

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2章3節.作神様


「どこへ行くんですか?」


 パストの母の後を連れ立って歩くルルディは、集落の家々を抜けると林の小道を通って木々の奥へと入って行った。

 十分程歩いた頃、足を止める。するとそこには小さな祠があった。


「これは作神様(サクガミサマ)と言って、この集落に五穀豊穣を齎してくれる立派な神様さね」


 見れば祠は綺麗に手入れされており、集落全体がどれだけ作神様を大切にしているかが分かる。


――神様かぁ……ところで何でこんな所に来たんだろ?


 感嘆するルルディだったが、一方で何故自分をこの場所まで連れてきたのかが甚だ疑問で仕方なかった。

 

「今、何で連れてきたのかって思ってるね?」


「え……」


――さっきもだけど、なんで私の心が読めるの、この人!?


「今度はなんで私の心が読めるのか、って思ってる。 ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ」


 怪し気な笑いに不気味な雰囲気、どうみても普通じゃないパストの母に怯え足が竦む。


「な、なんで私の心が読めるんですか? ……まさか、私と同じアルケーの――!」


 それでも恐怖の中に眠る謎。ルルディは声色を震わせながら、パストの母への疑問を解かずにはいられなかった。

 力や系統が同じであれば扱い方を知っているかもしれない、そう願って。


「違うよ。そのアルケーってのが何なのかは知らないが、あたしらアグロスの人間には作神様の加護がついている。だからその加護を介して相手の腹の内が聞こえてくるのさ」


 パストの母からの回答に表情を沈ませながら、作神様の祠に視線を向ける。

 そこには小さな鹿の角を生やした木彫りの人形が祀られていた。


「作神様……」


「んで、アンタの質問。なんでアンタを作神様に会わせたかって聞いてたね。それはねぇ」


 そう言うとルルディの後ろに立ち呪詛のようなものを呟き始めた。

 すると腕はだらんと力無く下がり、脱力したようにその場にただ茫然と立ち尽くす。


「作神様に信仰と忠誠を尽くしてもらう為さ」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「急げ、あそこだ!」

 

 先を行くパストが声を荒げて指を差す。その先にはパストの母とルルディがいた。

 しかし異変を感じたパストは大声をあげて母の行いを御そうと試みる。


「おっかぁ、ダメだ! その子を解放してやってくれぇええ!」


 キュリオスがルルディを視認する頃には、既にその身体から生気は消えていた。

 体がまるで糸で操られる人形のように、不自然な立ち方をしていることにキュリオスは慄いた。


「ルル、しっかりしろ! ルルディ!!」


 焦るキュリオスだったが、声に反応しないことで意識自体が無いものだと察する。

 そして二人が立っている奥の祠。そこから発せられる明らかに異質な力こそ、ルルディを縛る正体だとハッキリと感じ取った。


「あれが原因か!」

 

 パストの母を息子のパストが、祠をキュリオスが止めに掛かると、パストの母はゆっくりと振り向いて息子に手を翳した。

 そして同じように呪詛を唱えると、勢いを失ったパストまでもが方向転換してキュリオスと対峙する。


「パスト、そこをどけ!」


「……」


 パストもルルディ同様に意識が無いのか返事がない。

 昼下がりの緑地に緊張が走った。


「パストの母、教えろ。なぜこんな事をする」


「ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ。何故って? それはこの集落の信仰を高める為さね。作神様は信仰心が増せば増すほど力を増していく。その為には頭数がいるのさ」


 高笑いを決めるパストの母を見た。

 そこでようやく、ここに来るまでに抱いた違和感の正体に繋がった。


「まさか、他にも……」


 ほとんど洗脳に近い現象。道中の民家に誰も居なかったのは、居なかったからではなく隠されていたから。そしてその全員が今のルルディのように洗脳され、信仰心の礎となっている。


「ようやく気付いたかい? そうさ……この集落の生まれはもう、あたしとパスト、二人しか残っていないんだよ」


「何故だ、一体何のために」


「なぁに簡単な話さね、あたしらが生きていく為に作神様の贄としている。それだけのことさ!」


 キュリオスに飛び掛かるパストの母とパスト。

 ルルディを操っていたパストの母が離れたことで、少女の体は支点を失い頽れる形で地面に伏した。

 二人まとめて相手するには分が悪すぎると踏んだキュリオスは、歯噛みしながら少し後退すると足場の不安定さで態勢が崩れた。


「ひゃっ、ひゃっ、逃げるなんて男のすることじゃないねぇ!」


 よろめいたキュリオスにパストの拳が襲い掛かる。


「パスト、すまない……」


 小さく呟くとパストの迫りくる右拳、その少し先の腕部に両腕を絡めて全身で飛び付く。

 そのまま流れの中で、キュリオスが太ももをパストの首から背中へと掛けると、全体重が乗ったパストの前腕部を力点とし宙を一転。そのまま背中から叩き落した。


「――がはっ!? っかは、っげほ、っけほ……い、いってぇ……」


 二人の体重が乗った背中の強打に、堪らずパストが嗚咽を漏らす。すると胸をおさえて悶絶しながらも意識を取り戻した。

 

「な、なんだいそりゃあ!?」


 驚愕するパストの母は、見たこともないキュリオスの動きに呆気に取られて接近する姿を見落とした。

 そしてそのまま棒立ちの身体を突き飛ばすと、根源となっている祠へと駆け寄った。


「だ、ダメだ! やめな! 作神様の祠を壊したら、あたしらはどうやって生きていけば――」


 途端に焦るパストの母は、床に伏せたまま必死に懇願する。

 だが当然キュリオスが聞き入れる事はない。極めて冷淡な紅眼でパストの母を睥睨した。


「知るか。ルルを危険に曝した以上、こちらも相応の行動で返させてもらう」

 

 近くに落ちていた木の棒を握り、木彫りの人形を睨み付ける。


「やめなぁあああああ!!!」


 そしてそのまま横殴りに吹っ飛ばしたのだった。


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