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ArcheLogos-アルケー・ロゴスー  作者: 色彩模様
ロゴス編 2章 集落アグロス

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2章1節.道中


「ルル、荷物重くないか?」


「これくらいへっちゃらだよ、キュリオス!」


 ウィンズ町を出た二人は、北へと続く街道を歩いていた。

 道は地平線の先までも遠く映すが、人の気配は一切ない。

 目的地はロゴス最大都市メガロ・メテオロン。ウィンズ町から延々と続くアッピア街道の終点である。

 小さい体に大きなカバン。不釣り合いな荷量を抱えて歩くルルディは、それでも悠然と歩いていた。


「それでキュリオス、ロゴス・メテオロンについたらどうするの?」


 キュリオス。ルルディは道中、何度もキュリオスの名を噛み締めるように呼んでいた。

 先生と呼び続けていた一年、ずっと気になっていた名前をやっと知る事が出来た、そんな嬉しさを感じながら。

 穏やかな日差しの元を歩く二人は、昨夜マークと話した内容について振り返る。


『まずロゴスの国で情報を仕入れるなら、ロゴス・メテオロンにいくといい』

 

 ロゴス・メテオロン。文献や知識の宝庫とされている一方で、昨今はレベリオという集団がテロを起こしている危険な都市でもある。

 それに人口がウィンズ町の比ではない為、よりルルディへの精神負荷が大きくなることが予想される。

 キュリオスは懸念材料をいくつか挙げながら、ロゴス・メテオロンへの行路を思案していた。


「実は私もロゴス・メテオロンについては何も知らない。ずっと山小屋で小説を書いていただけの人間だからな」


 キュリオスの言葉に、ルルディは思わず目をまんまるにして立ち止まった。

 一年という期間でお互いの事を多くは語らなかった二人。だからこそ、キュリオスが小説家だと知って仰天したのだった。


「え、キュリオスって小説家だったの!?」


「あ、ああ……言ってなかったか?」


「聞いてないよぉ~、初耳だよ! だから先生って言われてたんだ!」


 納得したように何度も『なるほど』と頷くルルディ。

 その表情は少しだけこの白髪男性の謎めいた一面を知ることが出来て、とても満足気だ。


「ルルのアルケーは言わば濁流だ。無策に飛び込めば容易く飲み込まれる」


「う、うん……そうだよね」


 自らのアルケーと向き合うと言ったものの、何をどうすればいいのかも未明のルルディ。

 隣で歩みを止めたキュリオスは、ようやく眼前に姿を見せた集落を見つめて言う。


「だからロゴス・メテオロンに行くまでに少し慣れる必要がある」


 太陽は頭の真上へと昇ろうとしている。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 小さな集落アグロスにて。

 牛飼いのパストは家畜達の飼料をネコ車に乗せていた。


「おっかぁ、稲わらが少なくなってきたぞ」


「分かってるよ、パスト。お昼を食べたら祠の作神様の所へ行ってくる。稲わらの他にも、牧草も減ってきたからねぇ」


 母親と話すパストは、身の丈に合わない大きな農業用フォークを巧みに扱いせっせと働く。

 ひと息吐くと背を反らして天を仰いだ。


「それにしてもよぉ、不思議だなぁ。あっちこっちでは大変な事が起きてるってのに、この村じゃなーんも起きてねぇ。平和過ぎて嘘じゃねえかと思っちまうよ」


「バカ言ってんじゃないよ、妙なゴタゴタに巻き込まれるくらいなら平和が一番に決まってんだろ!」


 呆れ顔でため息を吐く母親は、口を動かす前に手を動かせとパストの頭を軽く叩いた。

 ふと遠くに映る小さい人影を二つ捉えると、じっくりと凝視する。

 アッピア街道の道沿いに多数点在集落、その中でもアグロスは最南部に位置する。故に人を見かける事自体まず珍しい。


「あれは……ウィンズのほうかね」


 ゆらゆらと動く二つの影に、母親は怪訝そうな視線を送っていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ルル、私の心を読んでみろ」


 何度目かのやり取り、ルルディはしかめっ面でキュリオスに強い視線を送っていた。

 翠色の双眸で対面する紅眼をその奥まで射抜くように。


「喉……喉が、乾いた……」


「……それは、ルルが思っている事じゃないのか?」


 そうやって絞り出して出した答えは、ルルディの渇望だった。

 重い溜息を吐くルルディに水を差し出す。

 すると余程喉が渇いていたのか、物凄い早さで水筒をひったくると、コッ、コッ、コッと喉を何度も鳴らし飲み下していく。


「っぷぁ~! 今のは冗談、もう一回ね! もう一回! むむむ……パ、パンガ食ベタイ……」

 

 じゅるりと涎を垂らしてお腹をキュルキュルと鳴らすルルディ。

 流石のキュリオスも長時間歩き続けたことで休息を提案すると、近くの平たい岩に荷物を降ろした。

 するとそれに合わせてルルディもせっせと荷物の中からパンを取り出し、もしゃもしゃと齧り始めた。


ひゅひおしゅ(キュリオス)ひほはほはんを(人はご飯を)はへないと(食べないと)ひんひゃうんらよ(死んじゃうんだよ)わはふ?(分かる?)


 ハムスターやリスのように口一杯にして喋るルルディは痛くご乱心だ。

 キュリオスは扱いに困った様子で周囲を見渡した。するとこちらを見ながら制止する人影を捉えた。


「ルル、あれが見えるか?」


「ん、っぷぁ! なあに?」


「あれだ、こちらを見ている」


 胃袋が満たされてご満悦のルルディは、キュリオスの視線の先を注視する。

 そしてじっくり数十秒経って、やっと確認出来たのか目を大きく開いた。


「本当だ、こっちを見てる……なんか怖いよ」

 

「大丈夫だ。 ……それより、これからアイツの前を通過する。ルルディはその際にアイツの心を読んでみるんだ。他に人の気配は無いし、アイツだけなら掛かる負荷も最小限だろう」


 キュリオスの言葉にルルディの緊張感が一気に高まった。

 何度かの深呼吸をして心を落ち着せると、その表情が覚悟に染まる。


「わかった、やってみる!」







 二人が道を歩くとやがて見えてきたのは小さな集落だった。

 見えるのは数軒の古民家、牛小屋とその隣の小屋からは鶏の鳴き声がたまに聞こえてくる。

 そして遠くから二人を見ていたのは年配の女性だった。

 微動だにせず通過しようとする二人をジッと見つめて視線で追ってくる。


「お前さん達、ちと待ちな」

 

 低く唸るような女性の声に、キュリオスはゆっくりと足を止める。

 一方で警戒していたルルディは肩をビクッと震わせると、慌てて立ち止まる。あまりの怖さからキッと目を瞑ったまま、蛇に睨まれた蛙のように動かない。

 

「南から来たってことは、ウィンズの住民かい?」


「ああ、そうだが」 


 ギョロっとした三白眼で熟視する女性に対し、キュリオスは目の色一つ変えず淡々と返した。


「ウィンズと言ったら、一年前酷い目にあったそうじゃないか」


「ああ、何人も死んだ。私の友人も」


「そうかい、それはお気の毒だねぇ」


 ところで――と言葉を切り返すと、警戒していた女性からは思ってもいない言葉が返ってきたのだった。




「私の心を見るのが、そんなに楽しいかい?」



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