初ギルドの依頼そして神竜襲来!!
前回——魔法学院での基礎実習を一撃でぶち抜いたマヤは、ツンデレ令嬢マレーナと知り合い、そこへ現れた青年・ハロットルからの“手合わせ”を受けることに。
今話はその模擬戦から。やわらかな天才と、静かな勇剣の激突。そして、ギルド登録、依頼分担……のはずが、王都に未曽有の影——“神竜ブォリタロス”が空を覆う。
① 模擬戦:やさしい圧倒
(学院・訓練場。夕光が砂地を赤く染め、観覧の生徒が固唾を呑む)
ハロットル「準備はいいか、マヤさん。危険な間合いは避ける。剣は刃引きだ。怪我はさせない」
マヤ「うん、大丈夫。……ありがと、ハロットルくん。私も、なるべく当てないね」
マレーナ(腕を組みつつ・小声)「“なるべく”って言い方がもう強者のそれなんだけど……」
(砂を蹴る音——ハロットルが風のように踏み込む。直線の無駄がない剣筋が、三拍で喉・手首・膝へ)
マヤ(心の声)「はやい。ううん、はやいけど“きれい”。……でも、当たらないよ」
(マヤの足元に淡い魔法陣が咲き、回避補助と衝撃散らしが薄膜のように展開。切っ先は紙一重で逸れ、砂だけが跳ねる)
観覧の生徒A「当たらない……マヤ、動いてるように見えないのに……!」
ハロットル(呼吸を整え)「第二式《連星》——」
(二連の突きが、二点同時に“来る”。剣聖流の幻惑——)
マヤ「ごめんね、ここ——」
(コツン。マヤの人差し指が、突きを“点”で受け止めた。刃が止まる。砂埃が風に解ける)
ハロットル「……指で、受けた?」
マヤ「うん。……これ以上は、王都が持たないと思うから。今日はここでおしまい、ね?」
(静謐。観覧席が一拍遅れてざわめく)
ハロットル(剣をおさめ、素直に頭を下げる)「降参だ。強いだけじゃない。怖さの扱い方を知っている。……もし許されるなら、剣の稽古、時々つけてほしい」
マヤ「えっと……うん、いいよ。私でよければ」
マレーナ(そっぽを向きながら)「……べ、別に。勝ったからって調子に乗らないでよね。……でも、さっきの止めは、ちょっと格好よかった、かも」
マヤ「ありがと、マレーナ」
女神〈システムボイス〉《通知:対人模擬戦評価——過剰出力:0%、回避最適化:良。継続を推奨》
マヤ(心の声)「(女神さん、褒めてくれた? ふふっ)」
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② 冒険者ギルド登録:壊れる数字
(王都・冒険者ギルド。喧騒、木のカウンター、鉄の匂い)
受付嬢「お三方、新規登録で間違いないですね? あら……お名前、イナ・マヤさんって“あの”?」
マレーナ「その話、今はナシ。手続き早めて」
受付嬢「し、失礼しました。それでは能力測定を。あの水晶球に触れてください」
——最初はハロットル。
水晶球《筋力:A/敏捷:A/集中:S−/聖剣適正:高》
ギルド員「おお、勇者の器だ……!」
——次にマレーナ。
水晶球《魔力:S/炎適正:SS/精霊親和:S》
ギルド員「炎の貴婦人だ……!」
——最後にマヤ。指先がそっと触れる。
水晶球「……」
受付嬢「あれ、反応が——」
水晶球「ピ、……ピー……ピ——」
(ぱんっ、可憐に砕ける)
一同「壊れたああああ!?」
女神《報告:測定器の上限を超過。破損は設計仕様外。損害金:ギルド負担。謝罪不要》
マヤ「ご、ごめんなさいっ!」
受付嬢「い、いえ! 前例がありますので……“伝説級”は手計算で仮登録します!」
(ざわめきの中、三人はギルドカードを受け取る)
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③ 依頼分担:それぞれの第一歩
掲示板の前。木札に躍る活字。
ハロットル「ゴブリン巣の調査(危険度2.5)……これは僕とマレーナで行こう」
マレーナ「当然。坊や——じゃない、勇者くんの剣、少しは頼りにしてあげる」
マヤ「私は……薬草回収(危険度1)。こういうの、ちょっと楽しそう」
マレーナ「あなたが“それ”……? まあ、森を更地にしないなら、好きにすれば?」
女神《補助:薬草《ルミナ草》自生地、南東の丘陵帯に散在。採集ルート最適化中》
マヤ「ありがと、女神さん。じゃあ、いってきます」
(マヤ、ふわりと手を振って扉を出る。二人もそれぞれの現場へ)
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④ サイド:ゴブリン巣の調査
(薄暗い樹海。湿った土の匂い)
ゴブリン達「ギギャァ!」
ハロットル「先手を取る。右から回り込む。マレーナさん、正面の牽制を」
マレーナ「了解。——フレア・レーン!」
(炎の帯が地を走り、ゴブリンを分断)
ハロットル(一足一刀の間合いへ、静かな斬閃)「抜刀・一閃」
(リーダー格の首元で刃が止まり、平打ちで昏倒させる)
マレーナ「やるじゃない。……森を焦がさずに済みそうね」
ハロットル「君の火力制御が見事だよ。被害は最小限で行こう」
(二人は互いに短く微笑む。息は合ってきている)
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⑤ ソロ:マヤの薬草回収
(丘陵。陽だまりと風。蝶の影)
女神《通知:ルミナ草、右前方3メートル。採集時は根元から2センチ上で》
マヤ「了解。……これ、可愛い葉っぱ。根っこは残すんだね」
女神《警告:過剰採取禁止。生態バランスを推奨》
マヤ「うん、ちゃんと残しておく。ありがと」
(さくさく、籠が満ちていく)
女神《補遺:マスターは“破壊”より“維持”が得意。統計的事実》
マヤ「え……なんか嬉しい」
(のどかな時間——だが、空の色が変わる)
女神《緊急通達:王都上空にSS級災害体を検出。識別——“神竜ブォリタロス”。防衛戦、劣勢》
マヤ(籠を抱きしめ)「マレーナ、ハロットル……!」
女神《転移座標固定。王都直上へ推奨》
マヤ「お願い、連れてって」
(光が跳ね、景色が反転する)
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⑥ 神竜ブォリタロス襲来
(王都上空。黒雲の渦。巨体が翼で影を敷く。地上では兵と冒険者が散り、結界が悲鳴を上げる)
マレーナ「——来たっ! フレア・ドーム、出力上げる!」
ハロットル「結界の継ぎに入る! 市民の避難を——」
(ブォリタロスが咆哮。圧縮された竜息が結界を軋ませ、石畳が波打つ)
観兵「持たないぞ——!」
(その瞬間、光柱。空にマヤの小さな影が浮かぶ)
マヤ「二人とも、下がって。ここは——私に任せて」
マレーナ「マヤ……! 遅い!」
ハロットル「無事で——よかった」
女神《助言:非致死・短時間無力化が市街保全に最適。提案——自作魔法:イナ・アンクル(“災厄の足枷”)》
マヤ「うん。——イナ・アンクル」
(見えない環が空間に走り、巨躯の四肢と翼に“重み”が落ちる。音もなく、神竜が落ちないまま、空で“固定”される)
ブォリタロス「……■■■……!」
マヤ(そっと右手を掲げ)「落ち着いて。ここにいる人たちは、私の大事な仲間なんだ。——だから、“さわらせない”よ」
(手のひらから、透明な静寂の膜が王都全域にひろがる。竜息が消音され、衝撃が布のように吸収されていく)
女神《評価:被害抑制、最適。追撃権限——マスターに一任》
マヤ「——終わろう。イナ・レリーフ(“禍の解体”)」
(黒い燐光だけがふっと抜け、神竜の“凶暴化要因”だけが無に還る。巨体そのものは静かに意識を失い、浮遊のまま拘束される)
マレーナ「……倒してない。暴走だけを、消した?」
ハロットル「なんて精密な……これが“自作魔法”」
女神《全域回復プロトコル展開。広域再生——発動》
(温い光雨。崩れた壁がもとに戻り、負傷者の血が消え、痛みが退く)
市民「……治ってる……!」「女神さま……!」
マヤ(ふり返って微笑む)「よかった……間に合って」
(足元、マレーナが駆け寄り——)
マレーナ「べ、別に……助けられたとか、思ってないんだから。……でも、ありがと」
マヤ「ううん。みんなが守ってくれたから、今があるんだよ」
(ハロットルも胸に手を当て、素直に礼)
ハロットル「助かった。……本当に」
女神《付記:神竜ブォリタロス、鎮静完了。後処理:転送安置を推奨》
マヤ「うん。——転送」
(神竜は遠い無人の高地へ、やさしく翻るように消える)
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エピローグ
(夕暮れのギルド。ざわめきは称賛に変わっていた)
ギルド長「イナ・マヤ。あんた、本気で……王都を救ったのか」
マヤ「みんなで、だよ。……私ひとりじゃ、何もできないもん」
マレーナ(小声)「……こういうところ、ずるい。……好き」
ハロットル(心の声)「いつか、あの背中に届く。剣で、心で」
女神《報告:本日の行動評価“良”。マスター、甘いもの摂取を推奨》
マヤ「ふふ……りんご、食べたいな」
マレーナ「じゃあ買ってくる。あ、支払いはあなたよ?」
マヤ「えぇっ」
(笑い声が、王都の灯にほどけていく)
——そして誰もまだ知らない。今日の“試運転”は、大いなる嵐の序章にすぎないことを。
模擬戦は“やさしい圧倒”を、神竜戦は“非致死の無双”を意識しました。マヤは壊すより“守る/整える”が本質。女神は無機質ボイスで補助・回復を。
次回は、落ち着いた日常……のはずが、王宮から妙な呼び出しが? マレーナのツン甘も増量予定。




