時過ぎて不変
コンコン。
扉を叩く音が、集中していた神経を緩める。
「どうぞー」
勉強していた手と脳を止めて、軽い返事とともに扉へと視線を向ける。
「よお、サボり」
そう言って、姉が扉を開けて入ってきた。ずかずかと入り込みこちらの机を覗き込む。
「見ての通り勉強中です。からかえなくて残念だな」
さっきまで遊んでいたことを棚に上げて言い返す。今勉強していれば、勉強していたことになるのだ。
「いいよ、いいよ。 からかうネタなんざ探せばいくらで出てくる」
たとえばこの辺とか、そんな物騒な事を言いながら家探しを始めたので急いで止める。
「だあぁーーー。 余計なことしなくていいからっ。一体何の用!?」
「おもしろくないやつだな。もう少し、前座を楽しもうって気はないのか」
「いやない。 例え明日で世界が終わるとしてもない」
ま、いいけどね、そんな事をいいながら、こちらに向き直る。
「ちょっと、CD貸してくんない?勉強中に聞くやつ」
「ああ、適当に持っていって」
なんだそんな事かと思いながら、浅くため息をつく。姉はCDの入っている棚を適当に物色して、
「じゃ、これ借りてくわ。じゃね」
手を振りながら扉の向こうに消えていった。
ほんとに何をしにきたのやら。CDぐらい自前で何十枚も持ってるだろうに。
もともとじっとしていることが苦手な姉ではあった。特に勉強とかになると、すぐに手が止まる。そして、すぐに遊びだす。いつまでも落ち着きのない姉だ。
ということは、今のも勉強がだるくなって遊びにきたということか。人のちょっかいを出すことには労力を惜しまない姉なので、十中八九そうなのだろう。適当な口実を作って人の勉強を邪魔しに来たってことか。実際には勉強していなくても、結果はあまり変わらない気がするが。
いつまでも変わらない姉に一人苦笑する。
「さ、勉強しますか」
シャーペンを持って勉強体制に入る。
いうほど長くない時間の後に息抜きをする。姉も弟も似た者通しだということには気付かない振りをした。