表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

トンチキ異世界の短編集

ヤニカス聖女

掲載日:2025/08/30


私は30代女子。

仕事はそこそこ、やる気は正直そんなにない。

態度もけして良いとは言えないが、飄々としてるせいかお客さんには「余裕ある」「任せられる」なんてそこそこ評判が良い。


 

ただ、心の中ではいつも「だっる」「めんどくさ」。そんな私の唯一の楽しみはタバコだった。


 

朝起きて一服。昼休みに一服。仕事終わりに一服。

「やめたほうがいい」とはわかってるけど――やめる理由も特にない。




ーーーー

 

その日も仕事帰り。

ベランダで「はぁ〜今日もお疲れ自分」と一服しようとしたら、ライターを落とした。

拾おうとしてベランダの手すりに頭をぶつける。



目の前にチカチカと火花が散る気がして



…気がつけば、石造りの祭壇の上にいた。

鎧姿の兵士やローブ姿の人々が、息を呑んでこちらを見ている。


「召喚は成功した!」

「聖女様が降臨なされた!」


「なんて?」


 

とりあえず落としたライターを拾って、タバコに火をつけた。




ーーーーー



 ――ざわっ。


兵士たちがざわめいた。


「聖女様が炎を呼ばれた!」

「聖なる火だ!」


なんかよくわからん事言ってるなぁと思いながら煙をふーっと吐いたら、兵士が鼻を押さえて叫んだ。


「瘴気が……晴れた!聖なる霧だ!」


「いや、煙だけど。……効いてんならよかったすねー。知らんけど…」




ーーーーーー



それからというもの、ことあるごとにタバコが奇跡扱いされた。


一服して落ち着いた顔は邪を吸い取り浄化してくださった!と言われ、灰皿を欲しがると供物の器を所望されている!と言い恭しい態度で献上された。


「うーん、まあ一服できるから良いか」



ただ、一つ問題があった。

そう、それは補充がない事だ。


 

異世界にタバコの店はなく、ストックは残りわずか。

「マジでやべぇな」と焦りだした頃、国の学者たちが動いた。


「聖女様の奇跡は“煙草”によってもたらされる。ならば……!」


 彼らは必死に研究を重ね、ついに一つの儀式を完成させた。



ーーーーー


祭壇に集う人々。

詠唱が響き、光があふれる。


そして、目の前に現れたのは――見慣れた縦長の包み。。


「……カートンじゃん」


 

タバコがギッシリ詰まった神々しい箱に、兵士も神官も涙を流した。


「聖なる箱だ!」

「天より供物が届けられた!」


「……ありがた。これで当分安泰だわ」


私は無言で封を切り、一本抜いてすぅーっと吸う。

ああ、この一服のために生きてる。




ーーーーー



それから私は「ヤニカス聖女様」と呼ばれるようになった。自分でヤニカスと言っているからだ。みんな多分意味は分かってないだろう。


そうして国を挙げた儀式が行われ、タバコのカートンが供物として次々と現れる。

人々は涙を流して拝むが、私はただベランダ代わりの城のバルコニーで一服するだけ。


 紫煙を吐きながら、小さくぼやく。


「……異世界でも、タバコはやめらんないな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ