第2話「封印警告」
霧が降りた朝、千歳の机に一通の封書が置かれていた。
封は、かつて母・刹那が用いた式封と同型。
そこには、墨色の文でこう書かれていた。
《零号機、起動兆候アリ。黒式影網、学内に再侵入ス》
そして、裏面には異常な式痕。これは、外部からの情報ではない。
学園内部、それもかなり上位の者による“警告”だった。
「誰が……この文を」
千歳は思考を止めず、目を閉じる。ククロの囁きが届く。
『この文は、名を持たぬ者の手によって書かれた。——あるいは、もう名を失った者だ』
同時に学園では、式神保管室の結界が破られる未遂事件が発生。
中等部所属の生徒が一人、“影に呑まれて”意識不明。
学内の空気が張りつめていく。
式札、霊符、霊装、全てが改修される中、
千歳は教員に呼び出され、一つの映像記録を見せられる。
——影の中に浮かぶ、母・刹那の姿。
そして、その隣にいたのは、見覚えのない少女だった。
その少女の影は、明らかに千歳のそれと“同じ形式”で動いていた。
「これは……私、じゃない」
しかし“同じ存在”である可能性は高い。
ククロが静かに告げる。
『影網の奥には、もう一つの“君”が眠っている』
学園の中に、影の奥に、“もう一人の千歳”がいる。
名を奪われ、影に囚われた少女が。
それは、決して看過できぬ事実だった。