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第2話

気持ちに整理がつかずパニックになった私は走って走って、走りまくった。


「……ってどこ!?」


気がつくと山の中に立っていた。

大きな木々がそびえ立ち、夕日の濃いオレンジ色が長く黒い影をつくっている。


「ヤバい、来たことない場所だ。山だよね。けっこう登っちゃったし、帰れるの? 私」


不安を消すようにブツブツひとり言を呟いていると、屋根みたいなものが見えた。よく見ると風見鶏がついていて微風に煽られくるくると回っている。

それを見上げながら歩いていくと、そこには大きなお屋敷があった。

「立派なレンガ造り……絵本みたい」


庭も広く、花が咲き乱れている。

「うわぁ……キレイ」


庭で水やりをする人物が目に入った。

住人だろうか。

道を聞いてみようと近づくも、思わず歩みをとめた。


(すごい綺麗な男の人……)


如雨露を片手に花に水をやる男性はとても美しかった。

艶のある黒髪は微かな風に揺れ伏せた睫毛は長く切れ長な目を覆い、芸術品のように整った横顔、均整のとれた等身は浮世離れしていた。話しかけるのを躊躇うほどに。


って話さなきゃ家に帰れない。


「あのすみませーん。道に迷っちゃって、お聞きしていいですかー?」


「……」


男性は声に気がつくとこちらへ歩いてきた。

なぜかドキドキしてしまう。

「あのっ道を聞きたいんですけど、私、舞渡(まいど)高校から走ってきて、ここってどこなんですかね……――!?」


手を掴まれた。

血の気のない冷たい手が私の手首を掴み上げる。力が強い。

何事だ!? と驚きで思考停止に陥ってると、男性が私に言葉をかけた。


「棘がある」


「え、……あ、ほんとだ」


すぐ近くに鋭い棘のある花があった。手に刺さるのを防いでくれたのか。


「庇っていただきどうもありがとう」

「山を真っ直ぐ下りれば家のひとつふたつ見つかるだろう。あとはその人たちに聞け」

「え」

「ここは人間が来る場所じゃない。じゃあな」


スタスタと屋敷の中に去ろうとする男性を引き留める。


「ちょっと待ってよ。“人間は”って、まるで自分がそうじゃないみたいな言い方じゃん。お兄さんは人間じゃないわけ」


「お前、噂を知らないのか」

「噂?」


そこで私は思い出す。

生まれた時から近所のおばさんたちや幼稚園の先生からも聞かされてきた噂。

一緒に住む祖父からも口がすっぱくなるほど言われてきた。

『いいか。山の上の屋敷には近づくな。そこには……』


「もしかして人喰い天狗!?」

「だとしたらどうする。泣いてわめいて町の住人に助けでも求めるか」

「求めないよ。私この町の人たち大嫌いだし。今日学校で唯一好きだった人も嫌いになったし」


私の言うことに彼は面食らったような表情を浮かべた。

「人間が嫌いなのか」

「そうだよ。ていうかあなたは人喰い天狗確定なの? 痩せてるしとても人を食べるようには見えないけど」


と、そのとき強い風が吹いた。


風は私の頭に結んだ片方のリボンをさらっていく。


「え、嘘っ。お気に入りなのに!」

ジャンプしてとろうとするも空の上まで舞い手が届かない。


「騒がしいやつだな」

男性はため息を吐くと、同時に背中から翼を生やし空を舞うと風に揺れるリボンを掴んだ。

って翼!?


「ほら」


リボンを持ち着地する彼に私は興奮気味に詰め寄る。


「すごい本物!? 天狗初めて見た! 本当に山に住んでるんだね。翼も漆黒っていうの、綺麗で強そうだし格好いい! 触っていい?」

「触るな」

「天狗って鼻がびよーんて伸びてて顔も真っ赤だと思ってた。私の髪みたいに。あ、いやもっと鮮やかだろうけど」

「リボン、大事ならちゃんと結んでおけ」

彼はほどけた髪をひと束手にとると、リボンをくくりつけた。左右非対称なツインテールの完成だ。


「ど、どうもありがとう」

「綺麗な髪だな」


その言葉に心臓が跳ねた。

綺麗な髪って。

そんなこと初めて言われた。

ずっとこの髪の色のせいでいろいろ大変な目にあってきたのに、この人は町の人たちと違うことを言う。


学校での出来事より、山の上の庭先で出会った男性のことで私は頭がいっぱいだった。



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