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第7話 収穫祭③


 その知らせが飛び込んできたのはマッドトード狩りの4日目だった


 今年はラージトードの出現が例年より早かったが討伐ポイントに飢えた冒険者たちに素早く討伐されたため、あまり気にしていなかった


 3日目にもラージトードの報告が2件あったが、そんなこともあるんだな程度に考えていた


 今思えばそれらは予兆だったのだろう・・・・


「グオオオォォォォォォ!!!!!!!」


 マッドトード狩りの参加者や観光客などで賑わった沼地に耳をつんざくような咆哮が響いた

 誰もが耳を塞ぎその場で動きが止まる

 咆哮が収まると静寂に包まれ、誰が叫んだかわからない声が響いた


「キングトードが出たぞ!!」


 仮設された冒険者ギルドは蜂の巣をつついたような大騒ぎだ

 先ほどまで賑わっていた沼地は観光客の悲鳴で溢れかえっている


「キングトードの出現は本当ですか?」

「はい!そこの丘からも姿を確認できます!」

「わかりました、緊急依頼を発動します!

 Cランク以上の冒険者はキングトードおよびラージトードの討伐!

 Dランクの冒険者はマッドトードの討伐!

 Eランク以下の冒険者は観光客の避難誘導!

 回復魔法が使える方はランク問わず仮設ギルドに集まって救護エリアを設置!

 負傷者はそちらに誘導!」


 ギルドマスターのハンツは部下たちに次々指示を飛ばす

 長年観測されなかったキングトードが出現した

 こうなってしまうと祭りどころではない

 安全に祭りを進行できる状況ではなくなった

 

 キングトードはラージトードよりも上位の存在で、蛙型魔物の最上位種だ

 単体の討伐ランクはBランクだが、ラージトードを従えており、そのラージトードはさらにマッドトードを従えている

 配下の魔物を組織的に動かす能力を持っており討伐にはAランク相当の実力が必要となる


 知能も高く、現状この沼地で最大の食料は何かをわかっている

 それはもちろん人間たちである

 キングトードに統率されたラージトードやマッドトードが人が密集しているこの場所を狙って襲ってくる可能性が高い


「今いる高ランク冒険者は?」

「監督官として招集した冒険者が5名、そのうちAランク2名、Bランク3名です」

「時間はかかるでしょうが、キングトードを討伐できる最低限の戦力はありますね

 であれば、避難誘導を最優先とし、沼地に防衛線を構築してください

 街からの増援は半日はかかるでしょう、それまで持てばよいですが・・・・」


 マッドトードの数が例年通りであれば、4日目5日目の2日間で総討伐数は軽く500匹は超える

 キングトードが現れた今、地下に潜んでいたマッドトードが一斉に地上に出てくるだろう

 その数もキングトードの出現を考慮すると例年よりも多いことが予想される

 外の明るさに慣れるまで動きは少ないだろうが、数の暴力は単純で強力な力だ


 今いる冒険者で防衛線を構築したとしてもすべてを抑えることは難しいだろう

 近くには小さな村がいくつかある

 マッドトードが沼地から溢れることだけは避けたい

 これはキングトードの討伐が先か防衛線の決壊が先かの我慢比べでもある



 キングトードの出現により、祭りの雰囲気は一変した


 Dランクの俺たちも沼地の防衛線に参加しなければいけないが、ミリアが魔力回復薬の影響で魔法が使えないため、避難誘導を行う

 この状況で魔法の使えないミリアを1人にすることはできない


「馬車はお年寄りや子供優先で!徒歩でも大人の足なら日暮れまでには街に着けます!」


 ギルド関係者が声を張り上げ誘導する

 冒険者の役割はマッドトードが現れた時の対応と逃げ遅れた人がいないか巡回することだ


「冒険者さん!助けてください!息子が瓦礫の下敷きになって身動き取れないんです!」

「わかりました!案内してください!」


 俺たちが巡回していると若い男がすがるように話しかけていた

 男の言葉を聞き急いで現場に向かう


 「早く!こっちです!」


 男の足が意外と速く、運動が苦手なミリアは遅れていた


「・・・・アシュ、先に行って」

「だめだ、ミリアを置いていけない」

「・・・・ダメ、子供が優先」

「それならミリアを背負って・・・・」

「・・・・私がいても何もできない」


 【魔力変換】を使えばミリアを背負いながら走れるが、魔法が使えないことに気後れを感じているのだろうか

 もしマッドトードと遭遇したらどうだろう

 ミリアを守り切る自信はあるが、他の人は・・・・ミリアもそれがわかっているのかもしれない


「わかった、ミリアは仮設ギルドに戻ってて」

「・・・・うん、《《ごめんね》》」


 どこか寂しそうなミリアをしり目に男の後を追いかける


 だいぶ沼地の近くまで来た

 このあたりまで来るともう残っている人はいない

 だいぶ走ったと思うがまだだろうか


「子供がいる場所は近いのですか?」

「・・・・」


 男は返事をせずゆっくりと立ち止まった

 周囲はテント覆われ視界は悪い

 人々が慌てて逃げたためか物が散乱している


「くっくっく・・・・はっはっは!!バカめ!!!」


 男が高笑いして振り返る

 どこかで見覚えが・・・・


 そう思っているとテントの陰から周囲を囲むように男たちが現れた

 これはつまり、《《そういうこと》》だよな?


「あぁ、あのときの恥ずかしい先輩たちじゃないですか

 全裸友達とお祭り観光ですか?」


 挑発してみたがニヤニヤとしているだけで乗ってくる様子はない

 だいぶ余裕があそうだ

 かなり計画を練ってきたな


「ふん、自分の立場をわかっていないようだな?おい!」

「へっへっへ、下手な真似すんじゃねえぞ?お前の可愛い彼女がどうなっても知らねえぜ?」

「・・・・ミリアっ!」


 新たに表れた男はミリアに短剣を突きつけていた



「へ!わかったら大人しくしてろよ」

「少しでもおかしな真似したらあの女がどうなっても知らねえぜ?」

「さっさとこいつを拘束しろ、邪魔が入る前にずらかるぞ」


 すべて計画通り進んでいる

 どうやったかは知らないがあの男が起こした騒ぎ(キングトード)のおかげで会場は混乱している

 しばらく助けも来ないだろう

 後はこいつらを拉致って、気が済むまでボコして、身代金をもらうだけだ

 これでしばらく遊んで暮らせそうだ


「ふん、《《こんなもの》》を使うまでもなかったな」


 懐から小さな便を取り出す

 中には透明な液体が入っている


 これもあの男にもらったものだ

 身体能力を飛躍的に向上させるものらしいが未熟なものが使うと醜い化け物と化して絶命してしまう

 試しにスラムのおっさんに飲ませたが変わり果てた姿で動かなくなった

 俺達レベル(Dランク)の冒険者であれば問題ないらしいがあいつの言うことを鵜呑みにするほど馬鹿じゃない

 こんな怪しい液体、飲まずに済むに越したことはない


 ズン!!!


「あ?なんだ?」


小瓶に視線を向けていた間に衝撃音が響いた


「ぎゃああああああああ!!!腕があああああああ!!!!」

「っな!」


 叫び声の方を見ると、仲間の腕があらぬ方向に曲がっていた

 男が状況を理解するまでに少し時間がかかった


 まず考えたのは助けが来た可能性

 しかし周囲を見渡してもそれらしき人影はない

 仲間に気づかれず接近してくるとも考えにくい


 他は遠距離からの魔法攻撃

 その場合、仲腕のみをピンポイントで狙う意味がない

 自分たちにも何かしらの被害があるはずだ


 そして残る可能性

 あえて考えないようにしていた可能性

 なぜならそれが最も最悪の答えだから


 すぐそこにいたはずの少年アシュの姿がなくなっていることに気付いたのと同時に再び衝撃音が響いた


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