第5話 収穫祭①
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「皆様、今年もこの季節がやってまいりました
今年は例年になく豊作とのことで多くの作物が実っております
これも単に皆様のご尽力あってのこと
本日の収穫祭は心ゆくまで楽しんでいただきたい」
領主のありきたりな挨拶のあと盛大な拍手と共に収穫祭の開催が宣言された
街のいたるところで音楽が鳴り響き、屋台からはおいしそうな匂いが漂ってくる
結局、募集した臨時メンバーは集まることなく収穫祭を迎えてしまった
レイ兄と会うまでにCランクになる予定だったのだが・・・・
パーティを組んだことない相手といきなり上位の依頼を受ける人は少ないようだ
同ランクの依頼で連携を高めてから上位の依頼に挑戦するのが通例らしい
とニーナさんは言っていたが、原因は明らかだ
「げ!鬼畜ルーキー!」
「バカ!刺激するな!」
例の件で完全に危険人物扱いされている
噂が独り歩きしどんどん誇張されているようだ
今度イーリスに会ったら文句だけでなく、高いものを奢ってもらうと決めた
俺たちはメインイベントでもある、討伐大会に参加するため会場の沼地に向かっている
討伐大会とは毎年収穫祭に合わせて行われ、パーティ単位でのマットトード討伐数を競う大会である
まもなくマッドトードが繁殖期に入るため、先に討伐しようということで始まったのがこの大会だ
それでも毎年討伐大会を行えるほど繁殖しているのだから恐ろしい繁殖力だ
冒険者資格を持っていれば参加できるが、参加できるのはCランク以下と限定されている
マッドトードはEランクのカエル型魔物であり、Dランク以上であれば危なげなく討伐可能だ
大きさは人間と同じくらいで舌や爪などを使って攻撃してくる
討伐大会は各方面へのアピールの場ともなっており、低ランク帯の冒険者はもちろん、武力を誇示したい貴族の私兵や傭兵なんかも、わざわざ冒険者登録を行って参加している
1パーティ最大10名まで登録できるため、討伐大会のために臨時でパーティを組む冒険者も多い
もちろん、自分たちの命運がかかってるかもしれない大事な大会に、得体の知れないアシュたちと臨時パーティを組んでくれる冒険者はおらず・・・・
「2人での参加ですね!パーティ名はどうされますか?」
「トラガリでお願いします」
「承りました!
では開催までしばらくお待ちください!」
受付けを済ませあたりを散策する
沼地と草原の境目には多くのテントが張られ、討伐大会用の特設会場となっていた
食べ物の匂いやら、人混みの熱気やら、いろいろなものが混ざり合って祭り特有の空気が出来上がっている
会場の中央にはステージと巨大な掲示板が設置されており、掲示板には参加チームの下馬評が張られていた
どうやら討伐ポイントの順位を予想する賭けが行われているようだ
通常種が1ポイント、上位種が10ポイント獲得できるらしい
掲示板を眺めてみると、当然俺たちの名前はなかったが、知った名前が1つだけあった
「白銀の大鎌って確かイーリスさんが所属してるっていうクランだっけ」
「・・・・?」
うん、ミリアは覚えていないらしい
一応チコの森で助けてもらった恩人なんだけど・・・・まぁいいか
大手と聞いていたがなるほど、下馬評でも白銀の大鎌が1位になっている
討伐大会の会場となる沼地に向かうと既に冒険者でごった返していた
みんな良い位置からスタートしたいらしく場所取りで揉めている人もいる
沼地を見張らせる丘の上は観客が押し寄せ、開催を今か今かと待っているようだ
俺たちも冒険者の中に混じりスタートの準備をする
しばらく待っていると、群衆の一角から領主に現れ、討伐大会が開始が宣言された
「・・・・であるからして、これより討伐大会の開催を宣言します!」
「「「うおおおおおおおおおお!」」」
討伐大会の会場となる沼地は、観客の歓声と冒険者の怒号や緊張感と殺気が入り交じり独特な雰囲気となっていた
みんなが自分たちの狩場を探している中、早いパーティはすでにマッドトードを狩りはじめている
俺たちはというと、他の参加者が少ない位置まで移動している
狩場が近いといらぬ揉め事を起こしかねない
まだ戦闘していないにも関わらず、泥だらけのミリアを背負い足場の悪い沼地を走る
もちろん【魔力変換】を使って
大会の熱気に充てられたミリアは自らの運動音痴を忘れ、意気揚々と走り出したはいいものの沼地のぬかるみに足を取られ見事にダイブした
あのとき鼻で笑って通り過ぎた冒険者たちは絶対に許さない
「よし、このあたりでやろう」
「・・・・うん!任せて!」
ミリアのモチベーションはまだ高いようで安心した
「・・・・いくよ」
ミリアは【並列魔法】を使い、地面の2か所に魔法陣を発現させる
「・・・・ロックスパイク!」
一瞬の沈黙の後、ズズズという地響きとともに沼地から岩の棘が突き出た
棘と同時にカエル型の魔物が1匹、無防備な姿で打ち上げられた
「あとは任せろ!」
マッドトードの落下地点に移動すると顎を狙って拳を突き上げる
落下の勢いと打撃の衝撃でマッドトードは動かなくなった
マッドトードを拾い上げ貸し出されたソリに載せる
討伐したマッドトードは受付に持っていくことで討伐数がカウントされるルールだ
「よし!1匹ゲット!」
「・・・・さすが!」
「これは幸先がいいね、どんどん行こう!」
マッドトードの討伐方法はすでに確立されている
沼の底に潜んでいるマッドトードを魔法で引きずり出し、地上でトドメを刺す
他の参加者たちもやってることはほぼ同じだ
マッドトードは魔法耐性が高く、初級魔法の1撃程度では討伐できない
また地中にいることが多いため目が退化しており、日中の明るい地上に突然放り出されると光に驚いて失神してしまう
そうなれば駆け出しの初心者でも討伐は可能だ
そんなマッドトードの特性もあり、この討伐方法が普及している
1つ欠点があるとすれば、この広大な沼地の中でマッドトードの居場所がわからないということ
しらみつぶしに魔法を打っていくしかない
ミリアが精霊と話をしても地中のことまではわからないらしい
ゆえに、1発目からマッドトードをゲットできたのは幸先が良い
「・・・・ロックスパイク!」
「・・・・ロックスパイク!」
「・・・・ロックスパイク!」
場所を少しずつ変え、作業を繰り返す
ミリアの【並列魔法】を駆使しているため倍の効率ではあるが、当たりを引くのは大体3回に1回くらいだ
「ふー、一旦こんなもんかな」
「・・・・うん」
「納品所に持っていって休憩しよう」
数匹討伐したあたりでソリが山盛りになった
受付付近に設置された納品所に納品することで討伐数がカウントされる
もちろん納品した分には報酬が出る
納品所では多くの係員が慌ただしく作業しており、大量に運ばれてくるマッドトードをテキパキと解体していた
マッドトードから採れる素材は良質なものが多い
魔法耐性のある表皮は防具になり、肉は新鮮なものほど臭みがなくさっぱりとしてうまい
納品所でさばかれた肉はどんどん屋台へと運ばれていく
新鮮なマッドトードの肉は収穫祭の名物でもある
納品を済ませ、昼食がてら屋台をめぐる
食べ物の屋台が集まっている区画には観光客も多くにぎわっていた
「串焼きが名物らしいからそれを食べたいね」
「・・・・うん!」
「串焼き5本くだ「おじさん串焼き3本!!」
「はいよ!5本と3本ね!」
注文が被ってしまったが屋台のおじさんはちゃんと聞き分けたようだ
これが熟練の技か