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第2話 始まりの街 スケリー


 ここはスケリーの街

 俺たちが住んでいた森から最も近い街がここだ

 大きな街だが師匠とよく買い物に来ていたのでどこに何があるかは何となく覚えている


 まず初めに冒険者ギルドに向かう

 ミリアの冒険者登録と道中で狩った魔物の素材を売るためだ


 大勢の人を見るのは初めてだからか、ミリアはずっと俺のマントにしがみついている

 それでも恐る恐る周囲を見渡してることから好奇心はあるようだ


 冒険者ギルドに入るとしがみつく力がより強くなる

 独特の薄暗さと併設された酒場から漂う雰囲気は俺も体が強張る


「こんにちはー!

 今回はどのようなご用件でしょうか?」

「ぼ、冒険者登録をしたいでしゅっ」

「ふふ、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ」


 噛んだ、噛んだし笑われた


「お2人分でいいですか?」

「い、いえ、1人分です

 俺は既に登録済みです」

「失礼しました

 ()()()さん」


 一瞬冒険者カードを見せただけだが受付のお姉さんはしっかり名前を見ていたようだ


「アシュさんのランクですと他に紹介状が必要になりますが・・・・

 お持ちでしょうか?」


 冒険者になるには出身地の(おさ)もしくはCランク以上の冒険者からの紹介が必要になる

 俺たちが冒険者になることを見越していたのか、師匠は人数分の紹介状を書き残していた

 俺は受付の人に師匠の紹介状を渡した


「・・・・」


 受付のお姉さんの表情が一瞬で変わった

 というか固まった


 あれ、大丈夫これ?

 師匠が失踪してから2年経ってるし・・・・

 紹介状に有効期限とかあるのだろうか?

 沈黙が続けば続くほど不安になってくる


「あ、あのぉ・・・・」

「し、失礼しました!少々お待ちください!」


 受付のお姉さんはそう言って受付の奥へ慌てて走っていった

 そしてそんな時間もかからずお姉さんは戻ってきた

 なんか落ち着きのない人だ


「お待たせしました!冒険者カードをお預かりできますか?」

「はい・・・・どうぞ」

「ありがとうございます!

 では、こちらにどうぞ!」


 冒険者ギルドの奥へ案内され言われるがまま着いていく

 案内された部屋に入ると男が1人待っていた


「これはこれは

 お待ちしてましたよ」


 部屋にいた男は最初にそう言った

 受付のお姉さんは俺たちを案内すると部屋を後にした


「初めまして

 私はこのスケリーの街のギルドマスターを務めるハンツといいます」


 ハンツは白髪を耳元で切りそろえ丸眼鏡をかけている

 40代半ばくらいだろうか、知的な雰囲気が漂っている

 机の上にはさっき手渡した紹介状が開かれた状態で置かれている


「懐かしい方の紹介状をお持ちですね」

「師匠をご存じなんですか?」

「ええ、ブレードタイガーの素材を毎回持ってくれば嫌でも覚えますよ」


 ハンツは話しながら、ソファに座るよう仕草で促した


虎狩(とらがり)の異名、知りませんか?

 弟子の君たちも一部では有名人なんですよ」


 師匠にそんな異名があったとは知らなかった

 人の好さそうな笑顔で話しながらハンツも向かいのソファに座った


「ちょうどよかった

 俺たちは師匠を探しに来たんです

 どこにいるか知りませんか?」

「なるほど、残念ですが私も虎狩がどこにいるのか知りません」

「そう・・・・ですか」

「もしかしたらローレイさんなら何かご存じかもしれません」

「レイ兄が?」


 レイ兄は我が家を最後に旅立った兄弟子だ

 物知りで頭が良く、俺とミリアに色々なことを教えてくれた先生でもある


「はい、2年ほど前にこの街に来て以来、時々連絡をくれるんですよ」

「レイ兄もこの街に?」

「いえ、今はこの街にいません

 が、近々この街で収穫祭があるのでそれに合わせてこっちに来ると思います

 商人のローレンさんならこの機を見逃すはずがないので

「レイ兄は商人をしてるんですね」

「ええ、かなり繁盛してると伺ってますよ

 ローレイさんには私から連絡しておきましょう」

「ありがとうございます」


 頭のいいレイ兄のことだ

 師匠のことを何か知っているかもしれない


「ちなみにお2人はブレードタイガーの素材をお持ちですか?

 高く買い取りますよ」

「よくわかりましたね」

「虎狩のお弟子さんみなさんそうでしたから」

「あーなるほど・・・・ミリアお願い」

「・・・・うん」


 どうやらみんなここでブレードタイガーを換金していたようだ

 ミリアは空間魔法からブレードタイガーの素材を出す


 ブレードタイガーは素材となる部位が多く、お金になるからと師匠と狩りをしては売りに来ていた

 弟子たち当番制で手伝わされていたので、考えることはみんな同じようだ


「やはり、空間魔法も使えるんですねぇ」

「俺は使えませんが、他のみんな使えますね」

「・・・・師匠に教えてもらった」

「教わってできるものではないのですが・・・・

 そういうのにも慣れました」


 ハンツはブレードタイガーの素材を確認するように手に取った


「さすがですねぇ

 ブレードタイガーの素材をこれだけ綺麗に・・・・!」

「師匠にさんざん手伝わされたので」


 ハンツは席を立ち、棚に置かれた金庫から袋を取り出した


「ここに金貨50枚あります

 今後の活躍に期待して少し色を付けさせていただきました

 これでいかがですか?」

「こんなにいいんですか?

 ありがたくいただきます」


 師匠と素材を売りに来た時は1頭当たり大体金貨30~40枚くらいだった

 確かに相場より多いようだ


 その他の魔物の素材も換金してもらい、合計で金貨70枚ほどとなった

 金貨をミリアの空間魔法に収納したとき扉がノックされた

 部屋に入ってきたのは、さっきの受付のお姉さんだった


「うわっ!!

 ・・・・し、失礼しました」


 机の上の素材の山を見て一瞬引いたがすぐに気を取り直したようだ


「ちょうどいいタイミングですね」

「冒険者カードの準備ができました

 こちらをどうぞ」


 俺とミリアはカードを受け取る

 ミリアはどことなく嬉しそうだ


 ふと自分のカードを見るとDランクと書かれていた

 はて、俺はFランクだったような


 不思議そうな顔でカードを見てるとハンツが補足した


「本来、冒険者のランクはGランクから始まるものなのですが、ギルドマスターの権限でDランクまでだったら自由に与えられます

 Bランクのブレードタイガーの素材を持ってきた時点で君たちの実力は十分ですし、それが嘘でないことは今までの兄弟弟子の方々が嫌というほど証明してくれてますから

 本当はBランクを与えたいとこなのですが・・・・決まりでしてね・・・・」


 ハンツ曰く、Cランク以上になるには昇格試験を受ける必要があるそうだ

 試験を受けるには冒険者ギルド本部への申請が必要で、条件を満たしていないと却下される

 実績が何もない俺たちは、すぐに試験を受けることは難しいようだ


「それと老婆心ながら・・・・」


 ハンツは今までで1番真剣な顔になった


「君たちほどの実力があれば嫌でも目立つことでしょう

 そういう人たちの周りには良くも悪くも人が集まります

 君たちの兄弟子に目立つのが好きな人がいたでしょう?」

「あー・・・・

 えぇ、まぁ・・・・」


 脳裏に約2名ほど思い浮かんだ


「彼らにも少なからず、いざこざがありました

 それを是とするかは君たち次第ですが、見たところそういうことを好まないように感じましたので」

「・・・・」

「人を見る目には自信があるんですよ」


 確かにミリアは平穏に暮らしたいタイプだ

 ミリアがそう望む以上、俺もそうしてあげたいと思っている


「特に空間魔法はあまり他の人に見せないほうがいいですよ」

「空間魔法が?なぜです?」

「空間魔法が使える人材は希少です

 その利便性から商人や貴族が、のどから手が出るほどに欲しい魔法なんですよ

 なので、空間魔法の使い手を自分の手元に置こうと誰もが躍起になるのです」

「なるほど・・・・」

「質の悪い者は監禁したり無理やり奴隷にするものもいます

 十分気を付けてください

 説教みたくなってしまいましたが私から伝えたいことは以上です」

「いえ、ありがとうございます

 気をつけます」

「さて、後のことはニーナに任せます

 冒険者のことでわからないことがあったら彼女に聞いてください」

「ニーナと申します

 よろしくお願いしますね」

「こちらこそよろしくお願いします」


 受付のお姉さん(ニーナ)はにっこりと微笑んだ


 その後、依頼の受け方や素材の売り方など冒険者の基本をニーナさんに教えてもらった

 師匠と一緒に来たことはあったけど手続き的なことは何も知らなかったから助かった


 ついでにパーティー登録も済ませておく

 パーティーを組んでいると受注できる依頼が増えるようだ

 パーティ名は知名度が上がったときに師匠に気付いてもらえるよう『トラガリ』とした


 冒険者ギルドを出ると空は赤く染まっていた

 宿と夕食はニーナさんのおすすめを教えてもらった

 熊猫(くまねこ)亭と書かれたお店は1階は食堂、2階3階は宿になっている


 ニーナさんの紹介だと言うと夕食を少しサービスしてくれた


 夕食を済ませ、落ち着いたところで今後の予定の確認をする

 師匠の居場所はわからなかったけど、レイ兄とは会えそうだ


「レイ兄が来るまでこの街に留まろうと思うんだけど、それでいい?」

「・・・・うん、大丈夫」

「その間に2人ともCランクを目指そう

 昇格試験の条件を満たすために明日からは依頼を受けようと思う」

「・・・・わかった!」

「『Cランクになったら冒険者として一人前だ!』って師匠が言ってたしね!」


 師匠の真似をするとミリアが笑ってくれた

 我ながらうまく真似できたと思う


「それじゃ、おやすみ」

「・・・・おやすみ」


 久々のベッドに意識は一瞬で吸い込まれていった


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