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005 初パーティ!

 プレイヤー名:レオンハルトは、「エターナルジェネシス:ダイブイン」をプレイし始めてから三週間が経ったところだった。


 VRMMOは初めてだったが昔からゲーム自体は好きで、プレイスタイルは常に王道だった。なので「エターナルジェネシス:ダイブイン」でも一番わかりやすい職業『剣士』を選んだ。レオンハルトというプレイヤー名は歴史上の騎士に由来している。


 彼は『転職』が可能となるレベル20までソロでプレイしていたが、多くのプレイヤーがフレンドや仲間たちとゲームを楽しんでいる様子を見て、羨ましい気持ちを抱き始めていた。


 掲示板で『虹孔雀』クランのメンバー募集を見つけたのはそんな時だった。


 軽くメッセージで連絡を取り合い、リーダーの紫音と話したのち、その場の流れでパーティを組んで這い寄る沼地に潜ることになったのだった。


 パーティメンバーはレオンハルトを含めて四人。

 細身のエルフでクランマスターの紫音(魔導士(ウィザード))、体格が大きい副クランマスターのメルトロン(聖職者クレリック)、大きなハンマーを持ち歩いているりる汰(槌士)だった。

 初めは緊張していたものの雰囲気よく狩りは進み、想定より早く目的地まで到着することができた。


「ここが霧蜂の巣穴ですね。レオンハルトさん、初めてだとちょっと驚くかもしれませんよ」

 紫音が軽く笑いながら言った。


「でも言っても虫ですよね。僕リアルでも全然大丈夫なんですよ」

 レオンハルトは剣の柄を撫でながら答えた。

 レベル20になり戦士に転職した彼だが、まだ戦士となってから日が浅いので剣士だった頃のスキルを主に使って攻略していた。


「エターナルジェネシス:ダイブイン」ではレベル20毎に転職ができる。転職すると新たな職業に就いてスキルを得ることができる上に、前職のスキルも引き継げる。


 戦士は剣士と似た近接戦闘職だが、より荒っぽい戦闘スタイルが特徴だ。剣士は剣での戦いを主とするが、戦士は使える武器の幅が広く、また使えるスキルも『砂かけ』や『頭突き』といったようにある種姑息な戦法までカバーしている。


「気をつけてね、奥に女王がいるから」

「はい!」


 背後の紫音の声に返事をしながら、一人ずつしか通れない狭い巣穴の入り口に屈みながら踏み込む。

 巣穴の中も沼地と同じように不思議と霧が漂っており、視界が悪かった。この霧に扮して近づいてくる霧蜂は、音を頼りに警戒しなければならない。

 

「よいしょっと。……ありゃ、襲ってこないね。前は入った途端襲われたんだけど」

「そうなんですか? 運がいいんですね、僕たち」

 後から入ってきた槌士のりる汰が怪訝そうに言うが、レオンハルトは楽観的に答えた。


「ん、なんだこ――」

 りる汰が巣穴の壁に貼ってある奇妙なトランプに近づこうと――


 パァンッ! パァンッ!と突然大きな爆音がいくつも響き渡り、狭い巣穴の中が騒然となった。


「な、なんだ!?」

 レオンハルトは反射的に剣を構えるが、敵が襲ってくる様子はない。ただ、爆竹のような音が巣穴の中で響き渡っている。


「りる汰、何があった?!」今まさに巣穴に侵入しようとしていたメルトロンが叫ぶ。


「わからない! 何かが爆発した! ……まずいかも」

 りる汰がそう呟いた時、巣穴の奥から霧蜂の大群が猛スピードで飛翔してくるのが見えた。


「レオンくん、逃げて!」

「――いや、僕も戦います!」

 レオンハルトは蜂の群れに絶望を感じながらも、勇気を奮い立たせて言った。


「……やるしかないか!」

 りる汰は言い終わらないうちに蜂の群れに向かって走り出し、その勢いでブォンと槌を振り上げた。その一撃だけで数匹の蜂が霧散する。


 皆でやれば倒せる――そんな期待を胸に抱いた時だった。


「PKだ!」

 巣穴の外から、メルトロンが叫び声が聞こえた。


(は? PK?)


 レオンハルトの思考が停止する。

 レオンハルトはPKというもの自体は知っていたが、これまでのゲーム人生でそういった類の行為に出会ったことはなかった。無論、まさかこんな初参加のパーティ攻略でPKに出会うなんて、一ミリたりとも考えてはいなかった。


「PKって――」

 レオンハルトが問い返そうとする間もなく、りる汰が仕留めきれなかった無数の霧蜂が襲いかかってくる。


 それから先は、あまり覚えていない。


 がむしゃらに剣を振り回し、スキルを使い切って霧蜂を追い払おうとしたものの、数の暴力には勝てなかった。

 二人は最後の瞬間まで粘ったが、結局巣穴の中で倒れた。


『You were killed by 霧蜂』

『死亡ペナルティとして、所持金と経験値を10%失いました。』

『死亡ペナルティとして、蒼月のロングソード、毒熊の毛皮をドロップしました。』


『ログアウトしますか? リスポーンまで59分59、58、57、56、55秒――』


 ***


 蒼月のロングソードか、悪くないな。


 俺はそんな風に思いながら剣士の青年のものと思われるドロップアイテムをインベントリにしまう。

 このゲームは金策がかなり大事なので、こういう高値で売れる武器類は当たりといえる。


 俺は聖職者の男を倒してから、しばらく巣穴の外でミラージュウォールを掛けて待っていた。が、一向に出てくる気配がなかったので巣穴に侵入すると、残りの二人は霧蜂の群れに呆気なくやられてしまったようであった。霧蜂のドロップアイテムが数多く落ちていたので結構善戦はしたのかもしれない。


 侵入者を倒して満足したのか、痛手を被ったからか霧蜂の群れは奥に戻ったようだ。俺は霧蜂を刺激しないようさっさとドロップアイテムをかき集めて巣穴から出た。ちなみに槌士からのドロップアイテムは守護者の腕輪――装備者の防御力補正――と回復ポーション(中級)、俗にいう赤ポだった。


 無事にPKを達成した俺は帰還石――最後に訪れたマイホームのある街にワープする――を砕いた。瞬時に自由都市ヴァルストの門前にワープした俺はマイアジトに向かいながら、ぼんやりと次は何をしようかと考える。


 通常のプレイで考えればレベル上げをしてトリックスターを極めていくのだろうが、そういうのはもう一周目で存分にプレイしたからなぁ。


 自由度が売りの「エターナルジェネシス:ダイブイン」にも一応、ストーリーというものは存在している。よくあるMMORPGよろしく、ただ順番におつかいクエストをクリアしていけばこのゲーム世界のルールや常識を知れて、武器防具も一通り揃って、順当な難易度で魔境に挑み、レベルも上がって、みたいなチュートリアルがある。


 それが終わるとあとは好きにしてくださいね、と言った感じで放り出されるのだが、このゲームが他のゲームと違うのはNPCがプレイヤーと区別がつかないほど人そのものであるということだ。


 このゲーム世界の住人は本当にここで生活しているかのように振る舞い、実際彼らの働きが経済を動かし、街々を発展させ、世界が動いている。例えば先日俺がガルヴァーに売り払った指輪は闇商や影商などのNPCを辿り、またどこかの店頭でプレイヤーに渡っていく、というように。


 俺は一周目では魔導士・魔導具職人を極めて上位職である大賢導刻師となり、戦闘も生産もします、みたいな二足のわらじプレイをしていた。それはそれで楽しく充実していたが、二周目は打って変わったマイナープレイをしたいと思い、ほとんど知られていない不人気な職業を取り、運良くトリックスターという上位職を発見した。


 控えめに言っても戦闘能力が高いとはいえないトリックスターでPKをするのは大変だが、逆にその難易度の高さが俺にとってはモチベーションになっている。


 PKをしていればドロップアイテムを売ってギル――この世界でのお金の単位――は稼げるが、経験値は得られない。ソロプレイの戦闘職は魔境で黙々と魔物を狩らねばほとんどレベルは上がらない。


 まだ63レベルの俺にはレベル上げの余地は全然ある――最前線組のレベル帯は80前後――が、この弱い職業でパーティも組めず一人こそこそと魔物を狩るのは割と苦行だった。実際ここまで育てるのにも相当時間がかかったし、苦労した。


 なので最近はPKをしながらただただお金を貯める、みたいな生活をしていたのだが。

 イベクエかー。マジでどうしようかな。せっかくここまで死なずに来てるからリスク犯して死に晒したくないんよな。


 何はともあれ情報収集が先か。マイアジトに辿り着いた俺は、アジトに籠って掲示板を巡回し始める。


 ***


虹孔雀クラン専用掲示板 その1


188:紫音クランマスター

【緊急】先ほど這い寄る沼地探索中にPK被害受けました

犯人は例の”プレイヤーキラーさん”でした泣

もし沼地行く機会ある方いましたら、巣穴周辺でレオンハルトさんのロングソードと私の杖が落ちてないか確かめていただけるとありがたいです。多分回収されていると思いますが……。


189:メルトロン(副クランマスター)

やられました。完全に。

幻術+謎の爆竹で霧蜂誘導→混乱中に一人ずつPKという手口。マジえぐい。

余談だけど、幻の壁抜けた瞬間にバナナ踏んでスッ転びました。頭ぶつけて意識飛ぶかと思った


190:りる汰

>>189

ちょwwwバナナwwwそれほんと?w

私が必死で蜂と戦ってる間に……外で何やってたのw

でもあれ完全に計算された動きだったよね。蜂の誘導とかそんなことできるんだって感じ。あの人マジで慣れてるわ


191:ココペリ

>>188 189

バナナ!?!?!?!?!?!?!?!?

ちょっと見てなかった間に何が起きてるの!?!?

爆竹+蜂+幻術+バナナって、もはやショータイムでは???

てか、プレイヤーキラーさんって名前のセンスも含めてイラッとするw


192:紫音クランマスター

>>191

正直もう笑うしかない……!

でもこうやって冗談にできるくらいにはみんなメンタル無事でよかった。

レオンくんも初参加でこんなことになって申し訳ない!もしよかったら剣の素材集めにまた一緒に行こう!


193:レオンハルト

>>192

何もできずすみません。。。

ぜひお願いします! 紫音さんの杖作りも手伝わせてください!

次はもっと上手くやれるように頑張ります!


194:ブルーマウンテン

>>188

そのPK、前にも掲示板で話題になってたよ。神出鬼没で見たことないスキルで殺してくるって。

暫くは復讐権で無敵あるから大丈夫だけど今後はスカウト系の職業の人と一緒に動いた方がいいかもなぁ。。。あ、ちなみに俺次はスカウト系に転職するつもりだからお誘い待ってます^^


195:メルトロン(副クランマスター)

>>190 191

俺の尊厳はバナナで滑って落とされた。

だけど、俺はまだ立ってる。

次は“狩る側”にまわる。


196:千鳥足ポルカ様

>>189

読んでるだけで情報量すごいんだが!?幻術って幻壁のやつ?ほんとにショーじゃんほんとにそれ相手一人なの?手際良すぎてちょっと怖いよ……


>>192

今週は休み多めだから私も手伝うよー!! レオンくんよろしく!


197:紫音クランマスター

>>196

ありがとうポルちゃん、、、また杖作りの長い旅が始まります。。。

たぶん本当に一人だと思う。幻術とかそれ関連の複数職を極めてる感じじゃないかなぁ


198:メルトロン(副クランマスター)

急募:バナナ耐性スキル



199:ココペリ

>>197

私も行くー! レオンハルトさんもこれからよろしくです!


>>198

耐性スキルの前にもうバナナを踏まないでいただくことってできますか?笑


200:りる汰

>>198

じゃあメルさんのためにバナナ注意の立て札でも立てときますねww


201:紫音クランマスター

ちなみに……私の杖、あれ星読みの杖です……。

デザインもお気に入りだったし、出費も痛いし、ちょっと泣きたい。

ドロップ防止つければよかった……。まさか落とすとは(T_T) 自分の運の無さに泣く


>>198

踏まないで


202:レオンハルト

>>196 199

よろしくお願いします! 頑張ります!


203:メルトロン(副クランマスター)

頑張って作ってたもんなー詠唱速度+10%はでかい。こう考えると許せないな!こうなったらなんとしてでも俺が奪い返してやるからな!


204:千鳥足のポルカ

>>203

でもバナナ踏むじゃん

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