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003 プリティ被害者の会

 一通り掲示板を確認したところ、今回のイベントについて判明していることは以下の通りである。


 ・迷宮都市グラン=フォセの奈落迷宮にて、スタンピード――魔物が迷宮から溢れること――が起こりつつある。

 ・迷宮内では新しい魔物(ゴブリンやコボルトの亜種など)がスポーンしている。

 ・ポーション等のアイテムの値段が上がり始めている。

 ・迷宮の立ち入りが制限されていて、クラン所属もしくは許可証が必要。

 ・許可証は探索者ギルド発行のクエスト(レベル制限あり)で入手可能。


 となると、俺は当然ソロで、クランになぞ入っているはずがない――クランは公的に認められた正式な組織なので、カルマ値がマイナスだと入れない――ので、まずは許可証を入手する必要があるようだ。


 だがしかし、許可証の入手はカルマ値最低の俺にとっては相当苦労する類のものであることはこれまでの運営を見ていればわかる。俺みたいなアウトローは探索者ギルドなどの公的な組織から排斥されているので、そもそも許可証入手クエストが受けられない。


 悪役プレイの辛いところだね、うむ。


 ちなみにギルドとクランの違いは、運営がNPCによるものか、プレイヤーによるものか、である。


 クラン優遇は今回に始まったことではなく、前回の『アンデッド大発生!』レイドクエストでも、クラン所属プレイヤー限定で『聖者の加護』というアンデッド対策装備が配布され、しかもいくつかのクランには先に情報が共有されていた。


 しかしその結果、有名な攻略クランである赤龍クランと黒曜クランがタッグを組み、アンデッドの王である『屍葬王ドレアモルグ』をさっさと討伐してしまい、呆気なくイベントが終わった――当時は運営と赤龍・黒曜クランに対し非難轟々で、掲示板が物凄く荒れていた――なんてこともあった。


 自分で言うのもなんだが、俺はこのゲームに凄く詳しい。サービス開始当初からプレイしているし、キャラクリを二回したことがあるプレイヤーは、俺が知る限りでは他にいない。


「エターナルジェネシス:ダイブイン」では原則、一度作ったキャラを変更・削除することはできない。なので、俺のような《《二周目》》のプレイヤーはそう多くはないはずだ。


 さて、迷宮都市グラン=フォセにワープで行くことは簡単――一度訪問した街にはワープクリスタルというアイテムを使ってワープ可能――だが、今はどう考えてもプレイヤーで溢れているはずである。

 レイドクエストはいわばお祭りであり、報酬も豪華なので、古参新参問わず参加者は非常に多い。


 となると、俺のようなカルマが終わっていて、『仮装』必須なプレイヤーは、そういった場所は避ける方が賢明である。『仮装』は便利だが、それゆえ『看破』スキルのような対抗手段も豊富に存在する。俺はPKに関しては絶対の自信を持っているが、最強なわけではない。バレたら割と、はい詰みです、という状況も多い。


 まぁ、そもそも許可証がないしな。


 こういった大規模レイドクエストになると、どうしても後手後手の対応になってしまうのが痛いが、それがまぁPkerのような邪道プレイに対する運営からの罰なのだろう。


 というわけで、俺は一旦イベントクエストそっちのけで、自由都市ヴァルストにワープすることにした。


 この街はその名の通り、自由を標榜している。他の街と違って禁止されていることがない。何をしてもいい。何をしても許される――金と実力さえあれば――という街である。つまりこの街においては、マイナスカルマだとしても、賄賂さえ払えば誰でも入れるということだ。


 とはいえ、『鎮魂契約』――カルマ値を0に――と『仮装』――プレイヤー名と見た目を変更――の変装二点セットは欠かさない。わざわざ余分な金を払って素の姿のまま入る意味はないからだ。


 この街には俺の『マイホーム』とも呼ぶべき場所がある。マイホームは「エターナルジェネシス:ダイブイン」の各プレイヤーが最大三つまで所有可能なプライベートスペースであり、他人が入り込めない空間である。

 最初に『プロローグ・タウン』というチュートリアル用の街にマイホームを持った後は、自由に引越しができるようになる。


 マイホームでは休息、食事、アイテムボックスなどの機能がある。アイテムボックスはいわゆる拡張可能な倉庫であり、大半のプレイヤーにとっては必須だろう。しかもマイホームは不可侵の領域なので誰かに盗まれたりすることもない。


 仮装した状態でヴァルストの街に足を踏み入れた俺は、中心街の東に位置する住宅地――マイホーム区画――に赴いた。


『マイホームに入りますか?』


 ポップアップで『Yes』を選ぶと、一瞬にして眼前の景色が馴染みのある空間に変わる。ソファにベッド、机、アイテムボックス、キッチン、冷蔵庫、モニター、衣装棚などが揃ったシンプルなワンルームだ。

 

 俺は幾つかのアイテムを補充し、ソファで少し休息――HP/MP回復を兼ねる――してから外に出た。


「あのー、すいません」


 振り向くと、背の高い男性プレイヤーが困ったような顔をしていた。『セリヌンティウス』というプレイヤー名のハーフエルフだ。このゲームではキャラクリ時に外見と人種を設定するので、各プレイヤーは多種多様な見てくれをしている。


 ちなみに俺の人種は人間で、外見は平凡な黒髪黒目の日本人男性である。だが今は『仮装』により金髪碧眼の爽やか洋風イケメンになっている。そしてプレイヤー名は『山田です』だ。


「どうしました?」

「マイホームって、ここで合ってますよね? なんか入れなくて……」


 俺はそれを聞いて、ピンとくるものがあった。

 このゲームでは、『賃貸契約書』を持ってその街のマイホーム区画に移動するとマイホームに自動で入室できる。そして、ここはまさに自由都市ヴァルストのマイホーム区画である。なので可能性としては――


「契約書を見てもいいですか?」

「あ、はい、これです」


 セリヌンティウスがインベントリから取り出した賃貸契約書を一目見て、やっぱりね、と俺は思った。

 騙されている。この街では割とよくある不動産詐欺である。


「……言いにくいんですが、これ、騙されてますね」

「えっ、嘘?!」

「比べてみると――ほら、紙質も印字も印鑑も、何もかも違います」俺は自身の賃貸契約書を取り出し、見せる。


「うわ、ほんとですね……全然違うじゃん――ってことはこれって僕は1万ギル詐欺られ……」

「そういうことですねー。もしかして、プリティっていうNPCからですか?」

「あ、そうです! え、もしかして有名な詐欺師とかなんですか?」

「知ってる人は知ってますね」


 プリティという可愛らしい名前に可愛らしい外見をした猫人のNPCは、自由都市ヴァルストではそこそこ有名な詐欺師だ。「エターナルジェネシス:ダイブイン」ではカルマ値を高く保てば善人のNPCが寄ってきて、カルマ値が低いプレイヤーには悪人が寄ってくる。彼女はその典型例と言える。


つまり、彼――セリヌンティウスも、プリティから目をつけられる時点で、ある程度カルマが低いのだろうと予測できる。ただ、彼が俺と同様にPKなどの犯罪を日頃からしているのかといえばそうとは限らない。


 カルマ変動の要素は様々あり、PKやNPKノンプレイヤーキルなどの犯罪行為だけでなく、クエストを制限内に達成しなかったり、放棄したりなどの約束破りも多少なりとも影響する。


 まぁ、俺には関係ないのでわざわざそれについて尋ねはしないが。


「山田、さんも騙されたことが?」山田です、という名前にやや引っかかりつつもセリヌンティウスが尋ねてきたので、俺は「昔一回だけありますね」と適当に答えた。


 実際にはないが。俺はむしろ詐欺師側である、とここで伝えたらどういう反応が返ってくるのか見てみたくもなるが、そんなことはしない。


「そうですよね、はぁ……まさかゲームで詐欺られるとは……」

「こんなとこまで作り込む必要ないのにって感じですよね」

「本当それです。……すいません色々教えていただいて。助かりました。もしよかったらフレ――」

「じゃあ、僕はこれで」


 俺は聞こえないふりをしてマイホームがある区画から離れた。

 せっかくのお誘いだが、俺はプレイヤーキラーさんとしてフレンドは作らないと決めている。俺の本当のプレイヤー名もバレちゃうしな。


 さてと。


 俺は街に入った時とは逆方向の門に向かって歩き始めた。

 向かう先は自由都市ヴァルストから程近い沼地である。そこでとあるクランが狩りをするという情報を掲示板で見たのだ。


 ***


【詐欺師】プリティ被害者の会 その4【猫の皮を被った悪魔】


1:匿名の被害者さん

このスレは「自由都市ヴァルスト」に巣食う詐欺師NPC、プリティによって騙された者たちが集うスレです。

被害情報、対策、愚痴、復讐計画など何でもOK!


【基本情報】

名前:プリティ

種族:猫人(ネコミミの可愛い系の見た目)

職業:詐欺師

主な詐欺内容:

・賃貸契約書の偽造、売買

・ゴミアイテム、ジャンク品の高額販売(「伝説の○○」系)

・「カルマ値回復の裏技」と称した詐欺行為

・「超レア情報」と言ってギルドに行けば誰でも知れる情報を売る

etc...


2:匿名の被害者さん

俺もやられたわマイホーム詐欺。1万ギル払ったのにマイホーム行っても入れなかった。泣いた。


3:匿名の被害者さん

>>2

まだまだ甘い

俺は「伝説の勇者の剣(攻撃力+1)」を2万ギルで買ったぞ。あとで売ったら10ギルだった


4:匿名の被害者さん

>>3

アホすぎて草。流石に気づけよ


5:匿名の被害者さん

「カルマ値を瞬時に回復できる裏技がある」って言われて3万ギル払ったら、「善行を積むことですね♪」って言われたんだが???

おい、殺していいか?


6:匿名の被害者さん

>>5

俺の代わりに殺ってくれ。俺は普通に撒かれて会えなくなった


7:匿名の被害者さん

プリティ、NPCのくせにやたらプレイヤー心理を理解してくるのがムカつくわ。「ちょっとあなただけに特別な情報を……」とか言われたら信じるしかないだろ


8:匿名の被害者さん

なんかフレがプリティを詐欺で訴えるって言ってたけど、自由都市ヴァルストは無法地帯だから受理されないっぽい


9:匿名の被害者さん

プリティのカルマ値どんなもんなの?


10 :匿名の被害者さん

調べたやつがいたけど、マイナス60だったらしい。終わってんのよ


11:匿名の被害者さん

ヴァルストにいる奴大体詐欺師説。てかさ、こんだけ詐欺やってればマイナス100の最低値いきそうなもんだけどな


12:匿名の被害者さん

ぶっちゃけ運営が何も対策しないのが悪い。こっちは何度も通報してるのに「仕様です」って返されるだけ。


>>11

マイナス100は誰かしらキルしないとならない。詐欺とかだけだと、マイナス60が底。


13:匿名の被害者さん

>>12

「自由都市だからプレイヤーも自己責任で行動してください」ってやつなw


14:匿名の被害者さん

プリティから詐欺られた金、全額とは言わんからせめて半分返してほしい……


15:匿名の被害者さん

文句言いに行けば、返してくれるらしいぞ


16:匿名の被害者さん

マジ? ちょっと今から行ってくる


17:匿名の被害者さん

>>16

「あなたのために特別に返金してあげますね♪」って言われて、新しい詐欺商品を売りつけられる未来が見える


18:匿名の被害者さん

>>16

どこに行くねん。神出鬼没すぎて探すだけ無駄だぞ


19:匿名の被害者さん

>>15

それ俺も聞いたことあるけどガチなん? あいつがお金を返すとは思えん


20:匿名の被害者さん

頭にきて武器抜いたら、プリティスマイルとかいう訳分からんスキル発動されて魅了状態になった。その隙に「じゃあね〜♪」とか言いながら超高速で逃げられた。ふざけんな


21:匿名の被害者さん

>>20

何だそれ草生える。俺も欲しいんだがそのスキル


22:匿名の被害者さん

>>12

運営「自由都市ヴァルストでは犯罪行為が認められていますので、詐欺行為は違法ではありません」


23:匿名の被害者さん

プリティ討伐レイドクエスト実装希望


24:匿名の被害者さん

でも可愛いからなぁ、プリティちゃん


25:匿名の被害者さん

詐欺られたけどなんか憎めないんだよなぁ……


26:匿名の被害者さん

>>18

プリティって普段どこに住んでんの?


27:匿名の被害者さん

>>24 25

それがプリティの罠だ

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