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002 レイドクエスト

『警告:プレイヤーをキルしました。』

『PKペナルティとして、カルマが20低下しました。』

『PKペナルティとして、復讐権の対象となりました。』


「おっ、当たりだ」


 俺は死体が粒子状になって消えていくのを横目に見ながら、ドロップした指輪を拾う。ピュアリーフも落としたようだが、これは不要だ。


『狩人の指輪:狩人が装備すると、全ステータスを補正する』


 補正、とはこの場合1.5倍である。

 このゲームは説明が割と適当なので、厳密な値を知りたければ装備前後のステータス値から計算する必要があるが、この程度の知識はサービス開始当初からプレイしている俺は既に持っている。


 この指輪は、最初の職業に就くときに神殿からタダでもらえる。職業ごとに指輪の名称は異なって、例えば冒険者なら冒険者の指輪、といった感じである。

 ただし、その効果は見ての通り破格で、下位職のプレイヤーは大抵お世話になっている。それゆえ高値で取引されるので、一番の当たりと言えた。


 聞き馴染みのある警告を聞き流して、俺はスキル『鎮魂契約』と『仮装』を使う。『鎮魂契約』は全ステータスに極大のデバフがかかる代わりに、カルマ低下による悪影響をかき消してくれる。


 カルマとは、善悪の指標のようなもので、「エターナルジェネシス:ダイブイン」をプレイする上ではかなり重要だ。例えばカルマ値が0を下回る、つまりマイナスの状態だと街に入ることができない。簡単に言えば、NPCから犯罪者扱いされるということである。


 武器を購入したり、クエストを受けたり、NPCから情報を得たりなど、プレイヤーは基本的には街で準備を整える。また、生産職の場合には街から街へ移動するために外に出ることはありつつも、ほとんどの時間を街の中で生活することになるので、カルマ値は絶対的に保つ必要がある。


 とにかく、カルマが低いと普通のゲームプレイができなくなる。ゲームだからといってむやみやたらに犯罪行為を犯して、カルマ値がマイナスになり何も出来なくなって引退――このゲームは新規キャラクター作成に大きな制限がある――というのはあり得ない話ではないのである。

 つまり、このゲームはPKなどの犯罪行為に関して制限はないが、その分大きなデメリットを用意することで治安を保たせている、と言っていいだろう。


 ところで、俺のカルマは-100である。最低値だ。


 なので今更カルマが減ろうが多少増えようが気にならない。だが、カルマ低下による悪影響――街に入れない――は致命的なので、このような特殊なスキルを用いる必要があるのだ。


 もう一つの『仮装』は、見た目を変えるだけでなく、プレイヤー名も任意の名前に変更できる。『プレイヤーキルさん』とかいうめちゃくちゃ尖った名前にしている俺にとって、これは不可欠である。


 マップを開き――マップやインベントリは思念により開ける――霧都ノクターンにワープする。


 瞬時に景色が変わり、霧都ノクターンの正門前に出現する。ちなみにカルマが0未満の状態で街に入ると、衛兵NPCに犯罪者として捕縛され、牢に入れられる。牢屋行きは、このゲームでは死ぬことと同列――デスペナルティが発生――だ。


 俺は門番の脇をすり抜け、街に入る。門番の衛兵は明らかに不快そうな顔で俺を睨んでいたが、俺は気にも留めない。


 NPCはゲームの仕様上、プレイヤーのカルマを感じ取ることができる。なので、どのNPCにも基本嫌われている。俺みたいなアウトロープレイヤーは誰しもがこういった経験をしていることだろう。


 慣れた足取りで街の中心部を通り抜け、奥まった場所にあるフリーマーケットに来た。ここでは好き勝手に風呂敷を広げてアイテムの売買ができる。NPCが多いが、中にはプレイヤーもいる。


 その中の一つ、奇妙な飾りのついた帽子を被った男に話しかける。


「ラスターだ。指輪を売りにきた」


 俺はNPCに対してはラスターを名乗っている。ラスターというのは、俺の一周目のプレイヤー名である。


「お前か。また誰かになりすましてるのか?」

俺が『仮装』により顔が変わっているからだろう、ゲルヴァーは怪訝そうな顔をしていた。


「別に、そういうわけじゃないよ」


俺は一瞬だけ『仮装』を解除して素顔を見せた。


「羨ましいスキルだな」

「師匠も取ろうと思えば取れると思うけど」

「あと二十年若かったらな」


 ゲルヴァーは闇商人をしている職業『奇術師』のNPCだ。

 ただし、NPCといっても「エターナルジェネシス:ダイブイン」ではプレイヤーと何ら変わりなく見える。AIによって一人一人に完全ランダムな人格が与えられているため会話に違和感はなく、大抵のNPCは特定の攻略法など存在しない。

 プレイヤーとNPCを判別する最も簡単な方法は、その人間の上にプレイヤー名が表示されるかどうかだ。


 俺は彼から奇術師の職業を習った――このゲームでは取得条件を満たさないと就けない職業が多々ある――ので親交がある。

 俺がインベントリから4つの指輪――全て初心者狩りPKによって入手した――を取り出すと、「また殺ったのか」とでもいうような顔をして、2万ギルで取引が成立した。


「最近はどう?」


 俺は何か新しい情報がないか尋ねた。「エターナルジェネシス:ダイブイン」では固定のクエストだけでなく、不定期にランダムイベントが発生する。それらの情報はNPCから仕入れるのが手っ取り早い。


「ふむ、西の迷宮で騒ぎが起きたようだな」

「西っていうと、奈落迷宮?」

「そうだ。魔物が迷宮から頻繁に出てきて、近隣の街を襲っている。今のところは抑えているようだが、このままだとどうなるか」

「なるほど、他にはある?」

「特にはない。ところでお前、そんな生活を続けているといつか痛い目を見るぞ」


 ゲルヴァーは忠告するような口調で言った。

 まあ、何度もPKで手に入れた物を彼に売り飛ばしているからな。


「そうかもね。でも迷惑はかけないから安心してよ」

「ふん、街に入れなくなっても知らんぞ」

「もう手遅れだよ」


 ゲルヴァーは関係値があり、そもそも闇商人をしている裏の人間なのでこういった交流ができるが、他のNPCに俺が殺人を仄めかしたりなどすれば即通報される。俺が表に行って指輪を売らず、こんな場末で指輪を売り払っているのは、そんな理由である。


 さて、掲示板でも見て情報収集をしようか。

 大方これはレイドクエストの予兆なので、そのために色々準備する必要がある。もちろん、普通にクエストをこなすための準備ではない。クエストに乗じて、PKを行うためである。


 ***


【攻略】レイドクエスト情報共有スレ その26【不定期開催】


650:匿名の攻略者さん

最近、グラン=フォセの奈落迷宮で魔物の活動が活発化してるらしい。街の警備隊も対応してるけど、どうやら迷宮の内部で何か起こってるっぽい。


651:匿名の攻略者さん

あの迷宮、2年経っても未だに攻略されてないからな。何かのフラグが立ったんじゃね


652:匿名の攻略者さん

なんか見たことない魔物いるらしいね。コボルドの亜種みたいな


653:匿名の攻略者さん

探索者ギルドの上層部が調査してるみたいだけど、情報はまだ出てない。ただ、討伐クエストが出るのは時間の問題かな?


654:匿名の攻略者さん

ポーション系の値段、そろそろ上がるのでは。買いだめチャーンス!


655:匿名の攻略者さん

やったーレイドだー! ワクワク( ✌︎’ω’)✌︎


656:匿名の攻略者さん

最近迷宮内行ったやつ情報求む


657:匿名の攻略者さん

やっとレイドクエきたかー。待ち望んでいたぞよ


658:匿名の攻略者さん

奈落迷宮……開かれし門……繰り返される破滅……疼く俺の右手……またか……。


659:匿名の攻略者さん

↑なんだこいつ


660:匿名の攻略者さん

奈落迷宮、今はクラン単位での攻略じゃないと入れないらしい。クラン入ってないやつは、探索者ギルドから許可証入手クエ受けられるぞ。


661:匿名の攻略者さん

>>660

そんなことせずとも、別に少し待てばみんな入れるようになるでしょ


662:匿名の攻略者さん

>>661

言ってるうちにイベント終わるぞ。前みたいに


663:匿名の攻略者さん

街が調査部隊を派遣したって聞いた。プレイヤーも雇われてるらしいんだが、誰か行った人いない?


664:匿名の攻略者さん

>>663

行ったぞ! アホみたいに囲まれて死んだ!


665:匿名の攻略者さん

>>657

同じく。前回は散々だったからな。。。


666:匿名の攻略者さん

>>664

死んでて草。そんなに強いん?


667:匿名の攻略者さん

>>660

許可証のクエストレベル制限あって受けられんかった……


668:匿名の攻略者さん

>>666

強いってか多い。入ってみればわかるが、いつもの倍以上いる。


669:匿名の攻略者さん

まぁ、本番はスタンピード起きてからでしょ。それまでゆっくりポーションでも作りますわ


670:匿名の攻略者さん

赤龍さん黒曜さん今回はご勘弁を……前回の二の舞だけは……


671:匿名の攻略者さん

>>670

いやー、まじであれは運営も予想外だろ。イベクエ一個潰されたようなもんだし


672:匿名の攻略者さん

>>669

もう起きてるんですが……


673:匿名の攻略者さん

まぁ、最初は攻略組に任せて、俺らみたいな弱小プレイヤーはしばらく様子見か


674:匿名の攻略者さん

初心者は雰囲気味わうだけでも楽しそう

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