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防衛計画

 動員計画が進められるのと同時並行で参謀本部では対帝国防衛計画が練られていた。


 元々国防軍には対帝国用の作戦計画があった。全国境に渡る前面侵攻から局所紛争のような武力衝突に至るまで様々な規模の想定がされている。


 帝国が望んでいるのは南部から連邦に攻撃を加えること。であれば連合皇国との前面衝突に至る気は帝国にはないだろう。サルン地域を占領し、占領を盤石なものとした後に連邦に侵攻する。これが帝国の描く青写真のはず。


 もっとも衝撃と畏怖を与え、帝国に降ることを促すために皇国の戦略縦深である軍需工場なんかへの爆撃はあるだろう。考えによっては皇国民の抗戦意思を破砕するために市街地への空襲も行われるかもしれない。局所紛争であっても戦禍が局所に留まるとは限らない。


 国防軍としてはサルン地域に縦深陣地を構築、帝国軍の攻勢を陣地で受け止めた後、攻勢を発起しサルン地域の帝国軍を包囲、掃蕩撃滅そうとうげきめつせんとするものである。


 帝国軍がサルン地域へ侵入すると考えられる地点は2つ。どちらも交通の大動脈であるし、この2つしか動脈はない。


 北にヴェーストルの森林地帯。南にシュトロウセ平原。シュトロウセ平原には連邦に通じる大陸横断鉄道もあり、帝国軍の主攻はまず間違いなくこちらに向けられる。


 さらに付け加えればシュトロウセ平原は名前の通り平原で戦車を筆頭とする機甲戦力の威力を存分に発揮できる地形である。


 国防軍はこの方面に主力を投入するに決した。ヴェーストルは森林地帯であり寡をもって衆を制することができる。



×××××



 帝国との国境には元より国防軍部隊が警戒のため配備についている。その内、サルン地域を担当する師団に続々と工兵部隊が完全充足の装備とともに到着した。


 この部隊が到着するや、直ちに全部隊に防御陣地の構築に取り掛かるよう命令が下った。


 この命令に指揮官級はいよいよかと事態がより深刻になったことを感じ取った。


 この命令では既存の陣地の補備修繕や増強に留まらず、あらたな陣地の構築も含まれており、何よりサルン地域の全域に渡る。明らかに国境警備には過剰だ。


 帝国との雲行きが怪しくなっているのは周知の事実だし、肌感覚としても緊張の度合いが高まっているのを感じる。


 ゆえに、この種の命令が来るのも覚悟していた。そしてこの命令が下令されたということは上は帝国軍と干戈かんかまじえる覚悟を既に決めているということか。


 命令が下った以上軍人は粛々と従うのみ。工兵だけでなく、もちろん歩兵も参加する。塹壕なんかは主に歩兵の担当になる。


 防衛陣地の場所を決定したならば歩兵が拠る塹壕を掘り、各塹壕を接続し機関銃、対戦車砲陣地を設置し、なるべく天蓋てんがいを設け……。やるべきことは山のようにある。


 まず陣地を、敵による迂回等の機動を制限でき、敵の戦力発揮が難しい地形に構築する。側面を河川など敵の機動に制約が掛かる地点、また隘路など敵の戦力集中が困難な地形に陣地を構築する。


 次に考慮すべきは機関銃火力の万全なる発揮である。機関銃こそ歩兵の火力の根幹。国防軍の編制上機関銃は一個分隊に一丁。一個小隊は三個分隊で構成されるから一個小隊に機関銃は計三丁。


 これを想定される敵の接近経路に対し効果的に射撃できるようにしなければならない。陣前に迫る敵に対し十字砲火を浴びせられるように機関銃を設置する。


 基本は小隊の両翼端に機関銃を設置、右翼端は左翼端へ、左翼端は右翼端へ射線を通すことで十字砲火を形成する。


 国防軍採用の42型機関銃は毎分1200発、毎秒20発の7.92×57mm弾を発射する。さらに備え付けの二脚(バイポット)を使用すれば歩兵が1人で運搬可能な軽機関銃に、別の三脚架(ラフェッテ)を使えば陣地に据え付けて重機関銃として使用できる。故に汎用機関銃(GPMG General Purpose Machine Gun)と呼称される。


 さらに敵を足止めし、こちらの設定したキルゾーンに誘引するため鉄条網など各種障害を設置する。

 

 対戦車でもこの基本は変わらない。鉄骨を組み合わせた対戦車障害物や対戦車壕、地雷を組み合わせ敵戦車の前進を拒み、動きが止まったところを十字砲火によって撃破する。


 陣地の後方には迫撃砲陣地と予備陣地が設けられる。予備陣地は敵からの砲爆撃から逃れるのに用いられる他、陣地が突破された時にここに拠って抵抗する。


 陣地は敵からの暴露を避けるために念入りに偽装を施さなければならない。天蓋を設け偽装に資すと共に上空からの脅威からの簡易な防護とする。


 こうした陣地は小隊、中隊毎ある程度独立して戦闘を実施できるようになっているけれど、勿論のこと相互に支援可能になっている。


 こうした陣地を幾重にも作り空間的な奥行きを持たせる。こうして縦深防御を構成するのだ。

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