6.慣らし
うーん・・・
私は目を開けようとするとそのまぶたの重さに驚いた。
「ふっ、ふぁー!」
声を上げるとすぐにメイドさんが声をかけてきた。
「ラーミア様大丈夫ですか?」
優しく顔を冷たい布で拭いてくれる。
「ラーミア様、泣き過ぎて目が腫れて痛々しいですね。布で冷やしておきましょう」
目の上に冷たい布が当たるとひんやりして気持ちいい、今日はしばらく目を開けるのは控えた方がいいみたいだ。
「ラーミア、おはよう」
お母さんの声が聞こえてピクっと反応する。手を動かすとお母さんがその手を握ってくれた。
「ここにいますよ、今はゆっくり体を休めましょうね」
手を握りながらヨシヨシとお腹を優しくポンポンしてくれる。
その心地良さに安心しながらもなんか違和感を感じる。
お母さんの手・・・気持ちいいけど昨日の手とは違う感じがする。
昨日の手も気持ちよかったな・・・
その日はゆっくり目を癒しながら過ごした。
次の日になるとすっかりと目の腫れはひいていた。
周りを見ると心配そうな顔が覗き込んでくる。
そして一人知らない顔があった。
その顔をじっと見ているとニコッと笑い話しかけてくる。
「ラーミア様こんにちは、少し体を見せてくださいね」
その人は医者のようで私の体をくまなく確認していた。
上手く動けない私は大人しくされるがままにしているとその医者は首を傾げた。
「やはり暴行などの跡は見られません。健康状態も良好です、それにしても・・・」
医者は言葉を詰まらせた。
「何かラーミアに悪い所でも?」
お母さんが心配そうに聞き返す。
「いえ、普通このくらいの子なら嫌な所を見られたり触られたりすると泣いたり嫌がったりしますがそんなところが全然ないのが気になります。まるで普通の聞き分けのいい子供を見ているようでした」
医者の言葉に私の方がギクッとした。
「まぁとりあえず男性が近づかなければ大丈夫な事はわかりましたね」
「よかった」
ホッする声が扉から聞こえる。
私はその声にビクッと体が反応した。
「本当に声だけでも怖がるようですね」
医者は不思議そうに私の反応をじっと見ていたが何も言わずにお母さん達と一緒に部屋の外に行ってしまった。
「前は声だけでも泣いていたんです。今は声だけなら怖がるくらいになりました」
リリアが医者に状況を説明した。
「ふむ、お嬢様は見た目以上に状況を判断しているのかも知れません。侯爵様はこれまで通りお嬢様の反応をみて近づくようにした方がいいですね。あと周りの方も侯爵様が優しいなど安心させる言葉を言うのもいいかもしれません」
「わかりました」
リリアは嬉しそうに頷き、メイドさん達にもそうするようにと指示をだして医者を見送っていた。
私はメイドさんと部屋に残されてホッと息を吐いた、そして視線に気が付き目線を上げると扉に父がまだいるのが見えた。
ひっ!と警戒しているが決して部屋には入って来ようとしない。じっとメイドさんの肩越しに観察していたが私を見つめる以外何かするつもりはないようだ。
「ラーミア様、旦那様はお優しいですね。ラーミア様を怖がらせないように部屋には入ってこないのですよ」
やはりそうらしくメイドさんが説明してくれる。
私はそれでも警戒しながら父の事を見つめていた。