4.父、クロード視点
私はこの国の侯爵家に生まれ、美しく優しい妻と初めての子供を授かった。
子はラーミアといい、可愛らしい女の子だった。見た目は妻に似て愛らしく髪の毛は私と同じ色だった。
初めてその子を見た時は壊してしまうのではないかと怖くて抱くことが出来なかった。
それを今では激しく後悔している。
あの時抱いていればこんなにも嫌われる事はなかったのかもしれない。
赤子が生まれ数日後、王宮での仕事が立て込み我が家に帰れない日が続いた。
そんな時でも毎日思うのは妻と可愛い我が子のことだった。
帰ったら今度こそ抱きしめようと思い仕事を終わらせて帰宅すると待っていたのは絶望だった。
ラーミアは私を見るなり大きな瞳に涙を溢れさせ手が付けられないほどに泣き出した。
聞けばそんな事はこれまで一度もなかったらしい。ラーミアは普通の子よりも大人しく滅多に泣かないと聞いていたのに私が帰ってきた事で変わってしまったのだ。
最初は違うかもしれないと思ったが私が近づくとそうなるので原因は私で間違えないようだ。
きっと生まれてすぐに私が抱きしめるのを拒んだせいだ。
「大丈夫、すぐに慣れますわ。だってあなたはこんなにもあの子の事を思っていますもの」
リリアは傷つく私を優しく抱きしめてくれる。
その日から私は少しずつラーミアに慣れて貰う努力をした。
顔を見せないようにするのは簡単だが、慣れて貰うには毎日顔を少しでも見せた方がいいと言われたので部屋には入らずに顔が認識できる距離を保って優しく声をかけることにした。
最初は顔も向けてくれなかったが朝昼晩とやっていくうちに少しだけ顔を見せてくれるようになった。
しかしまだ泣き出すのは変わらない。
すると突然メイドがどこか悪いのではないかと心配しだした。こんなにも父を怖がるのには理由があるのではないかと・・・
そして医者に見せたことで事態が変わった。
ラーミアは医者が来ると私と同じよう、いやそれ以上にパニックになったのだ。
しまいには泣き過ぎて熱をだしてしまい、いつもの部屋で安静にしていた。
今はそっとしておくのがいいとメイドをつけて休ませている。
「あっ、旦那様」
メイドが水を変えようと席を立った時に私が丁度様子を見に来た。
「ラーミアは?」
「ラーミア様は・・・熱がまだあり、泣いた事で目が腫れてしまって今は何も見えない状況かと、鼻水のせいで呼吸も苦しそうです。水を替えてきますのでラーミア様のことを見ていただけますでしょうか?」
「私がいたらさらに悪くなるだろう」
自分で言ってて悲しくなるが本当のことだった。
「今は目も見えていないので静かに近づけばわからないと思いますが・・・何かあったらすぐにお呼びください」
メイドは頭を下げて急いで水を替えに向かった。
私はいつもの扉の前で様子をみていた。
するとラーミアが苦しそうに手を上げて何か掴もうとしている。
思わずその手を掴んであげたくてそばに一歩近づいた。
メイドの言う通り目が腫れて開いておらずラーミアは私が近くにいることに気がついていないようだった。
私はそっとラーミアのそばの椅子に腰掛けてラーミアを見つめた。
ラーミアは空を何度も掴みながら悲しそうに泣き出した。
「くっ!」
私は思わずその手に指を絡ませた。するとラーミアは私の指をギュッと握りしめたのだ。
そして掴んだ事で安心したのか呼吸が穏やかになった・・・と思ったら気を失ってしまった。
「だ、誰か!」
私は扉に向かって声をかける。
すると先程のメイドがすぐそばに控えていたようで異変に気が付き別部屋で待機していた医者を呼びにいった。