50-7 ヒーロー
2033年11月2週目
水曜日の調教を終えて、H厩舎
ハミヤの隣の馬房の前でHとタケルが話している
4歳雌馬スミレも話合いに加わる
曇り模様の空だった
調教師Hがスミレの鼻面に触れながら言う
「スミレ、次走が決まった12月3日土曜の1000万下条件だ」
「そう、わかったわ」
「頑張ろうな。スミレ」
タケルも彼女に微笑みかける
「うん、タケル。H」
ブルル、あーあ。
少し欠伸が聞こえたような
タケルがハミヤの馬房を覗きこむ、微笑んで
「どうした。ハミヤ。お前も早く走りたいか」
「馬花言ってるんじゃねえよ。どっちだって良いよ。よくわからねえんだから。なんでだか、生きてんのかな」
「ハミヤ、、そんなの人間だって一緒だよ」
口元が緩んでいる人間と伏し目がちな馬
「それになんだよ。その1000万下?なんなんだそれは」
「それは条件だよ。うーん、同等のレベルの馬同士が競争できるようにクラス分けされているんだ。だから強い馬はオープン、その下に準オープンって言って1600万下。それから1000万下、500万下。勝ってない馬は未勝利クラス。だからとんでもなく能力がかけ離れた馬同士が走ることはないようになっているんだ。新馬戦は別だけどね。うん。スターホースは目立つけど多方の馬は条件クラスや未勝利クラスに在籍しているんだよ」
「たくっ。勝手な。なあ、タケル、お前はどのクラスだ」
「えっ」
「お前は人間で言えばどのクラスだ。オープン人か1000万下か500万下か。それとも未勝利人か」
「そ、そんなこと、考えたことないよ」
「考えろ!バカやろー、、残酷なことばかり、
チッ」
「ハミヤ・・・」
クラス分け
年収は。
「いやだろ」
「いやだよ」
「じゃあ、すんなよ」
「でも成り立たないだろ。競馬はギャンブルが資本なんだ。人間だってオリンピック選手と鍛えてもない人間を一緒に走らせればレースにならない」
「ギャンブルは完全に人間の都合な」
「ハミヤ!じゃあお前は何が言いたいんだ!」
「自然」
「自然に帰りたいのか」
「自然に生きたいんだ」
強い馬しか種牡馬にはなれない
トップレベルのサラブレッドのみが許された権利
種付け
子孫を残す自然は断たれる、強く、速くなくては
恋が叶うことはない、奇跡の雄以外は。
雌もある程度の成績や血統などを背景にして繁殖牝馬になれるが、なることのできない牝馬もかなりいる
出産する自然も、速く走れない限り奪われる
若しくはイイトコの子なら権利は与えられる
良血。
好きとか嫌いとかは
「ハミヤ、馬にも好みあるのか」
「あん?」
「いや、女って言うか、雌?」
「あたりめえだろ!馬花か!当たり前だろ・・・」
「そうか」
人間も伏し目がちになった、馬が少し笑ったように見えた
「頑張ろうな、菫」
「うん、エイチ」
Hが鼻梁を撫でてスミレは漲っていた
「なにアイツらイチャついているんだ」
「ああ、先生。先生はどの馬にも優しいさ。いい先生だよ」
「俺にはそうでもないぞ」
「お前が突っぱねるからだろ」
「えっ」
「・・・・」
視線と沈黙が誘った破顔一笑
「何笑ってるんだ、お前たち。仲良いな」
「良くねえや!このクリクリ坊主」
「なに!この沈痛厄介馬!」
アハ、あはは
Hとスミレが笑っている
「ち、ちんつうやっかいバだと」
健と花美哉
タケルは騎手になりたかった
競馬学校の受験に2度落ちた
騎手課程の倍率は20倍を超えることもある
Hとタケルは事務部屋に戻って行った
(アイツはうまい)
(タケルでしょ。ハミヤもそう思う?ジョッキーより上手よね)
(ああ、風みたいな奴だな、なあスミレ。次も走るのか)
(うん、勝つよ。走る。目指せ1600万下クラス)
(フン、条件馬が)
(ハミヤは500万下クラスよ)
(えっ、そうなの)
(私より雑魚ね。大丈夫勝てばすぐ上がるわよ。この時期の3歳馬は頭数が少ないから500万下とオープンしかないの、収得賞金加算できたらすぐオープン)
(お前詳しいんだな)
(条件クラス歴長いから)
(なあ、スミレ。俺達の本当の敵は・・)
めんどくさ!沈痛厄介馬!寝るわ
聞くつもりはないのに漏れてくる
喫煙スペースで煙草を吸っている
花美哉と菫の話し声が時に聞こえる
嬉しくてタバコが震えた、悔しくて
騎手になりたい、やっぱり私は
ジョッキーに
36歳
競馬学校騎手課程は15〜20歳未満だ
・・
いやー
これは強いな
3歳雄馬ではピカ一
ゴリラより強いかもな
桃梅厩舎のティラノサウルス
次走はHⅢシクラメンステイクスと
・・
2033-11-13-日
HⅡ夢杯を制したのは
カセキ!
新馬勝ちの後の骨折から復帰後
500万、1000万、1600万、HⅡ
無傷の5連勝!
4歳雌馬カセキ!
・・・・
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