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【完結】禁色たちの怪異奇譚~ようこそ、怪異相談事務所へ。怪異のお悩み、解決します~   作者: 出口もぐら
第三章 夢の深淵編

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17話目 秋声高鳴る頃の花火②

* * *


 その頃。久保は味気ない大学生活を送っていた。

 見藤から事務所の数日間休業を言い渡された為だ。事務所の休業は東雲にも伝えている。その際、彼女から訝しげに見つめられたが、深く追及されなかった。こういう時、東雲の察しのよさは大変有難い。


 そうして、お互い学生として学業に励んでいたのだが、久保はどうにも物足りなさを感じていた。――そうだ、あの騒がしい友人、白沢(しろさわ)がいない。うら寂しい心情を誤魔化すように、久保は勉学に励む。


 事件後の異変はそれだけではない。白沢という人物について、クラスメイトに尋ねてみても、誰も覚えがないと言う。それにはやはり、神獣白澤としての認知が書き換わったからなのか。それとも白澤の能力なのか、久保には分からない。

 


「……」


 久保は無言のまま、一人。食堂へ足を運ぶ。



 そうして、久保は食堂に到着する。そこには見慣れた人物がいた――、東雲だ。彼女の隣にはもう一人、女学生が座っている。東雲のクラスメイトだろうか。

 珍しい光景を目にした久保は思わず、東雲に声を掛ける。


「あれ、東雲さん?」

「あ、久保くん。珍しいなぁ、一人で食堂」

「うん、ちょっとね」


 久保は言葉を濁した。いつもならば、友人達と賑やかな昼食を摂りに訪れる食堂だが、今日はひとりだ。


 二人のやり取りを見ていた女学生は、挨拶代わりと言わんばかりに冗談っぽく、ありきたりな言葉を言い放つ。


「え、何? あかり。彼氏?」

「「違うわ」います」


 見事に久保と東雲の返答が重なった。


 そして、同時に溜め息をつく。大学生にもなると言うのに、異性というだけで男女の関係に繋げたがるこの現象は一体何なのか――、久保と東雲は何度目かと、言いたくなる面白くない冗談に辟易としたのだ。

 さらに、自分たちが知る上で最も不器用に拗れた関係の二人の事を思い浮かべた。見藤と霧子のことだ。久保と東雲は、再び仲良く溜め息をついた。


 久保は気まずい表情を浮かべながらも、口を開く。


「また見藤さんから連絡があれば、知らせるから」

「よろしく。じゃあね」

「うん、それじゃ」


 別れの挨拶を口にし、久保はその場を後にした。




 そして、残された東雲と女学生は会話を再開させる。先に口を開いたのは女学生――、東雲の友人だ。


「で? その年上の人とはいい感じになれた?」


 先程の久保に発した冗談など、なかった事のように恋愛話に花を咲かせるようだ。

 友人の言葉に東雲はしどろもどろになりながらも、正直に答える。


「別に、うちはそんな――」

「えー、いいじゃん。好きな人に振り向いてもらいたいって思うのは自然なことだと思うよ?」

「いや、だから、その人は心に決めた人がおって……」

「え、そうなの? 別にそうだとしても、押せるとこまで押せば?」

「いや! だから! うちは別に見藤さんと、どうこうなりたい訳じゃなくって……!」


 友人の言葉を受け、東雲は目を見開いた。そして、慌てて否定と訂正をしておく。

 東雲は気付いたのだ。これは()()()()()ではない。恐らくこれは、霧子を想っている見藤が、好きなのだと。


 人と怪異、種が異なる存在であったとしても、あそこまで互いを大事に想いあえる関係。それに強い憧れを抱いているにすぎない。

 だからこそ、東雲の見藤に対する好意は酷く純粋で、故に霧子に許されている。そして、そんな人間のいじらしい想いが霧子にとっては好ましく、東雲を可愛がっている。


 東雲と霧子。傍から見れば()()()()()だ。それ故、友人が善意で提言したアドバイスは時に東雲を苦笑させることになる。

 にっちもさっちも行かず、東雲はわっと声を上げた。


「まぁ、この話はもうええの!」

「えー、もっとあかりの恋バナ聞きたいのに」

「ええの!! 終了っ!」


 東雲は無理矢理に会話を終わらせ、食べ終わった配膳を返却するため立ち上がる。

 そして、残された東雲の友人は少し残念そうに頬杖をついていた。



 それから――。

 その日の授業が終わった頃。久保と東雲は構内にある、談笑スペースで落合い時間を潰していた。ここ数日、見藤の事務所は休業となっているため、こうして二人は課題をこなしたり、世間話をする。


 課題をしていた手を止め、不意に久保が言葉を溢した。


「それにしても、この夏は忙しかったなぁ」

「そうやなぁ」


 その言葉に東雲が同調する。


 見藤と出会い、怪異・妖怪・心霊といった奇絶怪絶な世の存在を認知してからというもの。久保を取り巻く環境は一変した。そして、それは東雲も同じだ。――そんな二人が思い出すのは、この夏季休暇中のこと。


「何か夏らしいこと、したっけ……」

「なーんも、してへんね」

「そうなんだよ。こう、一般的な夏のイベントっていうやつ?」

「そう、それ」


 見藤の仕事の一端を担うことができたのは、とても嬉しく充実感に満ちた日々だった。しかし、それが夏の楽しい思い出になったかと言うと、決してそうではないだろう。寧ろ、大変なことが多かったように記憶している。

 そして、二人はふと思いつく。


「まだ店にあるか見に行こうか」

「そうやな!」


 二人は顔を見合わせ、席を立つ。そして、向かうのは近所のディスカウントストアだ。


「こういうの、見藤さんは興味なさそうだけど……。ま、いいか」

「霧子さんは楽しんでくれそうやな! これも買うていこ」


 二人が手に取るのは、季節が過ぎたために割引された家庭用花火だ。季節はもう秋が顔を覗かせているのだが、一夏の思い出になればと二人は考えたのだ。

 丁度そのとき。久保のスマートフォンの通知音が鳴った。


「あ、見藤さんからだ」


 久保が画面を開くと、そこに明後日には事務所を再開させる旨が書かれていた。そして見藤らしく、白澤の一件からなのか久保を心配する言葉も。

 そんなメッセージに久保は東雲と相談し、明日の夜は空いているか確認を取る。勿論、なにをするのかはその日まで秘密だ。


 見藤は二人が夜遅くまで事務所に滞在することをよしとはしない。そのため、夜に事務所を訪れる際は、こうして必ず事前に連絡を入れるのだ。

 先の大型連休の怪異事件に巻き込まれた事もあり、二人の身を預かる責任感からなのか。見藤の心配症は、より顕著になったように二人は感じていた。


「お、構わないって。よかった」

「やった。霧子さんも来るように言うておいてね」

「おっけ」


 見藤からの返事に二人は安堵し、ついでに火消用のバケツも購入しておこうと話す。

―― そうして、二人は明日に心を躍らせる。


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