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【完結】禁色たちの怪異奇譚~ようこそ、怪異相談事務所へ。怪異のお悩み、解決します~   作者: 出口もぐら
第二章 怪異変異編

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15話目 動き出す、凶兆⑤


 そうして、時刻は地域の草むしりが始まる時間となり、見藤と久保は職員の迎えと共に移動を開始した。そのバンには――。


「よ」

「お前……」


 呑気に挨拶をする煙谷の姿があった。

 見藤はそれ以上何も言わず、仏頂面で煙谷の隣の座席に腰かけた。そして、運転席と助手席では昨日と同じように職員と久保が和気あいあいと会話をしている。


(こういう事が上手いよな、久保くんは)


 それは見藤と煙谷にとっては好都合、久保の会話によってこちらの会話を少しでも気取られないようにできる。

 見藤と煙谷はお互い視線を合わせることなく聞こえるか聞こえないか、そんな声量で少し情報を共有する。先に口を開いたのは見藤だった。


「まさか、違う宿泊場に案内されていたとはな」

「外部からの人間は一か所に集めた方が監視しやすいと僕も思うね」

「はぁ……、閉鎖的な連中は何を考えているか分からん」

「まぁ、まずは明日だ。行方不明者はおそらく明日の慰霊碑参りで出ているだろうね」

「珍しく同意見だ」

「明日は槍が降るな」

「……」


 ちらりと運転席の方を見やる、煙谷の軽口に応える時間の余裕はないようだ。


 そもそも、その慰霊碑とは何の慰霊碑なのか、キヨの情報から想像するにその慰霊碑とは過去の事件によるものか。だとすれば、やはりこの行方不明者の一件はその人体生薬の生成を目的とし、流れを引き継いだ何者かによって引き起こされたことなのか。考えても埒が明かないと、見藤と煙谷は互いに口を閉じたのだった。


「着きましたよ、今日はよろしくお願いします」


 職員の一言でバンは停止した。三人が車から降りると、この人たちも外部からの労働者だろうか、人が数名集まっていた。それはやはりというか、どれも不穏な雰囲気を持つ者が多いように感じた。


 その土地は意外と広大で、雑草が生い茂っている。久保が職員から聞いた話では、もともとは農耕地だったが長年放置されていたという。

 それを近年話題の農業体験場として、この地域を売り出すための準備を行っているそうだ。確かに、今朝のように薪を割り、火を起こして食事を作れば、立派な体験型施設になるだろう。


 そうして、集められた働き手たちによる草むしりは始まった。無論、引率である見藤、煙谷も頭数に入れられているため、監視の目の手前サボることはできない。

 久保と見藤は草むしりに取り掛かる――、が時間が経過するにつれて、久保の顔には疲労が滲んでいた。


「流石に疲れてきた……」

「はは、情けないな、久保くん」

「いや、見藤さん、おかしいですよ。朝は薪割して……どうなってるんですか」

「山育ちだからな」

「え、本当にそういうのって関係あるんですかね」

「さぁ?」


 現代っ子の久保には少し辛かったようだ。

 久保は見藤と明らかな体力差を見せつけられ意気消沈している。因みに煙谷は、上手い具合に二人の視界に入らないよう草むしりをサボっていたのだが、二人は知る由もない。


 いくら酷暑は過ぎ去り秋を迎えたと言っても、まだまだ日中の気温は上昇する。いくら作業がしやすい服装とは言え、草むしりのために肌を露出する訳にもいかず長袖、長ズボンという格好だ、それでは熱が籠りやすい。


 見藤は久保の様子を見ると何か飲み物をもらってくると言い残し、その場を離れた。すると、久保はどこか見覚えのある人影を見つけた。それはこちらに気づくと、久保と同じような反応をしたのだ。


「あれ、白沢……?」

「は? 久保やん、どうしてこんな所におる?」

「いや、バイト……白沢は?」

「俺はここが地元やからな。毎年、この時期はこうして地元の手伝いに帰って来とんねん」

「そうなのか」

「まぁ、バイトならここの人らに良くしてもらえるから、頑張ってな」


 白沢はそう言ってどこかへ行ってしまった。

 不思議な縁とはどこにでもあるものだな、と呑気に久保が思っていると、ペットボトルを手にした見藤が戻ってきた。見藤は久保にペットボトルを渡す。


「久保くん、誰と話してた」

「え、あぁ。知った顔がいたので声を掛けたんです。大学の友達で、地元がここだって言ってて、ほんと偶然でした」

「そうか」


 見藤はそう言って久保の肩を視た。そこには梔子色からしいろをした何かが付着しているのだ。これは恐らく久保には視えていないだろう。ふむ、と見藤は何かを考えた後、その何かを手で払った。

 そして、その何かは見藤の手に付着すると動物のような毛に見えたが、それもどこか違う。意思を持って漂うような動きをしている、なんとも不思議なものだった。


「……」

「見藤さん?」

「いや、なんでもない。()()、会えてよかったな」

「はい」


 嬉しそうに返事をする久保に、見藤はなんとも言えない表情をしていた。

 そして、昼過ぎには食事が振る舞われ、一旦休憩を挟み、作業は再開される。そうしてひと段落した頃には、皆の顔には疲労が滲み出ていた。その中で煙谷と見藤だけは平然としていたのだが、気にする者はいないだろう。


「今日はお疲れ様でした。また、明日は慰霊碑参りの代行もありますので、よろしくお願いします」


 職員がそう総括するとその場で解散となった。

 帰りの車内、久保は疲労からかぐっすりと眠ってしまっていた。乗るときに後部座席へ座るように言っておいて正解だったな、と見藤は眠る久保を見て思う。


 いよいよ明日、行方不明者が多数出たと推測される慰霊碑参りの代行が行われる。見藤は与えられた客間で夜な夜な荷物を広げ、何やら準備をしていた。



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