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【完結】禁色たちの怪異奇譚~ようこそ、怪異相談事務所へ。怪異のお悩み、解決します~   作者: 出口もぐら
第六章 京都会合編

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58話目 密談


 ひと時の休息を終え、斑鳩と共に次の会場へ向かった見藤。だが、未だ当主達の姿はなく、キヨの身を案じた見藤は周囲を見渡した。

 すると、そんな見藤の様子から察したのか、斑鳩が声を掛ける。


「大丈夫だ、問題ない」

「そうか」


 端的に返事をした見藤。会場における警備配置の統括を担っている斑鳩がそう言うのだ。斑鳩の言葉を受け、安堵する。

 付き人の役目を担っている者は配置につく。そうして、暫くすれば当主達が会場に姿を現した。彼らの手には木札が握られており、これから密談が行われることを示していた。


 その光景を目にした見藤はじっと、手元の木札を注視した。すると、木札には(まじな)いを使用した痕跡がある。どうやら、あの木札が文字通りの鍵となるようだ。


(密談か……。公の場で語らなかったことを内密に話す場。もちろん、交渉や他家への要求も然り、だろうな)


 見藤はそっと溜め息をついた。そして、キヨの元へ駆け寄ると手元をちらりと見やる。

 キヨの手にはしっかりと木札が握られており、いずれかの名家と密談を行うことを示している。そこに描かれている家紋の家と密談が行われるのだが、彼女の手に握られている木札の家紋は ――。


(流石に見せないか)


 見藤はキヨに気取られないよう、注視していた視線をさっと逸らす。そして、僅かな時間の中で当主達が握っている木札を注視する。目に留まったのは、斑鳩家だった。


(斑鳩家当主――、ダミーだな。(まじな)いの痕跡がない。どの家とも密談は行わないのか)


 どうやら木札を手にしているからといって密談を行う、と断定できる訳ではないようだ。すると、丁度そこへ案内役が姿を現す。


「それでは御当主様方、入口へどうぞ」


 案内役はそう言うと、密談の場についての説明を行った。

 会場となっている広間には、外の部屋に繋がっている入口が六つ。入口の先には木製の扉、そして扉には木札が入りそうな大きさの穴がある。木札が鍵となり、密談を行う家々との部屋を繋ぐ仕掛けとなっている。扉が繋がれば、密談が始まる――。


 見藤は説明を受け、あの扉に施された奇絶怪絶な(まじな)いに興味を示す。厳粛な場と言えど、知的探求心と好奇心には勝てなかったらしい。しかし、そんな彼の様子を目にしたキヨは困ったと言わんばりに眉を下げた。


「全く」

「スミマセン……」

「行くよ」


 そうして、真っ先に入口へ向かったのはキヨと見藤だった。一方、当主と付き人が合流し終え、付き人が複数いる家は同行するひとりを選出していた。当主と付き人が入口に揃うと、案内役が声を上げる。


「それでは、木札を差し込んで下さい。よき場となるよう、祈っております」


――カラン、コロンと不思議な音が響き、扉が開かれた。



 見藤家当主は車椅子にその身を預けながら、じっと開かれた扉を見つめていた。


「行くぞ」


 唐突に発せられた言葉に戸惑うことなく、見藤家の付き人は車椅子を押した。


 部屋の奥には、既に密談を交わす相手が鎮座していた。そして、()の傍には老齢の付き人が控えている。


 部屋の中は薄暗く、隅に置かれた行燈(あんどん)だけが唯一の光源となっている。淡い光によって照らし出された人物は、美麗な表情をひとつも変えず。ただ、密談の場に現れた見藤家当主を黙って見つめていた。


 その姿を目にした見藤家当主は俯いていた顔を上げ、口を開いた。


「芦屋家当主殿、密談の承諾。感謝する」

「いいえ、とんでもございません」


 冷たい声音で返事をした芦屋家当主。不意に顔にかかった髪を耳に掛けた。より、(あらわ)になる険しい表情。


 見藤家当主は車椅子を押され、卓上の前まで移動する。見藤家の付き人は用意されていた椅子を部屋の隅にどかし、再び彼の後ろで控えた。その折、付き人の姿が行燈に照らされる。 


 見藤家当主が行う密談の付き人に選ばれたのは、妙齢の女性だったようだ。涼しい表情を崩さず、甲斐甲斐しく身の回りの世話をする。

 

 卓上を隔てて、芦屋家当主と見藤家当主は対面する。すると、先に口を開いたのは芦屋家当主だった。


「私としても、貴方のお話に興味がありまして。対立関係にも関わらず、こうして密談の場を設ける真意も、ですが」


 彼が言うのはかつて見藤家に生まれ落ちていた『大御神(おおみかみ)の落し物』を宿した人物のことだろうか。それとも、今や対立する立場の家同士ながら、こうして密談の場を設けたことに対する疑念を晴らすためなのか。

 しかし、見藤家当主は彼の言うことには聞く耳を持たず、話し始めた。

 

「祟りに侵され、見藤家は散り散りになった。本家筋の者はこうしてなんとか繋がりを保っているが、分家筋の者は行方知れずの者が多い」

「それは……、心中お察ししますね」


 見藤家当主が語った一族の末路を不憫に思ったのか。芦屋家当主は思わず言葉を溢した。彼の後ろに控える老齢の付き人は、無礼とも取れる見藤家当主の態度に顔を(しか)めている。

 芦屋家当主はそんな付き人の心情を気取ったのか眉を下げ、彼を(なだ)めるように手を挙げた。


 一連のやり取りを受け、見藤家の付き人は申し訳なさそうに眉を下げた。だが、その表情もすぐに涼しい顔に戻る。すると、見藤家当主は矢継ぎ早に言葉を続ける。

 

「芦屋家当主殿、貴方は相当な実力者だとお見受けしている」

「それは買い被り過ぎです」

()()()がそう言うのだ。間違いないはずだ」

「……そう、ですか」


 謙遜する芦屋家当主。緩やかに首を横に振るが、そこでじっと見藤家の付き人である()()を見やった。


 見藤家当主の言葉通りであれば、彼女は現当主の娘であり本家直系の者だ。そして、会合の場においては良くも悪くも目立つ、振袖を身に(まと)っている。どうやら彼女は見藤家において、実力者でもあるようだ。


 彼女は芦屋家当主の視線に気付くと、涼しい表情はそのままに一礼したのだった。そうして、一呼吸おくと再び見藤家当主は口を開く。


「貴方にも、ご協力願いたい」

()()、ですか……」


 どこか意味深に発せられた言葉に、芦屋家当主は眉を寄せる。「協力」と言えども、その内容を聞かずして返答することはできない、と彼はじっとその先の言葉を待つ。

 見藤家当主は大きな溜め息をついたかと思えば、意を決したように「協力」の内容を口にする。


「『大御神の落とし物』を宿した、見藤家の者を探し出して欲しい」

「…………」

「左腕に古傷があるはずだ。それに、目の色も特徴的だ。見ればすぐに分かる」


 その言葉、声音、眼の奥底に潜むもの。芦屋家当主は、見藤家当主の底知れぬ執着を感じたようだ。血の気が引いたように、顔色を悪くしている。だが、ふと気掛かりな点があったのだろう。その次には平静を取り戻し、疑問を投げかける。


「先程の会合では、その人は妖怪の祟りによって失われた、と」

()()明言していない」

「……まぁ、そう言われれば確かに」


 はっきりとした口調で否定する見藤家当主。見藤家当主の言葉に、芦屋家当主は少しばかり呆れたような表情を見せた。だが、すぐに納得したと言わんばかりに深く頷いた。

 そうして、見藤家当主は不敵に笑い、その先の言葉を続ける。


「『先導者』を(まつ)る貴方なら――。その存在を直に、自分の目で確かめたいはずだ」

「それは――」

「返事は急がない。是非とも、考えてもらいたい。賀茂の派閥から抜けるというのであれば……、手切れの品が必要だろう? 私としては、その手助けのつもりだ」

「――分かりました」


 そうして、見藤家当主と芦屋家当主は密談を終えた。


 見藤家当主が芦屋家当主との密談を終えた後。退室するために、付き人は車椅子を押して背を向ける。

 そして、見藤家当主が扉の穴にまた違った家紋の描かれた木札を差し込んだ。――カラン、コロンと不思議な音が耳に残る。


 付き人は扉を開き、車椅子を押しながら一歩、踏み出した――。


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