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【完結】禁色たちの怪異奇譚~ようこそ、怪異相談事務所へ。怪異のお悩み、解決します~   作者: 出口もぐら
第六章 京都会合編

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49話目 動き出す禁色たち②


 某所。荘厳な日本家屋の一室。

 窓際に佇み、通話をする斑鳩の姿があった。そして、少し離れた位置には椅子にもたれ込む、斑鳩家当主の姿。


「会合の警備配置は――。あぁ、細かい調整はすぐに、では」

大河(たいが)よ」


 当主は斑鳩の()を呼んだ。斑鳩は手に持ったスマートフォンを下げると、当主の元まで歩み寄る。


「どうしたんだ、養父おやじ

「此度の会合、荒れるかもしれんなぁ」


 意味深に呟かれた言葉を耳にした斑鳩は、眉を下げた。だが、当主の顔を目にした斑鳩は肩を竦める。そして、少しだけ呆れたように口を開いた。


「……荒れると言う割に、やけに楽しそうだな」

「まぁ、キヨちゃんがな。ようやく、連れて来る気になったようだ」


 当主の言葉に、斑鳩は目を見開く。


「……()()()を?」

「そうだ。まじない師の会合は、滅多に開かれるものではない。それは知っているな?」


 当主は確認するように、斑鳩に尋ねた。

 尋ねられた斑鳩は、肩をすくめながら口を開く。それは「今更、何故そのようなことを聞くのだろう」とでも言うようだ。


「あぁ、そりゃあ……他家からすれば、斑鳩家うちは目の敵にされているからな。会合中にうっかり口を滑らせて、なんてことになったら家の権威喪失もいい所だ」

「それもある、が――」


 当主はもったいぶった様子で言葉を切った。そして、大きな溜め息をつきながら、斑鳩へ視線を送る。


「会合は名家当主が代替わりしたとき、開かれる。他家への牽制の意味も含めて、な」

「まぁ、前回は芦屋のとこが代替わりしたときだったろ?」

「だが、此度は違う。次期当主の顔見世だ。それも、既に当主が変わった家も含めると――、三家だ」

「……」


 その言葉に斑鳩は口をつぐんだ。当主の視線に応えるように、眉を寄せる。何かを考え込むように、腕を組んだ。


 斑鳩はまじないを扱う名家の生まれであるが、本職は警官だ。故に、怪異によって引き起こされた事件・事故現場にて凄惨な光景を目にしてきた。

 それに加えて、近年では呪術師によってもたらされた不幸――。一見すれば事故のように思えるが、よく視れば呪いの残滓が見つかる事象が相次いでいる。事実、斑鳩の仕事は増え続けていた。


 世間一般に、都市伝説における怪異や、オカルト、呪術が流布された影響は計り知れなかった。見藤の元に斡旋される依頼も、その手の事象が増えているはずだ、と斑鳩は考える。


(それに……、妙な影響を受けてた神なる怪異が増えている。こういう時代に牽制し合う暇なんぞ、ないってのに)


 斑鳩は直近、報告に挙がった事象のことを思い出した。 キヨによって拡散された、夏に起こった怪異変異の情報。そして、呪術師の暗躍。新たに示唆された、神なる怪異達の異変。どれも、斑鳩家が対処にあたるには規模が大きすぎる。


 情報を統括しているキヨはその席を離れられず、見藤ひとりが動くには仕事が多すぎる――、と斑鳩の思考は加速する。


(人の敵は人――、か。見藤あいつの言葉が今になって分かった気がする)


 考え込んでいる斑鳩の胸中を察したのか、当主は溜め息をつく。


「一体、どうなることやら」


 当主は力なく言葉を溢したのだった。



 某所。暗がりを行燈あんどんが照らし出す廊下を闊歩する司祭―― 、芦屋の姿があった。


 彼は司祭服ではなく、和装に身を包んでいる。結い上げた後ろ髪を揺らしながら、苛立った様子で溜め息をつく。そんな彼の様子に、廊下ですれ違う使用人は足を止め、困惑した表情で一礼する。


「はぁ……、このような時に会合など、迷惑なものです。信仰の絵画、異変の対応に追われているというのに……!」


 芦屋の口から発せられたのは、悪態だった。怒りの矛先を向けようにも、その先がなく不満げに美麗な顔を歪ませる。


 丁寧な口調に不釣り合いな足音を響かせながら、廊下を進む。すると、彼はぴたりと足を止めた。そこは、物々しい扉が設けられた部屋だった。扉には幾重にも札が貼られており、一目見て()()()があるものと分かる。

 

 芦屋は物怖じすることなく、扉の取っ手に触れた。


「それも、会合の合間に余興など――。悪趣味なことをするものです」


 彼は己の口から出た言葉を心の内に反芻したのか、これでもかと言うほど眉を寄せた。すると、不意に背後から声が掛けられる。


「御当主様」

「えぇ、分かっていますよ」


 芦屋が振り返ると、そこにいたのは老齢の使用人であった。彼は悪態をついていた芦屋をいさめるような視線を送っている。

 そんな視線を受け、居たたまれなくなったのか。素っ気なく返事をする彼は、年相応の青年だ。


 芦屋は手を添えていた取っ手を、勢いよく引いた。扉が開かれると、禍々しい空気がその場を支配する。

 空気の悪さに、思わず顔を顰めた老齢の使用人。そんな彼を気遣った芦屋は、部屋には入って来ないよう言いつけた。


 部屋の中に足を踏み入れた芦屋は、最奥に安置されている箱を目指して足を進めた。箱に近付くにつれ、彼の呼吸は浅くなり、その箱の中身が()()()の物であることを体感させる。

 重厚な造りをした箱を目の前にした芦屋は、ひと際大きな息を吐く。


()()を持ちだすのは、先々代……振りでしょうね」


 力なく言葉を溢しながら、箱に手を触れた。――何も起こらない。

 芦屋は安堵した表情を浮かべ、箱を両手で持ち上げた。そして、大事そうに抱えながら部屋を後にする。部屋を出た彼は、入り口に控えていた老齢の使用人に声を掛けた。

 

「相談役達に伝えて下さい。用意はできました。此度の会合、つつがなく終えられるよう祈りましょう」

「かしこまりました」


 使用人は返事をすると、きびを返し去って行った。残された芦屋は誰もいなくなった廊下に、小さな声で呟く。


「はぁ……、何か嫌な予感がしますね……」


 彼の言葉は、誰に聞き届けられる訳でもなく。暗闇に消えた。


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