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【完結】禁色たちの怪異奇譚~ようこそ、怪異相談事務所へ。怪異のお悩み、解決します~   作者: 出口もぐら
第四章 百物語編

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33話目 針山の針と影に溶ける影法師③

 

 そうした事があり、数日後。

 事務所内には相変わらず多忙を極めている見藤の姿と、ローテーブルの上に書類を積み上げてその分類に追われている久保と東雲の姿があった。

 その向かいには霧子の姿もあるのだが、彼女は我関せずといった具合で今日も雑誌に目を通している。いつもと少し違ったのは、旅行雑誌という点だろうか。


 そんな中、久保は少しだけ呆れたように言葉を溢した。それを皮切りに、東雲も彼と会話を交わす。


「にしても、キヨさんからの依頼……多すぎだ。それに見藤さん、報告書は全て手書きだし……そりゃ、終わらない訳だよ」

「それに怪異だけやない。怪異や呪術と言ったんが流行ったせいで人が興味本位に変な儀式に手を出したパターンもあるみたいで」


 久保と東雲は口を動かしながら、せっせと目線と手も動かしている。

 今、彼らが行っているのは依頼書の内容による分類だ。怪異事件・調査とそれ以外の ―― 人が呪物や呪術に触れた結果、被害に遭った後始末と言った具合だ。


 久保に手書きの報告書を指摘され、少し気まずいのか見藤はぽりぽりと頬を掻いた。そして、しばらく見藤は二人が慌ただしく作業を行っているのを見守っていたが、ちらりと時計を見やる。

 見藤は道具をまとめ、コートハンガーに掛けていたダウンパーカーを手に取った。これから出掛けるようだ。


「悪いが、少し出てくる。君らは休憩を挟むようにな」

「分かりました、いってらっしゃい」「はーーい」


 久保の返答と東雲の元気の良い返事に見送られながら見藤は事務所を発ったのであった。

 その折を見て、どうやら霧子も社へ戻ったようだ。ソファーの上には先ほどまで彼女が読んでいた旅行雑誌が置かれたままに。その雑誌には所々、可愛らしい付箋が貼られていた。



* * *


 事務所を久保と東雲に任せ、外出した見藤が向かった先。そこは例によって斑鳩家の敷地内。


「で、なんだ。このえらく可愛らしい針山は」

「可愛いだろ、嫁さんチョイスだ」

「斑鳩、ふざけるのは頭の中だけにしろ」

「厳しぃなー」


 流布によって新たに生まれた怪異、ヌイメの封印を行うために見藤は再びそこを訪れたのであった。どうやら、見藤が解いてしまった斑鳩家の結界は未だその綻びを残しており、それは好都合とこの場所に決まったのだ。そこは斑鳩に取り憑いた犬神を落としたあの蔵の中だ。


 斑鳩によって用意されていた針山は、この大柄の男に似合わずなんとも可愛らしい小花柄と淡い色合いをした玉座のように優雅な椅子をミニチュアにしたような針山であった。

 薄暗い蔵の中に佇む大柄な男が二人。そんな二人の腰ほどの高さを持たせた台座に置かれたミニチュアの可憐な玉座。これにヌイメを呼び寄せようとしているのだから、その不釣り合いな見た目に緊張感を持てるはずもなく ――。


「はぁ……」

「見藤、そう溜め息をつくな。ヌイメの認知操作は仕上がってるぞ」

「あぁ、始めるか」


 見藤の言葉を合図に、斑鳩は情報操作を司る者達に連絡を取る。針山など不特定多数の場所に存在する物だが、特徴のある針山に指定してしまえばヌイメはその針山を目指し、姿を現すという算段だ。


―― 噂話など人のよく回る口を縫い付けていく怪異。

 それは好奇の視線でも同じく、その場合は目を縫い付けて塞いでしまう怪異。縫い付けた後は針山に還る。件の怪異をヌイメと呼称している。

 そうして、人に危害を及ぼしたヌイメはその針山と共に封印されてしまった。という、認知操作が時間をかけて成されたのだ。


 その効果は、必然だ。ギィ、ギィイ……と耳を塞ぎたくなるような音をさせながら姿を現した怪異。見藤と斑鳩は扉の方を視た。


 頭部を断ち切り鋏とした異形。胴体は人のそれと似通っているものの、足はなく胴体が地面に接着しているように見える。

 そして、その胴体には通常とは異なる大きさの和針がいくつも突き刺さっており、針の穴には既に糸が通されている。ヌイメは複数ある腕で体から針を引き抜いたかと思うと、縫い付ける物はないかと探し回っているようだ。


 ヌイメは台座に置かれた針山に気付くと、体を引きずりながら近付いて来る。すると、頭部の断ち切り鋏の刃がジョキン、と大きな音を立てて動いた。

 斑鳩と見藤が台座に置かれた玉座を模した針山を見やると、そこには人が扱う大きさとなった断ち切り鋏と針が数本突き刺さっていたのだ。そして、目の前にいたはずのヌイメの姿は消え去っている。


「ふぅん」

「これで終いだな」


 斑鳩の気の抜けた言葉にもならない感嘆に見藤はそう呟くと、パン!と手を叩く。すると、例によって針は微細に朱に光る匣に覆われてしまった。徐々にその光が落ち着いてきたかと思うと、それは光を失い朱赤の匣となる。

―― なんとも呆気ないものであった。


 封印の朱の匣を見藤が手に取ると、斑鳩はわずかに開いていた蔵の扉を大きく開く。すると、彼は何かを思い出したように見藤を振り返った。


「そうだ見藤、知ってるか?ごく一部の怪異に限定されているが、残滓であった頃の記憶を持つ個体がいると分かったらしい。怪異の姿は集団認知による影響を受ける場合がほとんどだが……。特に姿を自分の意思で変える怪異なんてのは、その記憶の影響を受けるらしい」

「……なんだ、その話は。突然、何の関係が ――」

芦屋あしやからの情報だ。最近、あそこは怪異の研究、分析にも力を入れている」


 らしい、とはなんとも不確定要素がぬぐえない物言いではあるが斑鳩のことだ。その情報は確かなのだろう。そして協力関係を結んでいる芦屋家からの情報というは信憑性が増す。

 しかしながら、こうも斑鳩家と芦屋家が密接とは。少しばかり、懐疑的な思考が見藤の中に生まれる。


 そして、姿を変える怪異という言葉に見藤の眉がぴくりと動く。彼にとっては記憶に新しい怪異だったからだ。

 

「どうして、他の家がそこまで協力的なのか疑問だが……」

「あぁ?言ってなかったか、俺の嫁は芦屋の出だぞ」

「……そうか」


 そう話す斑鳩はこれでもかと綻ばせた表情を見せる。一方の見藤は惚気られたのか、とげんなりとした顔をする。今更ながらに悪友の意外な一面を見たものだと、溜め息をついた。


 すると、急ぎ早にこちらへ向かってくる人影。

 何事だと斑鳩は一瞬身構えるが、その顔を見た瞬間にさっと見藤の背に隠れてしまった。前に押しやられた見藤は、意味が分からず怪訝な顔をしている。

 その人物は斑鳩の姿を見るや否や、これでもかと唾を飛ばしながら必死に訴えた。


「坊ちゃん!!結界をごちゃごちゃ、いろたらあかんがなっ!!!えらいことやで!?」

「いやぁ……ははは、爺さん落ち着いてくれよ……」

「はぁあぁん!?」


 この老齢な男はその格好から見るにどうやら斑鳩家の庭師らしい。その齢に似合わず血気盛んなようで、大声を上げたかと思うと今度は見藤の背に隠れた大柄な斑鳩を引っ張り出そうとぐいぐいと服の裾を引っ張っている。

 どこにそんな力があるのかと思う程に斑鳩は徐々に引っ張り出されており、彼は足を踏ん張り必死の抵抗を試みているようだ。ぐっと、見藤の腕を掴んで離さない。


 結界と聞いて思い当たる事があったのか、呑気にも見藤はふむ、と顎に手を当てた。


「結界……あぁ、あれですか。……すみません」

「見藤!!お前がいじったんだ!元に戻してから帰れ!!」

「お前でも直せるだろう」

「はぁ!?いや、俺は ――」


 あっけらかんと言い放たれた言葉に斑鳩が抗議の声を上げようとした。だが、それは血気盛んな庭師によって遮られてしまった。


「坊ちゃん!恩人に何を言うてますか!?はよ、結界を張り直しに行きますよ!?次期当主ともなろうもんが!坊主の時のサボり癖は直してもらいませんと!!もう、真面目なふりをして、抜け出すんは通用しませんで!」

「うっ……!!?見藤ぉ ――!!」


 斑鳩の絶叫に片手だけで耳を塞ぎながら、見藤は行ってこいと言わんばかりにやる気なく手を振って彼を見送ると ――。


「ひとまず一件落着。さて、帰るか」


 そう言葉を溢していた。


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