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【完結】禁色たちの怪異奇譚~ようこそ、怪異相談事務所へ。怪異のお悩み、解決します~   作者: 出口もぐら
第一章 劈頭編

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5話目 真夏の肝試し、廃旅館の開かずの間


 季節は移ろい、いよいよ夏本番。太陽の日差しが肌を刺す。


 事務机に向かいながら、見藤は自身を団扇で仰ぐ。熱波へのせめてもの抵抗だ。古い雑居ビルに設置された冷房器具など、たかが知れているのだろう。


 久保と東雲もソファーに腰かけ、同じように団扇を手にしている。ただ、怪異である霧子だけは涼しい顔をして、優雅に雑誌を読んでいた。そんな彼女の姿は亭々たる長身ではなく、人の姿を真似たもの。久保と東雲が見慣れた姿だ。


 すると、不意に見藤が口を開き、夏の予定を告げる。


「久保くん。夏の間は、しばらく間をあけてから来てくれ。ちょっと、外へ行かにゃならんのが立て込んでるんでな」


 暑さ故か、彼は気怠そうにそう言った。

 そんな夏の予定を耳にした東雲は、か細い声で――。


「え……。その間、見藤さんに会えない……」

「ほんと君はぶれないね」


 久保のツッコミに東雲はぎっ、と睨みつける。出会った当初と比べると、東雲は大幅なイメージチェンジをしたようだ。

 そんな彼女の呟きに、流石の見藤も無視を決め込み、事務机に向かい書類を捲っている。


 事務机には山積みにされた書類の束が鎮座していた。見藤によると、夏は怪異による事件・事故が全国で多発するらしい。


 異常気象による豪雨災害、日照り干ばつによって、人の認知は自然への畏怖の念に傾き、その負の感情は強まる。そして、その類の怪異の力を強めることになるそうだ。


 そうして、力を急激に強めた怪異が引き起こす怪奇。それらの都市への影響を抑制するというのだ。キヨが店主を務める道具屋、兼情報屋。そこから、見藤の元へ依頼が割り振られる。


 見藤は、はたと作業の手を止め、久保と東雲を見やる。


「くれぐれも、心霊スポットには行くなよ?」


 それともうひとつの影響。夏の風物詩、肝試しである。

 毎年、一定件数が報告されるらしい。心霊スポットと称される場所に足を踏み入れ、その昔に怪異が封印された石碑を荒らしたり、土地に居憑く怪異に迷惑をかけたり。


 人の好奇心が引き起こす影響は計り知れない。


 そして、廃神社や廃寺院、山ともなると――、その土地に居憑くのは怪異だけではない。肝試しにおあつらえ向きの「霊」である。


 見藤は辟易とした表情で、語り始めた。


「心霊現象の類や、霊を祓うのは俺の仕事じゃない。そういうのは、別の奴が専門で請け負っているからな」

「へぇ……」


 久保は間の抜けた相槌を打つ。――その人物はどのような人なのだろうか、と未だ見ぬ怪奇に好奇心が疼く。

 そこで、見藤の厳しい声が久保を現実に引き戻した。


「まぁ、夏だからって浮かれすぎるなよ。この間みたいなことは勘弁だ」


 先の縁切り神社で遭遇した、丑の刻参りが招いた人の成れの果てのことだ。

 見藤の言葉を聞き、その出来事を思い出した久保は苦い顔をする。


「分かってますよ。僕も同感です」

「俺は霊の類は視えんからな。何かあっても対処のしようがない。先に言っておくぞ」


 見藤は釘を刺す。その鋭い眼光に、久保と東雲はしきりに頷いた。


 霊は視えない――、東雲のお守りの一件で分かった見藤の意外な一面だ。

 迷い家の怪異を鞄で殴り飛ばしたり、お守りの守護を強めたり。そんな怪奇な能力を持つ見藤だが、どういった訳か。霊だけは視えないのだと語る。


 東雲は怪異と霊、妖怪を視ることができるというのだから、見藤は当然、視えるものだと思っていた。久保がその理由を尋ねても、上手くはぐらかされるばかりだ。


 すると、見藤は霧子を見やると、ふっと目元を綻ばせながら口を開く。


「まぁ、事務所には霧子さんと猫宮もいるから、遊びに来るといい」

「ありがとうございます!」


 その言葉に、嬉々として反応したのは東雲だ。向かいに座る霧子へ声を掛ける。


「霧子さん! 夏休みに入ったら、一緒にお買い物へ行きましょう!」

「あら、いいわね。ちょうど日よけの帽子が欲しかったの」


 見藤のことになると、途端ポンコツになる二人だが、仲は良いらしい。最近は、可愛がっている東雲がよく遊びに来るからなのか、霧子もよく事務所を訪れるようになっていた。――人と怪異、女同士の友情のようなものなのだろう。


 女性陣の夏の予定が決まり、この日は解散となった。



 そうして、助手業務に現を抜かしていた久保。すっかり、忘れていた学期末試験。

 彼は死に物狂いで試験勉強をする羽目になる。慌ただしく過ごしていると、あっという間に夏休み目前。


 夏休みに予定があったことなど、すっかり忘れていた。



 * * *


 無事に試験を終えた久保は、これから迎える夏休みに胸を膨らませていた。そこへ、思いもよらない言葉が掛けられる。


「クラスの何人かに声掛けといたから、この日に肝試し決行な。よろしくー!」

「はぁ!?」


 久保は驚きの声を上げる。慌てて振り向くと、そこにはいつもの友人の姿。

 友人の突拍子もない話や行動には、ある程度の付き合いがあるため、すっかり慣れたつもりでいた。だが、その内容に驚きを隠せない。


「えー、随分前から話しとったやん」

「いやいや、僕は行かないからな!」


 久保は強い口調で言い返す。――断固拒否である。

 先の怪奇な体験も然り、見藤の忠告もある。自分はその世界の一端を垣間見ている。誰が危ないことに首を突っ込むというのか、と苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


 しかし、この友人には久保の思いなど関係あるはずもなく。スマートフォンを片手に一人で勝手に話を進めている。


「ここな、動画配信サイトでもかなり有名な心霊スポットで『廃旅館の開かずの間』。ここなら、何かおもろい事が起きるやろ。一夏の思い出やなぁ。うんうん」

「そういう軽い気持ちで行くものじゃないだろ、それに……!」

「もう人数も集まってん……。ほな、明後日よろしくな!」

「明後日!?」


 一切、聞く耳を持たない人間と言うのは、説得も制止も困難だ。

 久保に(いさ)められた友人は、そそくさとその場を後にした。残された久保はひとり力なく呟く――。


「どうしよう……」


 見藤が不在の中、最大の危機を迎えていた。一先ず、事情が通じる東雲に連絡を取ることにした。

 久保が事情を話し終えるや否や、電話口から東雲の呆れた声が聞こえてくる。


『え……? 本当に心霊スポットへ行くことになったの?』

「どうしよう……」

『あほなん? 見藤さんにも言われとったやろう!』


 東雲がこうして地元の言葉が出るときは大概お怒りの時である。――にっちもさっちも行かなくなった。既に数名のクラスメイトが参加することになってしまっている。


 事情を説明しても、臆病な人間だと笑われるのがオチだ。自分だけなら行かない選択をすることも容易いが、久保の小さな正義感がその選択を許さない。


「とりあえず、見藤さんに事情だけは説明しておこう……。心配だから同行します、って」

『はぁ……。うちも行くわ』

「え……!?」

『仕方ないやろう! うちだって本当は嫌やわ!』

「東雲さん……」

『早う、見藤さんに連絡取って!』


 久保は初めて東雲に感謝をした、が――。


『こういう流れで同行するのがヒロインっぽいやろう』

「そういう事、言わなきゃいいのに……」


 華麗な前言撤回である。


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