黒幕
俺は、この屋敷の主人アーロン、正妻メアリーを呼んだ。
昨夜の殺し屋騒動とある事を聞くために、大広間にソファに座り、紅茶を飲んでいるメアリー、妻の隣でくたびれた様子で、俺の呼び出しに応じたアーロン、俺は座らず立ったままで、単刀直入にメアリーに聞いた。
「奥様、貴女が殺し屋を呼びましたね」
俺の発言に場の空気が張り詰める。
優雅に紅茶を飲んでいた、メアリーはティーカップを受け皿に置き、黙って俺を見た。
「何か、証拠でもあるのですか?」
「証拠ですか、それは…これです」
俺は、契約書を見せる。
その内容は、契約者メアリー・アッカーソンはロベルト・アッカーソンを殺す事を依頼する。
殺し屋集団ジュエルは、これを受諾する。
っと書かれた書類だった。
「何で、それを貴方が!? 」
メアリーは動揺しているようだ、それはそうだ。
この書類は庭に燃やした書類の紙切れがあったので、復元魔法の一つ、神の再生で再生した物だ。
この魔法は、勇者としてミハエルに教わったもので、本来の用途は傷の治療に使うものだが、俺はアレンジで物とか無機物の修理でも使えるように、昇華したのだ。
お陰で、今回の事件でも首謀者であるメアリーに行きつく事が出来た。
泣き崩れるメアリーに、それを黙って見ているアーロン、俺は黙って見ている。
だが、今回の事件はメアリーが首謀者だが、それだけでは終わらない。
それは、アーロンについてもだ。
「アーロン、貴方はロベルトの体を乗っ取ろうとしているでしょう」
泣き崩れるた、メアリーは夫の所業を知り、泣くのを止めた。
アーロンは、俺の方をずっと見ており、慌てた様子はない。
それどころか、「根拠は? 」っと俺に聞く。
「根拠は、これです! 」
俺は一冊の魔導書を突きつける。
アーロンの書庫に忍び入り、見つけた書だ。
それは、人間剥奪の書である。
内容は自分の意識や記憶を他者に移すという、ある種の外方の魔法だ。
送る方は受ける側に全ての意識や知識、記憶を移すと死ぬという…老いた体の魔法使いが、編み出した魔法だが、こんなもんがまだ現在も残っているとは思いもしなかった。
俺は、更に言う。
「アーロン、貴方はこれが初めてではないでしょう…その体も更に前も、他者の体を乗っ取り、今まで、生きてきた…俺には分かるんですよ、貴方から漂う、微かな魔族の匂いが」
アーロンは、笑いながら立った、そして拍手しながら、「流石! 勇者様には分かってしまいましたか」
こいつ、俺の正体に勘づいていやがる。
「いや…いつ、バレるかと思ってましたが、まさか、こんなにも早くとは」
「アンタは、会ってから何か不自然な感じがあったからな、悪いがロベルトにそんな真似はさせない」
「ハハハ、クリソベリル様を倒した男に私が挑みませんよ、残念ですが、ロベルトの事も諦めましょう…………っとでも言うと思いましたか! この勇者めが!! 」
アーロンの姿は変貌していく、体がみるみる筋肉が膨張し、頭からは角が生え、その姿は、魔族のそのものだ。