魔法を覚えてみよう
翌日、明朝からロベルトと庭で魔法の特訓をする事になった。
女騎士アランも同席している、心配性なんだろうか、それとも…何処とも知れぬ男に大事な主人が何かされるんじゃないのかと、猜疑心から来るものかな? まあ、どちらでもいい、俺はやれる事をやるだけだ。
ロベルトに教えるのは、魔法の基礎となる世界との協調だ、抽象的過ぎるな……具体的には魔法の元は、この世界の精霊から力を借りる事になる、火、水、風、土、木、光、闇、と、それぞれに精霊はいる。
世界の何処にも彼等はおり、何もない所から火を起こしたり、水を出したり、風を吹かせたり、土を操り隆起させたり、木を生やしたり、光を集中させ輝かせたり、闇を張って周囲を暗くしたり……使い手によっては、もっと凄い事も出来る。
ロベルトには、先ずは会話をするように、言った。
ロベルトからは、会話って…何もない所に話しかけるの? と聞かれ、そうだと言う。
例えば、火の精霊さん、僕に力を貸して下さいとか、言ってみるんだと、最初は精霊からは見向きもされないが、粘り強く、粘り強く、念じながら言えば、少しは応えてくれるさ。
少しなの? とロベルトは不満げだが、この基礎をこなしていく内に、頭で描いた魔法も出来るようになるよ、と宥める。
ロベルトは最初に風の精霊に、チャレンジするそうだ、俺の言った通りに、精霊さん、僕に力を貸して下さいと言って、何度も何度もチャレンジする。
時間は過ぎ、お昼になる頃か、ロベルトに変化が起こる。
風を纏い、宙を浮かんで見せたのだ。
これには、アランも驚く。
「ドモンさん!? 僕、出来ましたよ、これが魔法なんですね!!」
「気を抜くな、イメージしろ、浮いた自分を静かに降ろすように、頭の中で描くんだ」
でなければ、浮いた状態から、真っ逆さまに落ちてしまう、しかし、ロベルトは中々、才能がある。
俺がフレアから魔法習った時は、一週間はかかった。
この子をフレアに見せたら、びっくりするんじゃないかと思ってると、ロベルトは、上手く地面に着地した。
ロベルトは自慢げに胸を張った、アランも駆け寄りロベルトを抱きしめ、流石、お坊ちゃまです! と喜んでいる。
そんなロベルトを見て、心穏やかじゃない者もいるようで、俺の気配察知能力が、屋敷の窓から視線を感じた。
あのアーロンの正妻か息子、娘、だろう…ロベルトが未知の力を身に付け、心中穏やかじゃないんだろう、そして、俺は、この屋敷のお家騒動に巻き込まれる前に、ロベルトには屋敷から飛び出して、母親の元で暮らした方が本人の為にもなるんではないかと思って、アランに話しかける。
アランもその方が良いに決まっていると言うが、それは、出来ないのだと言う。
先ずは、金銭的な事情、ロベルトの母親は体が病弱で、屋敷からの薬の援助なしでは生きていけないとの事だ。
そして、この屋敷の主人アーロンの期待がかなり高いとの事だと、不気味なくらいに! 正妻が嫉妬するのも無理もない、我が子よりも妾の子に愛情を注いでのを知れば、ロベルトへの扱いも荒むのも、ある種、人間的な行動だろう。
話が脱線した、要は、ロベルトの母親やアーロンの期待に応えなければいい。
俺は悪い顔をして、アランに言う。
そんなもんに、囚われる理由にはならないとね。
アランは怒った、貴様に何が分かるとお坊ちゃまの苦労も知らずに……ぬけぬけと、所詮、旅のゴロツキの貴様が、解決出来る話しじゃないんだと。
酷い言われようだ、まあ、俺だけの力じゃ解決出来ないのは、事実だ。
俺は王都の聖職者が集う、寺院へ手紙を送る事にした、この屋敷にも郵便屋が来ているのは、確認済みだ、郵便屋に俺は手紙を渡す。
宛先はミハエルへ、力を貸して欲しいと、対価は、ガーネットの遺品である宝石だ。