プロローグ
「やめろよ、やめろよ……やめろ!」
俺は、魔王の前で立ちふさがった、親友ガーネットにトドメを刺すのを躊躇った為、仲間が見かねたのか、代わりにトドメを刺すのを止める。
「どうして、トウドウは止めるの? 彼は裏切り者だよ」
「確かにそうだけど……ガーネットだって共に旅してきた仲じゃないか!! フレア!!!」
「フレア! トウドウの言う通りだよ、こんな形になっちゃったけれども、ガーネットは私達の仲間じゃない!」
「ミハエル……君まで……僕達の使命を忘れてない? あそこにいる魔王を倒す事だよ」
親友は、俺達勇者パーティーの仲間だった。
しかし、ガーネットは魔王の前で裏切り、魔王の前で俺達に剣を向けて来た。
俺は一対一の勝負を挑み勝った、そして……俺の繰り出した技で瀕死になっているガーネットに俺はトドメを刺せずにいた。
ああ……どうして、こうなったのだろう……。
後方で愉悦に浸っている魔王は、俺達の様子を見てニタニタ笑っている…。
魔王への殺意が沸き上がる。
「やれよ、トウドウ」
「ガーネット…お前ぇ……」
ガーネットは、俺の剣の刃を握りしめ、自身に人生の最期を下すように、心臓がある胸に刃を誘導する。
こいつ……っと思った。
俺がトドメを刺せないのを察して、自ら刺すつもりなんだ。
ガーネット……お前って奴は、何処までも、こんな形になっても…優しいんだなって、友の心遣いに俺は、嗚咽を隠せない、友よ、お前が望むなら、俺は悪魔にだってなってやる。
捻くれ者で現実主義者のフレア、パーティーの中でも、人一倍優しいミハエル、そして……俺と幼なじみでムードメーカーで、捻くれ者のフレアですら笑わせるお前、ガーネットよ、俺は……俺は……覚悟を決める。
旅が終わったら、いつか、みんなで旅で培った能力で、ギルド作ったりしたり、十年、二十年、三十年、経ってみんな、おじさん、おばさんになったら、旅の思い出を肴に酒盛りをしたり、やりたい事、沢山あったよ。
―――――――――――さようなら、ガーネット
俺は一思いに、嘗ての友に別れを下す。
この時、俺の中で何か壊れる感覚がした。
そして…友を貫いた剣を体から抜き、俺は、元凶である魔王に向かい合う。
魔王は、余裕綽々っといった様子で、俺達の前にいる。
さっきまでのやり取りがよほど愉快だったのか、下衆な笑みを浮かべながら、戦闘に入った。
俺達は、魔王の圧倒的な力の前に傷付き、心を折られるも、いや、既に心は折られていたが……フレア、ミハエルと互いに励ましあい、魔法使いのフレアの魔法、回復や身体能力の向上の魔法を使いこなす、ミハエル、そして、今、現在、勇者である俺の剣術で、死闘の末…討ち倒した。
「勇者よ……貴様、名は? 」
滅びかける体で、魔王は俺に名を聞いてくる。
「トウドウだ、魔王よ、お前の名はなんだ? 」
俺は魔王に名を聞いた、その行為に意味があるかと問われれば、無いかも知れない…しかし! 旅の目的であり、倒すべき敵であり、友を敵として、差し向けた、この魔王の名を俺は知りたかった。
「トウドウよ、よく聞くがいい……我が名はクリソベリル」
魔王クリソベリルは、そう言い遺し、消え去った。
こうして……俺の勇者としての旅は終わった。
終わったんだ、そう、終わった。
だが、俺の心にはぽっかり、穴が空いた。
魔王に故郷を滅ぼされ、両親も亡くし、それでも、ここまで戦えたのはガーネットのお陰だ。
そのガーネットを俺は、自らの手で殺したんだ、そう殺した、殺めたんだ。
自責の念を感じた俺は、王都へ戻るもそこで、行われる、魔王討伐記念パレードにも出ず、仲間である、フレア、ミハエルにも行き先も告げずに旅に出る事にした。
勇者としての旅では無く、ただ…あてのない旅に。
※※※
魔王を倒した勇者である事を、旅の最中は気付かれない、それはそうだ、勇者トウドウは王様に会わず、宮廷の吟遊詩人達も、俺の話より、フレアやミハエルの事を民衆に歌い聴かせる事だろう。
所詮、勇者の権威も王家の権威よりも下だ、いくら、魔王を倒した所で、王家からしたら勇者なんて都合のいい駒でしかない。
ああ……俺は何をしたいんだろう? 旅をして盗賊や魔物達を斬り払い、その場にいた被害者からは感謝されるも、ぽっかり空いた穴は埋まらない。
風が吹く、羽織ってるマントはたなびく、首まで伸びた髪もたなびく、風が吹くまま俺もあてのない旅に投じていけば……或いは、空いた穴は塞ぐだろうか? 町につく、ここは……以前、旅で通った事がある…確か、ル・グラン・ヴィルという名の町で商業が発達した町だったような、だが、人の気配がしない……どういう事だ? 以前は、人の往来が活発だったのが、まるで無い。
俺はとりあえず武器屋に入ってみる事にした。
すると、店の主人は最初は怯えているようだったが、俺はマントで隠れてた顔を晒すと、一転、喜んで迎えてくれた。
「あんた! 以前、ウチの店で買い物した、勇者様だろう!! 俺は覚えているぜ! 」
「そ、そうか、なあ、ご主人、何でこの町、こんなに静まり返っているんだ? 以前はもっと繁盛してたと思うんだが」
「それが……ガーネットと名乗る男が率いる魔族の集団が、この町を牛耳ってから、衰退する一方でさ」
「ガーネット!? それは本当なのか!」
「ええ…男はそう名乗っていました」
俺は心にメラメラと怨讐の炎が灯るのを実感する。
ガーネットは、あの時、俺の手で……ならば、名を騙っている奴が、この町で幅を効かせてるんだな。
ぽっかり空いた穴を激情の渦が塞いでいく、俺は主人にもっと詳しく聞く事にした。