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一週目

一週目


婚姻届を提出した夜、こんなはずじゃなかったと後悔した。何でこんなことになったのかと思い返してみる。

私たちは正午に役所に到着した。大安だから混んでいるだろうと恐れていたが、カップルは私たちだけだった。30分ほどで婚姻届は受理され、晴れて夫婦となったのだ。婚姻届を出しに来たカップル用のフォトスペースもあり撮りたいなあと思ったが、彼は乗り気ではなかったので人物なしで写真におさめた。


「夕食はお祝いだね。何食べようか。」

と盛り上がる。家を出る前に、私の退職祝いでいただいたシャンパンを冷やしてきた。ご飯の時間が楽しみで仕方ない。なぜなら、私は彼とのご飯の時間が好きで結婚したいという気持ちが芽生えたからである。新しい街で、二人で美味しいご飯の時間が送られることを楽しみにしていた。夫婦ともに魚好きであるので、お祝いメニューのメインはお刺身に、茗荷やネギをたっぷりと添えて。ごま油と岩塩で和えた水菜のサラダに、黒枝豆、もやしのニラナムルとじゃこおろし、しし唐の生姜醤油ときんぴらごぼう。おしゃれで映える色合いではないけれど、ロゼのシャンパンがあるだけで、特別感が出る。

問題はよりによって食事中であった。彼の職場の携帯がずっと光っていて、ほとんど会話がなかったのだ。忙しいのは理解していたので、そっと覗いてみると、職場の人の悪口を言っているではないか…。緊急の連絡ならまだしもと思っていたが、私との食事より職場の人とのLINEを優先していたという事実に、残念な思いが募る。しかし、言い合いになり雰囲気を壊すのはいやだなと思い、口に出すことを我慢した。二人とも酔っぱらっていたのでソファに移動して、夫にならって私も携帯をいじることにした。

すると、私の携帯を夫が取り上げ、LINEで怪しい人はいないか、浮気調査が始まったのだ。

そう、夫は束縛が激しく独占欲が強い。友だちのブロックリストから男の名前を片っ端から見ていき、問い詰められた。

「この男だれ」と尋ねられた人は、小学生の頃の初恋の相手だった。私は小学校卒業と同時に引越しをしたため、小学生の頃の友だちで連絡取りあっている人は少なく、時々連絡を取り合っていたのだ。お互い初恋同士ということもあり、卒業以来あったことはないが、そこには男女のトークのやり取りが残されていた。もちろん、夫と付き合い始めて連絡を取るのを止めたはずだが…。

そこから夫は口を利かなくなった。寝床は別々。もちろん寝室も別。

これが私の新婚生活のスタートであった。


二日目の今日は夫の仕事は休みで、二人で過ごすことのできる数少ない休日だった。私はいつも通り、洗濯や掃除、昨晩の洗い物などを片付けていたが、その間も、彼は部屋に閉じこもったままベッドでゴロゴロと携帯ををいじっている。このままでは一言も話さないまま休日が終わってしまうと思い、私は言った。

「不安にさせてしまってごめんね。でも、私は寂しかった。せっかく新婚一日目の夜ご飯、携帯いじってばっかりで、全然話もできなかったよね。寂しいよ。」

夫からの返事はなかった。そしてそれ以降話すこともなかった。


三日目。いってらっしゃいの見送りもしないでいると、午前中に夫からLINEが届いた。

「ごめんね」

「帰ったら話をしよう」と。

「わかった」とだけ送った。

どうしたら、仲直りできるだろうか、本当に私に非があるのか、非を認めてしまえば、私が悪かったことになるのではないか、いろいろと考えた。新婚という状況に浮かれているのは私だけであって、そこに男女の捉え方の差があるから、こういうすれ違いが起きるのか。とりあえず、夫が帰宅してすぐに謝ろうと思った。

「不安にさせるようなことがあってごめんね。何も怪しいことはないけれど、信頼を失うようなことをしてしまっているならごめんなさい。」

夫は何も言わず、お風呂へと向かった。

お風呂上り、何か話し合いでもするのかなと待っていると、以前のムッとしたような顔で、結局その日も夫から謝られるようなことはなく、私の謝罪に対する返事もなかった。


さすがにイライラしてきた。新婚の嫁の役目は、仕事で疲れて帰ってきた夫を癒すことだろう、という信念を持っていたので、爆発することはなかった。代わりに、あえて普通に接してやろうという結論に至った。

翌朝、夫を見送って、いつも通りに家事をこなした。夫のお酒が昨日の晩になくなっていたので、買っておいた。

夫が帰宅し、お風呂から上がった。急に近づいてきて抱きしめられた。私はちょろい。その行動だけで、やっと元に戻ったと安心してしまう。単純小娘だ。

「ごめんね」

やっと夫から謝ってもらえた。

「もっと俺のことわかってよ。」

と追加で一言。

あぁ。やっぱり私が夫のことをきちんと理解してなかったことを責められるのだなあと落ち込みそうになるが、これも経験済みだ。

いわゆる夫は、少々性格が曲がっており、自分の言うことが絶対だという亭主関白な面もあるくせに、精神面が弱いのである。出会って五年にもなるので、大体は理解してきたが、私も抜けている部分があるため、事前の対策が徹底できない。さらに、私は負けず嫌いだ。自分の主張を曲げたくないことが多い。

それでも一緒になったのは、ご飯の趣味が合い、美味しいを共有できる幸せな時間を、一生ともにしたいと思ったからである。

結婚指輪も、もちろん婚約指輪もないし、一緒に住み始めてデートにも行ったことがない。それでも幸せかと聞かれると、幸せだと答える。住みやすい家があって、好きなものを不自由なく食べられて、元気に過ごせている。

ただ、望むなら、指輪も欲しいし、結婚式を挙げて祝福されたい。デートもしたい。インスタグラムでよく見かける、私たち結婚しました~!みたいな幸せな写真も撮りたい。

でもそれをこの人には求めてはいけないと本能が言っている。「一緒にいられるだけで幸せだろ」というような気障な男なのだ。そんな男を選んだのも宿命。

今更になって、結婚は忍耐という言葉がずっしりと圧し掛かる。祖母からの、どんな時も仲良くね、という言葉にも重みを感じる。きっと夫の中にも、私に対するいろいろな思いがあるだろう。

これだけは確実に言える。

結婚前のわくわくした私の心の中にあった夫婦像は、今の私ではない。

好んで新婚生活初っ端から喧嘩したいというカップルもそういないだろう。そもそも理想の夫婦の捉え方は人それぞれだと思うが…

私は新婚第一週目に悟ったのである。


私たちは理想の夫婦にはなれないと。


To be continued...?

はじめまして!私shichimiが体験したことをずっと心に残っていたので、小説として書いてみました。

初心者なので、お手柔らかに願います…。汗 ただこの経験を通して、皆様がどう思われたのか聞いてみたいのでお時間あれば、コメントお願いいたします。

今後主人公が納得する人生を歩んでいけますように!

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