表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/161

第二十九話『準備の前のモチベーション』

『ま、まあ、それはともかくとして。歌を練習しようとしている理由は何なんです?』



 二人っきりで、照れくさい雰囲気をごまかそうとして、文乃さんに質問をする。

 歌を歌っている理由そのものは明かされていない。

 もちろん、カラオケは私とデートするうえで一番適した場所と言っても過言ではないが。

 個室を確保できるのがでかすぎる。



 文乃さんは、一転真剣な顔つきになり、口を開いた。



「歌枠をやろうと思っていて……」

『歌枠!?』

「そ、そうだけど、どうしたの?」



 いけない。

 ついつい大きな声を出してしまった。

 どうせ、文乃さんにしか聞こえてないだろうけど。

 いや、そうとも言えないか。

 このカラオケの最寄り駅、私の職場があったところなんだよね。

 つまり、私の声が聞こえる相手、「生前に関わった人間」がどこにいるかは未知数だ。

 せいぜいで一分かそこら関わっただけの文乃さんでさえ聞こえるのだから、ただすれ違っただけの人でも聞こえてしまうのかもしれない。

 


『すみません。ただ、しろさんが、文乃さんがやるとは思っていなかったので』



 歌枠というのを、永眠しろというVtuberはやったことがない。

 やったことと言えば、睡眠導入のための子守歌ぐらいのもの。

 カラオケでは度々こうして歌っているが、それでもなお配信上で歌うことはしないのである。

 


「あー、まあ確かに。君と出会う前まで、歌に碌な思い出なかったし」

『ああ……』



 文乃さんが何を言いたいのかは勘で察することができる。

 人は、早々歌わない。

 一般人ならばカラオケに行けばいいのだろうが、彼女は実家が厳しく、おまけに友達もいないのでカラオケに行くという選択肢は持っていなかった。

 となると、必然的に歌う機会はただ一点に限られる。

 合唱コンクールだ。 

 生徒が、あるいは児童が学校で、クラスが一丸となって歌う。

 子供にとっては一大イベントだが、文乃さんにとってはまた別の意味がある。

 そう、彼女の味方が一人として存在していない状態で。

 詳しくは聞いていないが、彼女にとって歌が苦痛であったことは想像に難くない。



 そう考えるとなおさら、どうして歌枠をやろうとしているのかと思ってしまう。

 わからないので、本人に聞いてみることにした。



「実はね……まあ君にも共有しておくべきだったかな」



 うんうん、と文乃さんはうなずいていた。



「実は、『がるる家歌リレー』に参加しようと思っているんだ」

『あー』




 がるる家。

 がるる・るる先生がイラストを担当したVtuber達であり、娘のことである。

 しろさんも、がるる先生にイラストを担当してもらっていたためにこの枠組みに含まれる。

 そして、がるる先生が仲介役となって、他のがるる先生の娘さんと、しろさんとコラボするようになった。

 がるる先生の娘さんは、しろさん以外は全員企業所属のVtuberであり、芸歴も登録者数もしろさんとは比べ物にならない。

 しかしながら、彼女たちはしろさんに対しても礼儀正しく優しかった。

 それゆえ、しろさんもコラボ配信を楽しく行うことができた。

 ゲームや雑談などのコラボを複数回行った後、がるる先生たちに誘われて、がるる家での歌リレー企画をすることになったという経緯だ。

 ちなみにだが、私も参加すること自体は知っている。

 何しろ、普通に通話してたからね。

 ヘッドホンを文乃さんは配信以外でほとんど使わないので、大体通話の内容は私に聞こえている。

 聞かれて困るようなことならその限りではないのだろうが。



『確かに、大型イベントですから、歌うことになれる必要はありますよね。ソロの歌枠は必須ですよね』

「そういうこと。そして当然、裏でのボイストレーニングや歌の練習も必要になってくる」



 さて、ここで永眠しろさんというVtuberの活動についてみてみよう。

 雑談とASMR配信を軸に時折ゲームをしたり、コラボ配信をしている。

 歌枠はない。そして、歌ってみたの様な動画を出したこともない。

 確かに、これではまずい。

 ぶっつけ本番でコラボ企画に参加するのはリスクがありすぎるし、リハーサルとして歌枠をあらかじめやっておきたいということだろう。

 加えて、他のがるる家のファンの中には、チャンネル登録者数の少なさや、企業に所属していないことから反発している層も少なくない。



 この辺、Vtuberがアイドルの延長線上にあるからというのも否定できない。

 アイドルの文化として、センターの取り合いというのがある。

 つまり、実力や人気があるものが重要なポジションに就けるということだ。

 そのため、ファンの間でも派閥や対立、分断が存在する。

 この流れがVtuberにも受け継がれており、登録者数が低く、後ろ盾も表向きは存在しないしろさんをよく思わないものもいる。

 


 逆に、今回の『がるる家歌リレー』を成功させれば、そういった空気も払しょくできる。

 がるる先生をはじめとした、がるる家のファンを取り込むことができる。

 そのためにも、準備を怠りたくないということだろうな。

 まあ、気持ちは分かった。




『ちなみになんですけど、これ他のがるる先生のコラボ相手からの了解は得てますか?匂わせになるような気がするんですが』

「それは大丈夫。直接言うわけじゃないなら、リークにはならないし、事前に歌配信するくらいなら問題ないって」

『なるほど』




 まあ、ぶっちゃけ他のがるる家の方たちも歌枠を取ると思われるので、たぶん察しがいい人とかは気づくだろうけどね。 

 しかし、新たな疑問がある。



『それだと、私がなおさら歌う意味なくないですか?』



 技術的な指導とか無理だし。

 むしろ、音痴よりなので邪魔だと思うんだけど。



「ある、歌が上手い人に相談したんだけど……モチベーションがまずは大事なんだって」

『え』



 つまり、その答え方は。

 私と歌うことがモチベーションを上げるための最善手というかのような。



『じゃ、じゃあ頑張りましょうか』

「う、うんいっぱい歌おうね!」



 かくして、半ばやけくそ気味のテンションで私たちは色々なアニソンを歌った。

 少なくとも、文乃さんの歌に対するモチベーションは、かなり上がったような気がする。

 まあ、ただの勘なのだが。




現在カクヨムというサイトにてコンテストに参加しています。

良かったらリンクをクリックして、応援をよろしくお願いいたします。

https://kakuyomu.jp/works/16817330649978711652



感想、評価☆☆☆☆☆、ブックマーク、いいね、お気に入りユーザー登録、レビューなどよろしくお願いします。


感想は「うぽつ」などお気軽にどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ