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第二十二話「女二人寄れば」

 ASMR配信までには、まだ時間があったから。

 私も、ナルキさんも広間で話すことにした。

 因みに、メイドさんには退出してもらってる。

 多分、何かあったら駆けつけてくるとは思うけどね。

 


 成瀬さんはもちろん、「彼」も把握していないだろうが、私が半年記念直前に脱走して以来、屋敷のほぼすべての部屋に盗聴器と監視カメラが仕掛けられている。

 本来は、私を逃がさないためのものだが、今は私と成瀬さんを監視するために使用されている。

 


「先輩がああして、話すようになったのはいつからなの?」



 一瞬誰のことだろうと思いかけて、「彼」のことだと気づく。

「私がデビューする前日です。購入したマイクが、いきなり話し始めて……」



 着替えようとした時に話し始めたことは、言わなかった。

 「彼」ほど鋭くないが、まあ私なりの勘という奴だ。



「ひとつ、訊いてもいい?」



 成瀬さんは、じっとこちらを見ている。

 どこか、顔には緊張の色が見える。




「な、何でしょう」



 美人の真顔というのは、迫力がすごい。

 『彼』にあわせるまでは、ずっと笑顔だったから、なおのことだ。



「先輩とは、どういう関係?」

「…………」



 質問の内容自体は予想していた。

 が、いざ訊かれると言葉に詰まる。

 『彼』に対しては、様々な思いがありすぎて、一つを選べない。



「最初、通話に乗った声を聞いた時は聞き間違いかと思った。視聴者たちも、リアクションを取っていなかったから幻聴かなと思った」



 私がアーカイブで、自分の配信を聞き直している時、『彼』の声は私には聞こえなかった。

 おそらく、リアルタイムで通話や配信をしている時だけ、聞こえるのだろう。

 まあ、念話とかいう非科学的なものだし普通の理屈が適用される類のものでもあるまい。

 


「何度も通話で声を聞いているうちに、彼氏さんか誰かが裏で指示を出しているのかと思うようになった。あの人に声が似ているとは思ったけど、もう既に亡くなっている人が話しているはずがないとね」



 最初に彼女がマイクになった『彼』の声を聴いたのは、私が熱くなりかけたのを制止した時だった。

 確かに、裏で指示を出しているという風にみられるのは自然なことだ。

 そして、男性の声である以上、彼氏と思われるのも無理もないことだ。

 また、顔が熱くなる。

 きっと今、私はトマトみたいになっているのだろう。



「そして、今日直に声を聴いてみて、|あの姿を見て《人ではないということを知って》、疑問が抑えられなくなったんだよ。目の前にいるのは、先輩なんじゃないかって」



 そして、本当にそうだった、というわけだ。

 『彼』は、成瀬さんの職場の先輩だった。

 偶然とは恐ろしいものだ。

 成瀬さんは、明らかに『彼』を慕っている。

 私は、会社というものをよく知らないが、おそらくはひとつの会社に勤めていて仲のいい人間などそう増えるものではないはず。

 部署が違えば、役職が違えば、直接関わることはあまりないと聞く。

 そんなごくわずかの人間が、Vtuberになって、こうしてオフコラボが原因で再会することになる。

 いったいどれほどの確率だろうか。

 まあ、片方はダミーヘッドマイクに転生するという確率が通用しないことをやってのけているわけだけど。


 

「だから、どうしても訊いておきたくて。きみと、あの人がどういう関係なのか」



 ーーそして、君は彼をどう思っているのか。

 私には鋭い勘はないので、彼女が何を考えているのかはわからない。

 けれど、私のとる行動は決まっている。

 『彼』と話すときのように。

 あるいは、視聴者に語りかけるように。

 嘘をつかないで、本心からの言葉を伝える。

 この問いに偽りをもって答えるのは、何よりも『彼』に対する侮辱だろう。



「別に、付き合っているわけではないです」



 少なくとも、そういう関係ではない。

 悲しいことに。

 


「『彼』とは友達で、相棒で、仲間で……。『彼』は私にとって一番大切な人です」

「そっか」



 成瀬さんは、何かに納得したようにうなずいていた。

 表情は、嬉しそうにほころんでいた。

 そんな彼女を見ていて、私も一つ気になっていることがあった。



「ひとつ、訊いてもいいですか?」

「いいよ」



「『彼』は成瀬さんにとって、どういう人なんですか?」

「あー、気になるよね」




「恩人なんだよね、私にとっては」


「私さあ、色々あってあんまり友達いなかったんだよね。それがきっかけで、就職にも失敗しちゃってさ」

「なるほど?」




 『彼』もまた、似たような事情から同じ企業に入ることになったと聞いている。

 そう考えると、腑に落ちない部分もある。

 そもそも、この性格で友達がいないだなんてあり得るのだろうか。

 成瀬さんはかなり社交的な性格だし、むしろ友達は多そうだと感じる。

 実際、多くのVtuberさんと積極的にコラボをしており、現在Vtuberの友人には事欠かないはずだ。



 友人ができないパターンというのは、概ね二つに分けられる。

 一つは、人と人との関係性においてプラスを重ねられなかったタイプ。

 いわゆる、コミュ障とか陰キャとか言われるタイプだ。

 もう一つは、大きなマイナスを他者に与えてしまったタイプか。

 どちらかと言えば、私の場合はこちらの方が適切だろうか。

 前者は、成瀬さんに限ってあり得ないだろう。

 となると後者か。

 彼女も、私のように孤立させられていたのかもしれない。

 いや、そこは追及すべきではないね。

 


「職場も、環境とか雰囲気とか最悪の職場でさ、ある程度先輩から聞いているかもしれないけど本当にやめる人とか病んじゃう人は当たり前のようにいたんだよね」

「うわあ……」



 もちろん『彼』から色々聞いていたのだが、改めて別の人の口から聞くとなおさらキツイ。

 成瀬さんの場合、普段が明るいからなおさら聞いていて辛いんだよね。



「そんなとき、唯一味方になってくれていたのが先輩だったんだ」

「そうだったんですか」



「でも、なんとなくわかる気がします」

「そうなの?」



 見たこともないのに、見える気がする。

 毎朝、疲れた顔で電車に乗り込んで会社へと向かい。

 昼間は、上司に怒鳴られたり、部下の面倒を見たりしてあわただしい一日を送り。

 夜は、ふらふらになりながら、書類のチェックと明日の準備をしつつ電車に揺られて帰宅する。

 彼は、人の心に踏み込んで、言葉を選んで、誰かを守るために奔走してきたのだろう。

 少なくとも、心から感謝している人が、私の前の前にいる。

 


 いつだっただろうか。

 『彼』が、『自分の人生は無意味だった』とこぼしたことがある。

 正直、私は命を救われたのでその言い方はどうかと思わないでもなかったが、それを言ってしまうと彼の死を肯定してしまうようで言いづらかった。

 なんだ、違うではないか。

 目の前に、死など関係なく『彼』が救った人がいるではないか。




「『彼』の話を聞かせてもらってもいいですか?」

「いいよ。そうだな、一緒に外回りに行かされたときにーー」



 それから一時間ほど、二人でおしゃべりをした。



 ◇




『……あの』

「どうかしたのかい?」

『いやあの、ふたりともかなり仲良くなってませんか?』



 私の部屋に戻ってきた私と成瀬さんを見て、『彼』が呟く。

 勘で判断したのか、あるいは余程私達がわかりやすかったのか。

 私たちは、声をそろえて答える。



「「趣味があったので」」

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