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第二十話「リアル・エンカウンツ」

 早音家の最寄り駅。

 ある意味では、私と「彼」にとって思い出の場所。

 ここから、ある意味私の人生は始まっているといっても過言ではない。

 一度くらいは、電車に乗ってみたいものだが、如何せん内海さんのリムジンで大体何とかなってしまうので、あんまり乗る意味がない。

 なので、結局十七年生きてきて、一度も電車に乗ったことがないというありさまである。

 まあ、誘拐対策の一環でもあるので仕方がないとは思うけど。



「お嬢様!お加減はいかがですか!」

「ああ、大丈夫だよ」

「それはよかったです!ところでお嬢様、緊張されていませんか?ハーブティをご用意させていただきますが」

「ふうん、せっかくだからいただこうかな」

「かしこまりました!この前雑談配信で美味しいとおっしゃっていたやつです!」



 因みに、今日はメイドの雷土さんも一緒だ。

 最初は、私の方から使用人たちとは距離を置いていたが、最近は色々会話をすることも増えた。

 というか、こういった仕事をするだけあってというべきか、氷室さん、雷土さん、火柱さんは全員Vtuberオタクである。

 なので、私の配信も仕事と趣味を兼ねてみてくれたりする。

 ほぼすべての私の配信を三人がかりで監視してくれているのは助かるのだが、

 まあ、雷さんはちょっと押しが強くて、時々私のーー「永眠しろ」の話をしてくるので恥ずかしくて悶絶してしまうのだけれど。

 「彼」にも指摘されたことではあるが、やはり私は褒められることに耐性がないのかもしれない。



 先日の脱走の件もあり私の外出の際には、内海さんとメイドさんの中からもう一人が付き添うということになっている。

 本来ならば、業務外のことであるはずだが、雷土さんたちは快く引き受けてくれていた。

 まあ特別に手当てが出るということもあるのだろうけど。

 


「まだですかね!」

「多分だけど、今来た電車に……ああ、やっぱりいた」



 私たちは、車の中で、駅の外で、とある人物を待っていた。

 その人物の顔はわからない。

 ただ、服装は本人からのメッセージで聞いているし、声も知っている。

 駅の出口を見ていると、聞いていた服装と同じ人物が出てきた。

 雷土さんに、ドアを開けてもらって、私はその人のところに歩いていく。



「すみません。成瀬キノさんですか?」

「あ、はいそうですよ。早音文乃さん、だよね?」



 その女性は、ジャケットにジーンズという非常にラフな格好をしていた。

 彼女の、リアルにおける本名は成瀬キノ。

 そして、バーチャルにおける呼び名は金野ナルキ。

 何度もコラボをしているVtuberであり、今日はじめてリアルで会う人である。



「じゃあ、改めて、今日のコラボもよろしくね」

「はい、よろしくお願いいたします」



 そして今日、オフコラボ配信をするVtuberでもある。



「それで、文乃ちゃんの家まではどうやって行く感じ?」



 こちらの緊張を知ってか、あるいは知らずにやっているのか。

 緊張感などないかのように、へらへらした態度を成瀬さんは崩さない。

 もしかすると、本当に緊張なんてしていないのかもしれないね。



「成瀬様ですね」

「うん?」



 いつの間にか、リムジンから雷土さんが出てきて成瀬さんの横に立っている。



「お初にお目にかかります。メイドの雷土と申します。お荷物お持ちいたします」

「え?メイド?マジ?」

「はい、マジでございます」



 いや、マジでございますはなんかおかしくない?

 というか、メイドさんって慣れてて気づかなかったけど、普通に考えてみたら異常だよな。大半の人は、おそらくコスプレぐらいしか見たことはないだろう。

 本物の家政婦など、ましてやメイド服を着た本物のメイドなどまず見ることはない。

 それは戸惑うだろう。

 まあ、言葉はともかく所作は堂に入っている。

 この人達、元々メイドが本職ではないはずなんだけど。



「うわすごーい!文乃ちゃんってもしかしてお金持ち?いいじゃーん!」

「えっと……いいんですか?」

「そりゃもちろん、お金があるに越したことはないじゃん」



 以前、成瀬さんはお金のために活動していると言っていた。

 私の境遇は、彼女にとっては羨むべきものなのだろうか。

 それとも。

 いや、無駄な思考はよそう。

 会話に思考を集中させるべきだ。



「そ、それにしても結構遠いと聞いていましたが、迷わずにこれたんですね」

「まあ、一応この駅には来たことはあったからね」

「……?」



 彼女は、ここからそう遠くないところに住んでいるという話だった。

 つまりは、別に彼女がたまたまこのあたりに来ていたとしても何ら不思議ではない。

 だがなぜか、言い方に違和感があった。



「このあたり、あんまりじっくり見れてなかったからさ、興味あるなあ」

「……?まあ、あまりいいところはないですけどね。ド田舎ですし」

「いやいや、いいところなんじゃない?のどかだし」



 疑問に思った。

 この近くまで来ていて、駅に来たことがあったはずなのに。

 どうして、彼女はこのあたりに詳しくないといったのか。

 まるで、彼女は駅だけしか知らないとでもいうかのように。

 駅に行っておきながら、駅にしか行かないということはあり得るのだろうか。

 それこそ、駅そのものに用事があるのでなければおかしい。

 普通に考えればあり得ない。

 思いつく可能性は、せいぜいで鉄道オタクぐらいだろうか。

 違和感が、ぬぐえない。



 そもそも……私は以前この人にあったような気がする。

 いや、違うな。どこかで見かけたような気がするというのが正確だろうか。



「山の上に家があるのか―。え、電波大丈夫なん?」

「まあ、一応配信者として不便がない程度には整備されていますので」

「そうなんだー」



 ちらり、と隣に座った成瀬をみる。

 おそらくだが、年齢は二十代半ばといったところ。

 私とは十歳近くの年齢差がある。

 年上の女性。

 いや、メイドさんたちも年上ではあるのだが、なんというかそれとはまた違うのだ。

 あくまで使用人と雇用主の関係。

 仲良くしていても、仕事がベースになっている。

 もちろん、仲良くしてくれている彼女らの振る舞いを演技であるというつもりはないのだが。

 だが、Vtuberどうしだとどこまでが仕事でどこからがプライベートなのかという境界線があいまいになってくる。

 だから、圧を感じるのだ。

 金色の髪を、背中まで伸ばしており、ファッションも大人びている。

 顔にも化粧が施されており、大人びた美しさが際立っている。

 彼女のことを調べた時、顔出しの配信者をやっていたといううわさもあったが、この容姿なら案外本当かもしれない。



「そういえば、訊きたいことがあったんだけど」

「何ですか?」

「文乃ちゃんさあ、彼氏いる?」

「ふえっ?」

「は?」




 思わず、変な声が出てしまった。

 顔がみるみる赤くなるのが自分でもわかる。

 あと雷土さんもなぜか動揺しているのはなぜなのだろう。



「い、いませんよ。何でそう思うんですか?」

「そっかー、そういう主張かあ。いやまあ、なんとなくね」

「?」



 煮え切らない回答をのこして、成瀬さんは会話を打ち切った。

 彼氏なんていない。

 「彼」とは明確にそういう関係になったわけではないし。



 ◇




「すごい大きな家だね―」

「そうですね」



 私達二人は、雷土さんに案内されている。まあもちろん私が案内できるのだけれど、一応ね。

 彼女は私を守りたいし、不測の事態に対応できるように監視をしておきたい。だから、こんなことになっている。

 とりあえず、広間に通される。

 両親が家に帰ってこないのであんまり使われてないんだけどね。



「さて、そろそろ機材を見たいんだけど。いいかな?」

「あ、はい。大丈夫だよ」

 


 部屋の中に入っていく。

 そして、机の上にあるダミーヘッドマイクを見る。



「おや、これがダミーヘッドマイクだね」

「ええ、そうですね」



 正直、嫉妬してしまうので他のダミーヘッドマイクを用意しようかと思ったのだが、流石に両親側に事情を説明できる気がしなかったので断った。

 マイクを他の人に取られたくない、というのは意味が分からないしね。

 バイノーラルマイクは他にあるんだけど、「彼」が一番品質がいいし、気分も上がるんだよ。



『…………』

「どうしたの?」

『え、ああまあ』



 奇妙だ、と感じた。

 普段ならば、私の言葉にはノータイムで返答してきた。

 だが今は完全に上の空だった。

 


 もしかして。

 成瀬さんに見惚れているのだろうか。

 私とは違って背は高く、胸も私より遥かに大きい。

 グラビアアイドル顔負けのナイスバディである。

 後で折檻するか。

 そんな風に考えた時、私は異変に気付いた。



「この、声」



 ずかずかと、「彼」のところまで歩いていき、ひざまずく。

 そして、「彼」の顔に触れる。



「先輩?」

『……成瀬さんですか』




 ……どういうこと?

現在カクヨムというサイトにてコンテストに参加しています。

良かったらリンクをクリックして、応援をよろしくお願いいたします。

https://kakuyomu.jp/works/16817330649978711652



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