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第五話『コラボ前に、違和感』

 季節は、三月。

 時刻は、九時前。

 今日も今日とて、文乃さんはパソコンの画面と向かい合っていた。



「緊張してきた」

『ですよねえ』

「食欲がない」

『ですよねえ』



 今日は、金野ナルキさんとのコラボ配信当日である。

 しろさんはDMに対して、是非コラボしたいという旨を返信。

 その後、日程の細かな調整が行われ。

 今日、コラボをすることが決まったという流れだ。

 さて、今日も今日とてしろさんは緊張している。

 初めてのことに対してはがちがちに緊張するのが常なので、もう私も焦りはない。

 とはいえ、何かしら言ったほうがいいだろうか。



『文乃さん、大丈夫、じゃないですよね』

「うん、そうだね。正直結構きつい。過去で二番目くらいにきついかも」

『そうですよね』



 コラボ配信は、これまでの配信とは趣向がかなり違うし、考えることも多い。

 どうやって声をかけようかと考えていたが、まとまり切っていない。

 ただの勘だが、今回は単純な言葉でどうにかなるようなことでもない気がする。

 



「っ!」

 


 時間切れか(・・・・・)。 



 スマートフォンのアラームが起動した。

 金野ナルキさんとの、打ち合わせの時間である。

 文乃さんは、パソコンを操作して、通話アプリを起動。

 ナルキさんへ、通話をかけた。



「初めまして、金野ナルキです」

「あ、永眠しろです。よろしくお願いします」



 ワンコールで、先日聞いた、大人びた声がした。




 ◇



「今日は、わざわざ来てくれてありがとうございます!」

「い、いえ。こちらこそわざわざ呼んでくださって本当にうれしいです」

「いやいやー、しろちゃんとお話してみたかったですからね。あ、しろちゃんって呼んでよかったですか?」

「え、ええ。大丈夫です」



 結構、ナルキさんはコミュ力が高いんだろうな。

 配信上ならともかく、まだ公共の場に出ていない通話の時点でもテンションが高い。

 Vtuberの中には、表、つまり配信や動画では明るくふるまっていても裏では暗い人も多いと聞く。

 というか、しろさんも若干そういうところがある。

 ヘッドフォンをつけて、配信を始めると人格が変わったように配信に没頭することができる。

 だが、普段はいささか抜けていて、緊張しいで、引っ込み思案で……世界一かわいい。そういう子だ。

 ただ、この金野ナルキという人物は彼女とは真逆。

 どうやら相当に明るい性格のようだ。

 なおかつ、距離の詰め方もうまい。

 文乃さんと話すのは初対面だが、無理をしている感じではない。

 多分、人と話すことに苦痛を感じないタイプなのだろう。

 まあ、ただの勘だが。



『…………』



 コラボ相手の人間性は、ある程度看破できた。

 裏表はなく、社交的で、相手を立てることもできる。

 これならば問題ない、はずだ。

 それとは別に、私はぬぐえない違和感を感じていた。

 ただしそれは、この金髪ドスケベメイドさんが悪いわけではない。

 ましてや、しろさんが悪いわけでもない。

 原因はむしろ、私だ。

 ASMR配信を聞いていた時にはわからなかったが少し、聞き覚えのある気がする。

 まあ、流石に気のせいか。

 そもそも仮にそうだったとしても、どうでもいいことだしな。



「あ、音声とかLive2Dが正常かどうかのチェックしていきますね」



 基本的には、打ち合わせと言ってもナルキさん主導で進んだ。

 機材に関するチェックや、事前に送られていたマシュマロに目を通したかの確認、さらにNG事項の最終確認など、淡々とこなしていった。

 結構、コラボ配信で場数をこなしているみたいだし。事前に確認していたアーカイブでも、対談コラボなどが多数あった。



「すごいですね……」

「あ、何でもいいから何か話して欲しいんだけど、いいですか?音量バランスを微調整したくて……」

「ええと、なんでナルキさんはVtuberになったんですか?」



 ここでいう、Vtuberになった理由とはメイドや死神といった設定的なものではなく、中の人がどうしてVtuberを始めたのかという質問だ。

 もしかすると、彼女はずっと訊きたいと思っていたのかもしれない。

 初めて関わる、同業だから。

 そんな、率直な文乃さんの質問を。

 考えようによっては、はなはだ失礼な質問を。

 彼女は、あっさりと答えた。



金になるからさ(・・・・・・・)

「……お金、ですか?」



 予想外の答えだったのか、少ししろさんが言葉に詰まる。

 まあ、しろさんの場合、現状普通に大赤字だからね。

 お金のためだ、と言われてもピンと来ないかもしれない。



「いや、本当にこの仕事はもうかるんだよ。椅子に座って、適当なこと喋るだけで、オタク共(・・・・)がジャンジャン金を払ってくれる。スパチャ最高!メンバー最高!ファンクラブ最高!って感じだよね」

「…………それは」

「あはは、軽蔑されちゃったかな。でもまあ、本当にこの仕事はいいもんだよ。自分の出した成果が、そのまんま金銭になって反映される。他の仕事だと、こうはいかないよ。いくら頑張っても、結果を出しても、得するのは一部の経営者層の豚共だけだ。死ねばいいのにね。死んで財貨を世のため人のために放出してほしい」

「……っ!」

『しろさん、落ち着いてください』



 さすがにまずいと判断して、私は声をかけた。

 緊張とは別の意味で、彼女の顔がこわばっている。

 それだけ、ナルキさんの地雷を踏んだということでもあるんだけどね。



『人には人の活動理由があります。ナルキさんはナルキさんですし、しろさんは、しろさんです。貴方は、貴方の道を行けばいいんです』



 一人一人、考え方が違うのは当然だ。

 だから、踏み込み過ぎるべきではない。

 今の状況は踏み込み過ぎたしろさんが、勝手に傷ついているだけだ。

 ここで、事を荒立てれば今後しろさんが誰かとコラボすることは難しくなる。

 それは、止めなくてはならない。

 彼女の理想を、たとえ彼女自身の感情であっても、邪魔してはいけないと思うから。



「ええと、しろちゃんはどうしてVtuberを始めたのかな?」



 さすがに言いすぎたと思ったのか、ナルキさんの方から話題を変えてきた。

 こういうところ、やっぱりプロってことかな。

 私は嫌いじゃないけどね。



「……私は私のやり方で、傷ついた人や疲れた人たちを癒したい。ただ、それだけです」

「……ふーん、そっか。そういえば、しろちゃんはメンバーシップとか導入してないもんね」



 いやちゃんと調べてるの凄いな。

 まあ、私達もやっていることだしお互い様かな。

 普通に考えて、何をしているかもわからない人と仕事なんて怖くてできないよね。

 個人事業主ならなおさらだ。



「さっきはすみませんでした」

「いや、気にしてないよ。喋れって言ったのは私の方だからね」

「ありがとうございます」



 少しだけ、ナルキさんの声が変わった。

 作ったような声ではなく、少しだけ砕けたような口調になる。

 多分だけど、本当に気にしていないっぽいね。

 まあ、ただの勘だけど。



 ……奇妙なことに、どうにも聞き覚えがあるんだよな。

 覚えてないだけで、配信を生前に聞いたことがあったのかもしれない。

 多分、きっとそうなのだろう。

 もう、配信が始まる。私も、しろさんの配信を聞くことに集中しなくては。

 しろさんの正確な心理状況はわからない。

 複数のことを同時に考えているなど、複雑な思考をしている時には私の勘は鈍くなる。

 イメージとしては、複数の色を混ぜると黒く濁るようなものだ。

 文乃さんが、カタカタとキーボードを操作する。

 通話アプリのメモ帳に、何か文を打ち込んでいる。




 そこには、「大丈夫だよ」と書いてあった。

 完全に吹っ切れたわけではないだろう。

 緊張も、それとは別の心のわだかまりも氷塊しきってはいない。

 けれど、私を、つまりは他者を気遣う余裕があり、なおかつナルキさんへの配慮も忘れていないということもまたしかり。

 つまり、解決しきれないまま、飲み込むことを選択した。

 彼女の、理想の実現のために。

 ならば。




『行ってらっしゃいませ、隣で見てますよ』



 こうやって、励ますのが私のすべきことだ。

 文乃さんは、こくりとうなずいて、ヘッドホンをつけた。

 文乃さんから、しろさんへと切り替わる。

 身にまとっているオーラが、変わる。

 パソコンの画面上で、配信がスタートしたことがわかる。

 かくして、永眠しろさん初の、コラボ配信が始まった。

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