4 商人との出会い
接待用の食堂は、与えられた15畳の部屋の10倍ぐらいの広さだ。
俺が嗅ぎつけた良い匂いの正体は、うなぎの蒲焼きだった。
驚いたのが、この食堂に招かれたのは、俺だけではないということ。
まあ、当然だろう。
いきなり現れた正体不明の男のためだけに食堂を開放するなんて、有り得ないからな。
この人たちは、どういう事情があってここにいるんだ?
なんだか、目が凄い光を放っているけど。
「あなたも豪商なのですか?」
ん、誰だ?
「ああ、失礼しました。私は、一橋邸の近くで薬屋を営んでいる、日野秋篤と申します。この一橋邸に招かれるのは、ほんの一握りの豪商のみ。ということは、あなた様も・・・」
「いいえ、違います。私は豪商ではありませんし、特別な称号を持っている訳でもありません。
ただ、保護されているだけです」
「保護されているだけ。そうは思えませんな。良い目をしていらっしゃる。貴方は将来、素晴らしい豪商になることでしょう。もちろん、その道を歩むことを望めば、ですが」
日野秋篤とやらは、意味深な言葉を言い残して去っていった。
ちょっと変わった人だな。
「お若いの、ああいう奴なんだよ、日野は」
髪に少し白髪が混じった男が、酔い潰れながら言った。
「日野の薬はよく効くぞ。日ノ本一だ。だが、性格はあんま良くねえ。それどころかケチだ」
そう言いながら、男は雉肉がのっている皿を、俺の方へ動かした。
「食べろ、雉肉はいいぞ。翌朝、便所から出られないことになるだろうがな」
男の隣に座る、まだ若そうな商人が、ぷっと噴き出した。
「やめてくだされ!食事中と言う言葉の意味をご存知か!?」
「ははっ、すまん。さて若造、問題だ。商人は士農工商で最も身分が低いのに、お偉方から差別されないのはなぜか」
「あなた方商人がいないと、経済が回らないからではないでしょうか?」
「その通りだ。後もう一つ、下級武士が借金できないからだ。俺たちは金融業にもちょいと手を出していてな。金を貸して、国家事業に貢献したことだってあるんだぞ」
国家事業、商人・・・
そうだ!
まずは江戸市中の財政を良くしなければ!