3 長き対談の終わり
「では、お知らせします。井伊直弼殿は後に、徳川家茂様を将軍とする為、慶喜様を将軍職に就けさせようとする人々を処刑・謹慎させます」
その場の空気が凍りついた。
「いつ頃起きる?」
「えっと・・・」
前世での、驚異的な記憶力(興味がある分野に限る)を総動員させて、安政の大獄というワードを探す。
「1858年に、井伊直弼殿が大老となった後に起きます。この政策では、徳川斉昭殿に永蟄居の処分が下され、慶喜様は謹慎を命じられます」
慶喜様の顔が、徐々に曇っていく。
「力で捻じ伏せようとするか、井伊。愚か者め」
慶喜様は、声から判断すると、怒りを感じている訳でも無さそうだ。
失望し、軽蔑したような、冷めた声。
俺は、背筋がゾクリとした。
「井伊は、政界に入るべきではなかったのだ。あのように、権力を持たせると悪になる奴もいる」
「阻止しますか?」
「ああ、もちろんだ。今すぐ江戸城に行って、あいつの頭をバシコーンと叩き・・・」
え、思ってたのと全く違う。
徳川慶喜って、逸話によるとポーカーフェイスじゃ無かったっけ?
しかも、バシコーンって。擬音語全開じゃないか。
まあ、それは置いておこう。
「それは賢明なこととは言えません」
「なぜだ?あのような愚か者は、脳に刺激を与えてようやく半人前になるのだ!」
「まあ、そうですね。でも、井伊直弼殿は顔が良いのです」
「あいつの顔のどこがいい?鼻がでか過ぎるではないか」
「いえ、そういう意味ではありません。強面なので、外国と交渉する際に役立つのです」
「外国?なぜ、外国と交渉をせんばならん?」
「1853年に、アメリカの軍人、マシュー・ペリーが浦賀に来航します。その時に、井伊直弼殿はおおいに活躍してくれることでしょう」
「ふむ、話が複雑だな。よし、詳しいことは明日聞こう。それまでに、私に話したいことの優先順位を決めよ。部屋は用意してある」
案内された部屋は、15畳ほどで、ふかふかの布団と文机があった。
とても良い部屋だ。
さてと、話したいことの優先順位っと。
安政の大獄とペリー来航については、既に知らせている。
だとすれば、1位は1858年の、日米修好通商条約の締結、だな。
勅許(天皇の許可)も無しにこの条約を締結したせいで、全国各地の倒幕派が増えたのだ。
2位は、王政復古の大号令。
長州らの暴走を食い止めるために、慶喜様は大政奉還を行った。
しかし、今までろくに政治を行わなかった公家たちは困惑し、最終的には慶喜を頼った。
実質、政治の主権を握っていたのは慶喜様なのだ。
また、長州の倒幕する名目を失わせる、という効果もあった。
だが、直後に王政復古の大号令が出され、再び幕府は混乱に陥る。
それは、全力で阻止しなければ。
3位は、孝明天皇の崩御。
公武合体にも積極的だった孝明天皇が崩御し、新たな天皇が即位すると、その天皇の外祖父が権力を行使し、幕府は滅亡したともいえる。
だって、その外祖父は勤皇派なんだもんね。
天皇の外祖父が実権を握る・・・藤原家と同じだな。
「霧麓様、お食事をご用意しましたので、こちらへ」
ん、ご飯?
なんか良い匂いが・・・
俺は小走りで、案内役の人についていった。
歴史を勉強すると、いっぱい年号出てきますよね。
私が考えた語呂合わせを、良かったらどうぞ。
1858年(858《はこは》2つある)
・安静の大獄 ・日米修好通商条約の締結