1 いつの時代の人ですか
ああ、ダメだ。どうしても集中できない。
パソコンに目を向けながら、先ほど淹れた珈琲を口に流し込む。
徹夜のお供と言えば、やっぱり珈琲だ。まあ、紅茶も悪くないけど。
え、なぜ徹夜をしているのかって?
そりゃもちろん、仕事。
ここ一ヶ月で売り上げが高かった商品を、ランキング形式にして、明日までに表にまとめろときたもんだから、徹夜以外に手段は無い。
プルルルルルルッ プルルルルルルッ
全く、こんな時に。一体誰だよ?
しかも今、午前2時だぞ?まともな頭じゃないな?
ということは・・・
『おーい、元気か!?』
やっぱり。幼馴染の宮岸憲孝だ。
「バーカ、元気な訳ないだろう。それに、電話切ってもいいか?徹夜で仕事終わらせなくちゃならないんだよ」
『嫌だね。きちんと聞いてもらわなくちゃ。あのな、『時間旅行』っていう
雑誌があるだろう?』
「ああ、知ってるよ。俺、歴史オタクなんだぞ」
『まあ、そうだろうな。実は、その『時間旅行』を刊行している会社が、幕末についての作文を募集しているんだってさ。そして、選考の末、見事優秀作に選ばれた場合は、本人が望むのであれば、面接無しで入社可能』
「正気か!?」
『正気だ』
「教えてくれて、どうも」
電話を切る。
よっしゃよっしゃ!!
ランキング作成?知ったことか。
クビになる?知ったことか。
今まで、『時間旅行』の刊行に携わることなんて、夢のまた夢だと思っていた。
何たって、おれは低学歴だからな。
でも、面接無しに入れるのなら、話は違う。小学生だった頃も、作文と歴史だけは得意だった。
インターネットで、応募規定を確認し、すぐさま作文書き始めた。
んっと、あれ?徳川慶喜が大政奉還を行ったのは、どうしてだっけ?
本で確認しよう。
えっと・・・
『徳川慶喜は、徳川家茂の後を継ぎ、長州の逆賊たちの撲滅に尽力した。また、自分の娘を天皇に嫁がせることにより、完全な公武合体を実現した人物でもある。他にも、1868年にアメリカへ親善大使を派遣したり・・・』
待て待て、おかしい。1868年といえば、戊辰戦争の真っ只中じゃないか。
しかも、徳川慶喜に娘なんていたっけ?
あれれ?あれ、あれれれ?
その時だった。
「強盗だ!手を上げろ」
噓だろ、ガチの強盗だ。
「誰なんだ?お前たちは・・・」
鋭い銃声が響く。腹部が焼けるように熱くなり、俺の意識は下へと沈んでいった。
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ん?ここは、どこだ?
目の前には立派な髷を結った男の人・・・髷!?
もしもし、いつの時代の人ですか?
謎の男性は俺に話しかけてきた。
「私は徳川慶喜。そなたは?」
え、徳川慶喜?え
えっ、ええっ?
霧麓流星
年齢 26歳
趣味 リバーシ 歴史を学ぶこと
好きな食べ物 ごま油のサラダ




