来年のさがしもの
消えたくない。
誰にも見られず、
誰にも気づいてもらえず、
誰にも知られず、
消えたくない。
そう思ってもボクは、大勢の兄弟達と一緒に、真っ暗な空から、明るいけど、だけど誰もいない寂しい夜の街へと降りていく。
街は街灯が煌めき、きらきらと明るく照らし出される。だけど寒空の真夜中を出歩く人はほとんどいない。
道を照らし出す明かりに映し出される家々も明かりの消えた窓ばかり。
だから見てもらえない。
気づいてもらえない。
誰にも知られず、ただ、ただ、僕たちは、地上に降りて消えていく。
見て欲しい。
気づいて欲しい。
知って欲しい。
そう願うボクはふと気づく。
一つだけ、小さくほのかな、微かな明かりが、僅かに漏れ出す窓があることに。
だから小さな身体を風に乗せ、そこへ向かおうと、手を伸ばす、届けと。
見つけて欲しいと願いながら、思いながら、気づいて欲しいと。
「くちゅんっ」
小さなくしゃみとともに、少女は目を覚ます。
暖かい毛布にくるまっていた身体や手足は温かいが、外を見ようと窓にくっつけていたおでこはすごく冷たかった
少女の住む街には、昨夜、今年初の初雪が降った。
ちらり、ひらりと振り降りる粉雪。
それはTVの映像でも、絵本の絵でも無く、少女が生まれてはじめて、自分の目で見た初めての雪。
空からは数え切れないほどに降りてくるのに、地上に降りたら消えてしまう小さな白い粒。
おとーさんがお外が雪で真っ白になるかもと言っていたのに、いつまでも白くならなくて、いつ白くなるのだろうと、いつもならベッドに入る時間を過ぎてもずっと外を見ていた。
時計の針が九時を過ぎても起きているとおかーさんに怒られるから、部屋の電気を消して毛布にくるまって。
サンタさんにプレゼントしてもらったばかりのケータイの微かな明かりで照らし出せる、小さな小さな窓の外を眺めていた。
いつ白くなるのだろう、いつ降りては消えてしまう白い粒は、消えなくなるのだろう。
だけどいつまでたってもお外は白くならず、雪は降りては幻のように消えてしまうだけ。
がんばって起きていたのに、気づいたらそのまま眠ってしまっていた。
でも寒くて起きたので、それはいつもと違う日。
まだお日様もちょっとしか顔を出していない、お部屋には時計の針の音だけが聞こえてくる静かな静かな、夜と朝の狭間の時間。
お外はいつもと同じで、真っ白にはなっていない。
「あっ」
がっかりしていた少女は、いつもと少しだけ違う事に気づいて、嬉しそうな声を上げる。
お部屋の外。窓のさっしの端っこ。
小さな小さな、少女の手よりも、指先よりも、爪よりも、さらに小さな小さな白い粒、雪の欠片が付いていることに。
それは僅かだけど、でも確かに今年初めて積もったひとかけらの雪。
首から提げていた愛用の虫かごを手にした少女は、初雪を捕まえようと窓を開けて手を伸ばす。
「あっ!? あぁっっ……」
だけど、少女の手が触れた瞬間、地上に降りた他の雪のように、初雪も幻のように溶けて消えてしまう。
確かにあったはずなのに、手で触れたはずなのに、消えてしまった初雪に、涙目になりながらも少女は決心する。
心のメモの捕まえたい物の欄に、来年のサンタさんの次に、来年の初めて積もった雪が書き込まれた。