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寝取られ令嬢の王子様  作者: 高宮 咲
寝取られ令嬢の王子様
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12.どうか幸せに

 アランが持ってきたケーキたちは、セレスとティナの胃袋に収められ、泣き疲れたセレスはその日早い時間に眠りに落ちた。朝一番に薔薇を届けに来る人に、これを渡してほしいとティナに手紙を渡してから。


「おはようございます、お嬢様」

「おはようティナ。渡してくれた?」

「はい、しかと」


手紙の内容はなんてことはない。折角来てくれたのに追い返して申し訳ない、ケーキをありがとう、美味しかったといった内容を書いただけ。セレスからアランへの初めての手紙だ。


「さあ、本日はサティア様のお茶会へ参加のご予定です」

「そうね。久しぶりだけれど、サティア様はお元気かしら」


最後に会った夜会ではあまり話すこともなく帰ってしまった。久しぶりに沢山お話をしようと、数日前から楽しみにしていたのだ。


「サティア様は婚礼がお決まりになったそうですね」

「そうね、おめでたいわ」


きっと、今日が独身最後のお茶会になるのだろう。これから嫁入りの支度に忙しくなるだろうから。今日は沢山お祝いをして、沢山お喋りをしよう。


◆◆◆


そう思っていたのだが、挨拶をして席について、お祝いの言葉を贈った途端、サティアは顔を輝かせながらセレスに詰め寄る。思わず顔を背けそうになる程良い勢いだった。


「聞きましたわよ!あの金獅子のゴールドスタイン様と婚約だなんて!」

「ちょっと待ってちょうだい、根も葉もない噂です!」


根も葉もないわけでは無い。求婚されているのは本当なのだから。だがそれを受け入れていないし、なんならこの間失礼にも追い返すという愚行を犯したばかりだ。


「というか、金獅子?」

「知りませんの?ゴールドスタイン家特有の金の巻き毛、飢えた獅子の様に剣を振るわれるお姿は正に金獅子と有名ですのよ」


何だそれは。半目になってしまったセレスだったが、サティアはうっとりと何処か遠くを見つめながら如何にアランが年頃の令嬢の憧れで、勇ましいかを語っていく。

聞いている分には「成程それは憧れるな」と思うのだが、残念ながらセレスの知っているアランとはかけ離れている。彼はいつも穏やかで、愛おし気に見つめて、大きくて暖かい手でエスコートしてくれるのだ。


「セレス様、お顔が赤いですわよ?」

「気のせいです」

「嘘を言っているわ。ティナ、何を隠しているのか吐きなさい」

「申し訳ございません、セレスティア様から直にお聞きください」


ティナに凄んだ所で無駄だ。勿論サティアも本気で凄んでいるわけでは無いし、無理に聞き出そうとは思っていない。ただ噂の真相が気になっているだけなのだ。


「ウィリアム様とのことがありましたし、まだお心が沈んでいるのではと心配だったのです」

「もう何とも思っておりませんわ」

「そういう嘘は感心いたしませんわね。お顔にしっかり出ておりますわよ」


紅茶を啜りながら、サティアが小さく笑う。流石に子供の頃からの付き合いだ。


「最近セレス様は夜会に出ておりませんし、一応念の為お耳に入れておきますわ」


すうと息を吸い込み、サファイアブルーの瞳が冷たく輝く。


「マクベスのあのお方。ゴールドスタイン様に鞍替えする気ですわよ」

「は…?」

「ウィリアム様よりも良さそうな殿方を見つけ、しかもセレス様と関りがある。婚約者を奪い取るような形になってしまったけれど、一度きちんと謝りたいだのなんだの言って、やけにべたべたとしておりましたわ」


サファイアブルーの瞳はより一層冷たく、光を失う。プラチナブロンドの髪と真っ白な肌を持つサティアの二つ名は氷の妖精。その名に相応しく、サティアの表情は冷たく恐ろしかった。


「そんな、聞いていませんわ。アラン様からは、そんな、なにも」

「あら、お名前で呼んでいらっしゃるのね」

「そこは今はどうでも良いではありませんか」

「ご安心を。ゴールドスタイン様はしっかり拒絶していらっしゃいましたから」


にんまりと微笑むサティアは、もう冷え切った顔をしていない。年相応の、可愛らしい笑顔だった。


「それよりも、ウィリアム様の事は聞きませんのね」

「え…」


言われてみれば、アランから何も聞いていないことに傷付いて、ウィリアムの事なんて忘れていた。言われて自覚するなんて、本当に愚かだ。


「お慕いしていらっしゃるのでしょう?」

「…そのようですわね」

「ああお可愛らしい!」


真っ白な頬をうっすらと赤く染めながら、サティアは興奮したように声を上げる。セレスに言わせてみれば、彼女は氷の妖精なんてものではない。もっと普通の、年相応の少女でしかない。ただ見た目が雪国出身者の血を引いているだけ。本当のサティアは、刺繍が趣味で、お茶会と言う名のお喋りが大好きで、少し涙もろい、優しい女性だ。


「サティア」

「なあに?」

「幸せにね」


貴方もねと微笑みながら、サティアはケーキを頬張る。彼女は一年後、侯爵家に嫁いでいく。友人の明るい未来と幸せを祈りながら、二人のお喋りは夕方まで続くのだった。


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