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第80話 仲間が転んだら躊躇なく魔法を使うすぅぱぁ最強魔法使い


 長い階段を駆け上がりながら、俺達は二階へと向かう。


 だが、まだ後ろ髪を引かれる思いだ。


 アタラポルトみてえな強敵相手に、あの二人は無事に勝つことができるのだろうか……?


 確かにヒューサさんの気持ちを考えれば、娘のメリカをあの場に居させるのは何としてでも避けたいのは分かる。


 だけど…………。


「あー! またおにーさん悩んでる~! 真面目な顔似合わなさすぎでしょ! あははは!」


 あれこれと悩みながら先に進み続ける俺を指差して、後ろにいたメリカが笑っている。


 コイツはさっきも今も、無理して笑顔を作っている。


 一番不安なのは、コイツのはずなのに。


 一番戻りたいと思っているのは……コイツのはずなのに。


 でもクムンやヒューサさんのために、そして俺のために、今こうして一緒に居てくれている。


 そして、一生懸命に明るく振る舞って、俺の背中を押してくれているんだ。


「貴方がクヨクヨしようがドンヨリしようがわたくしは構いませんが、それで背中に乗せているセクリナータ様を落としたりしたらぶっ殺しますわよ」


「別にお前は戻ったっていいのよ! すぅぱぁ最強魔法使いピアリちゃんが、この先に待ち受けている強敵だろうが魔王だろうが華麗に成敗してあばばばばば廊下であんだけ転倒してたんだから階段でこうなるのも当たり前あばばばばばば!!」


「お前ら…………」


 メノージャとピアリも、俺の足を止めないよう、何とかいつも通りを装ってくれている。いやピアリには多分そういうのないと思うけど。


 そうだ、前向きに考えよう。



 いくら強敵とはいえ、アタラポルト一人相手ならば、クムンとヒューサさんの二人だったらきっと大丈夫だ。



 俺としたことが考えすぎちまったな。


 さっさと魔王のところまで行って、ヒゲぶっこ抜いてやんねえと。


 少しだけ心に余裕を取り戻した俺の耳に、何かが聞こえてくる。


「な……なんだこの音? ゴロゴロゴロって……」



「ぴいいいいいいい!! お、お、お、お、お、お、お、おたすけえええええええええ!!」



 さっき転倒したピアリが顔中の穴という穴から体液を噴出させながら、四足歩行で階段を爆速で這い上がってきた。


 その後ろには…………



「はああああああああああああ!?」



 階段から天井まで、全ての空間を埋め尽くすような巨大な鉄球が、物理法則を完全に無視して俺達に迫ってきていた。


「あんなもんに潰されたらひとたまりもねえ…………逃げろ!!」


「うひゃああああああやだやだやだやだ!! あたし高いところもキライだけど走るのはもっとイヤなんだよぉ!!」


「つか何だよあのバカデカい鉄球……初めて見たぞ! アタラポルトの仕掛けか!? アイツが作ったにしては科学もクソもねえパワーごり押しのバカみてえな……」


 そう言いながら首だけを後ろに向け、よく目を凝らして鉄球を見ると……。



『すぅぱぁ最強魔法使いピアリちゃんのとっておきメガトン鉄球くん! 悪用厳禁だゾ!』



「お前が作った仕掛けじゃねえかポンコツ阿呆使いゴラアアアアアアア!!」


「なななななななぬうっ!? あっ、そういえば一昨日ぐらいにおいしいお漬け物が食べたいなと思って」


「つけもの石として作ったの!? 絶対にサイズ感がおかしいだろ! あんなもんに上から押さえつけられたら漬け物が窒息死するわ!!」


「確かにっ!! てかあんなに高速で転がってる鉄球くんの文字読めるとか動体視力えげつないわねお前!! ご両親が猛禽類(もうきんるい)なの!?」


 よく見たら鉄球の横にウインクしてるピアリの顔みたいなイラスト書いてない? 腹立つ……!!


「ぐああああもう足が限界だ! こうなりゃ作ったお前が責任持って受け止めろピアリ!!」


「ムリに決まってるじゃないあんな馬鹿デッカい鉄の塊!! すぅぱぁはいぱぁ総入れ歯魔法使い誕生記念日になるわよ!!」


「じゃあ作戦変更だ!あの鉄球をドデカいパイオツだと思って(むさぼ)れメノージャ!!」


「いや作戦内容的には何も変わってませんわよそれ!! いくらわたくしでも豊満な球体なら何でも見境なく飛び付くわけではありませんわ! あまりヘンタイを無駄撃ちしないでくださいまし!!」


「クソッ、ならどうすりゃいいんだよ! あんなバケモンみてえなサイズの鉄球、止めらんねえぞ!!」


「どんなに止まってほしいと願っても無慈悲に動き続けるんだよおにーさん! そう、それはまるで、夕焼けの見える海辺で偶然出会った片想い中の人と、とりとめのないことを話しながら二人きりで過ごす甘酸っぱいひとときのように」


「いや表現エッッッモ!! ヒトが必死こいて走ってる時に胸キュンさせてくんなや邪魔くせえな!!」


 セクリを背負いながら全力疾走している今の状況、正直かなりキツい。


 それに気のせいか、あの鉄球もさっきより速度を増している気が……。


「みなさんっ……あちらを見てくださいまし!!」


 メノージャが前方を指差す。


 ずっと先に扉のようなものが見える。


「良かった……とりあえずあそこまで突っ走るぞお前ら!!」


「はひ……はひ……もう、体力が限界……! だけど、あんなのに潰されたくない!! うおおおお!! メリカ=テレットちゃんの火事場の馬鹿力をナメるなああああああ!!」



「メリカ…………テレット……?」



 最後尾を走っていたメリカの方を、ピアリが静かに振り向いた。


「ふぇ? き、急に怖い顔してどしたのピア…………うわっ!!」


 ゴールまであと少しの所で、今度はメリカが転倒。


 その瞬間、後ろの鉄球は、まるで意思を持っているかのようにスピードをもう一段階上げた。


「メリカ!!」


 くそっ、助けが間に合わねえ……!!


「うわあああ!! イヤだ、あたしこんなところで死にたくない!! 父さんに会う前に、死にたくな」



「『テレポート』」


 

 一言だけそう呟いたピアリの姿が消え、どういうワケかそこには、俺達よりずっと後ろにいたはずのメリカが現れた。


 そして、先ほどメリカがいた位置には……。


「ピ…………ピアリッ!!」



「ウチのことはいいから早く行って!!」



 今までの様子からは想像できない剣幕で叫ぶピアリのすぐ後ろに、容赦なく鉄球が迫る。


「チッ…………お前ら走れっ!!」


「ピ、ピアリが、あたしを助けて…………いやあああ!! ピアリィッ!!」


「ッ……メリカさん、ご無礼をっ……!!」


「いやっ、離してメノージャさん!! ピアリが!! ピアリがぁ!!」


 俺の言葉を無視してピアリに駆け寄ろうとしたメリカをメノージャが抱え、俺達は先を目指す。


 そして、ようやく扉まで辿り着くと、それを蹴破り、転がり込むようにして二階の最初の部屋に入る。


 すぐに後ろを警戒するが、鉄球の音はしない。ここまで来ることはなさそうだ。


 ひとまず安全な場所に逃げ込めたことで、大きく息をつきながらその場に座り込む。


 だけど…………。


「うっ……ピアリが……ピアリが、あたしのせいで……」


 メノージャの腕の中で泣きじゃくるメリカを見て、胸が痛くなる。


 アイツは……ピアリは、メリカの名字を聞いた途端に、露骨に顔色を変えた。


 そして一切の躊躇なく、メリカの身代わりになることを選んだ。


 何で、そんなことを……。


「……気にすんな。こうなったのはお前のせいじゃねえよ、メリカ」


「そ、そうですわ! それに、あの方は誰よりもタフですから、きっと……きっと無事ですわよ……」


 こんな言葉、今のメリカにとっては気休めにもならない。


 俺もメノージャも、そんなことは分かっていた。


 最悪だ。



 俺はついに、仲間を一人失ったんだ。



 一周目にはなかった悲しみ。



 一周目にはなかった苦しみ。



 一周目にはなかった、絶望。



 とても受け止めきれない現実に打ちひしがれる俺達を嘲笑うかのように、緑色の大きな物体が、重厚な足音を立てながら近寄ってくる。


 耳を(つんざ)くような、ドリルの摩擦音ともに。



「テメエは…………グリゴリ……!!」



 どうやらこの城には、体力を回復したり、死んだパーティーメンバーを復活したりできるセーブポイントなんて、設置されていないようだ。


 現実はゲームよりもずっとハードで、ずっと残酷だった。


 巨大な鉄球からやっとの思いで逃げ切った先は、獣のナワバリの中。



 絶望ってヤツは……まだまだ続くらしい。







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